第6話 子守りのバイト②
そう言って少年はにっこりと微笑んだ。
子供は感受性が強いっていうし、この不思議な話も何かのごっこ遊びなのかもしれない。なら、それに最後まで付き合ってあげなきゃな。なんたってバイトなんだから。
俺は割り切ることにして、真剣な顔でエミルに向き合った。
「ねえ、エミル君、だっけ」
「エミルでいいですよ」
「じゃあエミル。そういう能力ってさ、つまり神官様みたいに精霊の声を聴く事ができるってこと? それとも魔術の一種か何かなの?」
「さあ。僕はそういうのは詳しくなくて……。ただノエルの話によると、物そのものが泣いているんじゃなくて、誰かの想いが物に染みついた結果、泣いているように聞こえるらしいんです」
誰かの想いが物に染みついた、か。
木や花に宿る精霊とは、やっぱり少し違うみたいだ。
「でも、他の誰かがさっさとこの磨き布を買っていってくれたら、泣き声も聞こえなくなるんじゃない? それまで我慢すれば……」
エミルは首を横に振った。
「ダメなんです。ノエルは一度聞いた泣き声は、どんなに遠く離れてもずっと聞こえ続けるみたいなんです。根本的な問題が解決するまで、ノエルは泣き声を聞き続けなきゃいけないんです」
「根本的な問題かあ……」
俺は頭をがしがしと掻いた。
「っていうか、俺がこの道具屋に持って来なきゃ、こんなことにはならなかったってことだよね……」
「まあそうですけど、過ぎたことを嘆いても仕方ありませんから」
思わずため息がこぼれた。
それってつまり、完全に俺のせいじゃないか。俺が道具屋にこんな物を持ちこまなきゃ、ノエルが辛い思いをすることもなかったんだから。
俺が頭をがしがし掻きながらため息をついていると、エミルが少し身を乗り出してきた。
「エドガーさん。これの泣き声を止める手伝いをしてくれませんか?」
「止める手伝いって? 俺、魔法とかそういう素養はまったくない普通の人間なんだけど……」
「安心してください。そんなのは必要ないですよ。僕だって魔法なんかまったく使えないですから。ただ元の持ち主に会って話を聞いてくれるだけでいいんです」
「えっ、話を聞くの? 俺が?」
目が会うと、エミルはにこっと笑った。
うん。ねえ。
なんか君、人使い荒くない?
なんだか俺が思っていた以上に面倒な子守りになりそうだった。
元はと言えば俺がこの磨き布をこの道具屋に持ってきたせいだし。この子守り自体バイトなんだから、手を貸さない理由はなかった。でも俺も学生で勉強もあるし、もうすでに別のバイトもしているし、本当かどうか分からない子どもの話にどこまで付き合っていいものか……。
どう答えようかと迷っていると、エミルが口を開いた。
「初対面の僕が話を聞くより、知り合いのあなたが話を聞いた方がいいと思うんです。それにイルミナお姉ちゃん、僕らのことをすごく可愛がってくれてるんです。きっとバイト代、はずんでくれますよ?」
「うっ……」
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