第9話 グラディス②

 

 じゃあなと手を振り合うと、イーデンは石造りの神学科の建物へ戻って行った。明日の夕方、グラディスと会う段取りを付けてくれるとのことだった。持つべきものは友だなあ。


「それにしても知らなかったな。グラディスが神学科在籍だったなんて」


 俺は小さな村出身だけどあっちは街出身で特に共通点もなかったし、卒業後どこで何をしているのかなんてまったく知らなかった。まさか、こんなに近くにいるなんて。


 そしてその翌日の夕方。

 俺は神学科の前の庭でグラディスが出てくるのを待つことにした。基本、どの学科も建物の作りは同じだ。神学科の石造りの建物も、緑色の蔦でびっしりと覆われていた。


 しばらくすると、こっちに向かって歩いてくる人影が見えた。

 男並みの長身で、小麦色の長い縮れ毛を後ろでひっつめ、鼻の周囲にはそばかすが点々としてる女の子。剣か乗馬の訓練でもしていたのか、丈の長いチュニックにズボンというスタイル。たぶん、あの子だ。俺は大きく手を振った。


「グラディス! 君、グラディス・クレインだよね?」


 書物を小脇に抱えたグラディスが近づいてくるにつれ、だんだんと俺の視線が上がっていく。

 やっぱりでけぇなあ……。俺の頭ひとつぶんくらいは背が高いかもしれない。高等科の時より一段と身長伸びたんじゃないのか……?

 グラディスは俺の前で立ち止まると、人懐こそうな笑顔を見せた。


「イーデンから聞いたよ。あんた確か……えーっと……。同じ高等科の……」

「そう、久しぶり。元気そうだね」

「うん、ごめん、その……名前、何だっけ?」


 グラディスが「えへへ」と照れながら頭を掻く。……うん、いいんだけどね。俺、影薄かったし。


「あ、思い出した。スミス。ジョン・スミスだよね? となりのクラスだった」

「……エドガーだよ。エドガー・リンネ」

「あー、そうそう。エドガーだったよね、いやー、ごめんごめん!」


 グラディスは調子良くへらへらと笑ってごまかしやがった。「ン」以外、一文字も被ってないじゃないか。うん、だんだんと思い出してきたわ。確かこんなガサツな女の子だった。


 とりあえず、今は名前を間違われたことに怒っている場合じゃない。俺は気を取り直して、グラディスに向かい合った。


「それより、イーデンから話聞いてると思うけど。今日はグラディスに聞きたいことがあって来たんだ。少し、時間ある?」


 グラディスは笑顔で了承してくれた。木陰に置かれているベンチに二人で座ると、俺はカバンから、例の磨き布を取り出した。

 

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