第88話転移者の懇親会
グランバルさんにルイロウ領へ至る道の出来映えを報告し、領主館から軍の屋内訓練場に向かいます。
とはいえ訓練をしに来たわけではなく、使節団などが帰り情勢もひと段落したので月山部長と計画をした転移して来た日本人の懇親会です。
まあ懇親会と言っても来るのは日本人だけではなくプレモーネに住んでいる商家の人や既に日本人を雇っている職人さんやお店の人も呼んでいます。
この会でお互いの親睦や今後店などを開店させた際、役に立つようにプレモーネの人との繋がりを持って貰う事も目的の一つとなっています。
とはいえ、転移して来た日本人全員がお互いを知っている訳ではないので顔合わせもかねています。
月山部長が事前に手回しをしていてくれたのに加え日本で食べられてた料理や酒、スイーツが出されるという事で欠席者もなく全員が集まってくれました。
今回、料理を作成してくれた料理人で洋食の内田さん、和食の丸山さん、パテシエの野上さん、それに料理経験のある人が数人で料理を作り、バーテンダーの北山さんや居酒屋なんかで働いた事のある人が酒のコーナーを担当してくれています。
うん、懇親会なのに働いてくれているので、そこは月山部長と相談して多目に給料を出す方向で不公平を解消する事で働いてくれている人には納得してもらっています。
とはいえ各自順番に休憩がてら懇親会に参加してもらう予定です。
全員が集まった所で月山部長が自己紹介と挨拶をして懇親会がスタートします。
そして今回の懇親会一番の目的である各自の自己紹介を順番に全員の前でしていきます。
会場はガヤガヤしていて聞いているのかは分かりませんが、とりあえず全員の前で自己紹介というある意味自分からしたら拷問ですが皆さん思い思いに自己紹介をしていきます。
とりあえず自分もさらっと自己紹介をしましたが、皆さん料理とお酒、そして雑談に夢中なようであまり注目されませんでした。
最初は同じ宿舎同士で固まって雑談をしていましたがしばらくすると皆さんバラけ始め、気が合いそうな人たちと雑談を始めています。
「武内君、今回の懇親会は成功だな」
そう言って声をかけて来たのは月山部長で皆さんが思い思いに笑顔で料理や酒を楽しみ雑談をしている姿を見て満足そうです。
「そうですね、実際少し懇親会を開くのが遅かった気がしますが、成功と言って良いと思います」
「確かに、とはいえ金に食材に酒、会場の手配まですべて武内君任せで申し訳ない」
「それは全然気にしなくていいですよ。自活をしろと言い出したのは自分ですから」
「そう言ってくれると助かるが、それにしても野田君の周りと冒険者志望組の所に人が結構いるのが心配だな、俺も私もと言い出されても私には止められんからな」
「そうですね、野田課長の周りは不満がある人達が集まっているんでしょうね」
「不満か、だからと言って纏まって愚痴を言い合っても何も現状は変わらんのだがな」
「まあ愚痴や文句を言いたいんでしょう、放っておくしかないと思います」
「そうは言うが・・・」
「それよりも冒険者志望組の件ですが、ギルドマスターのバンズさんに頼んで信頼できる冒険者への依頼をするつもりです」
「依頼?どういう事だ?」
「まあ依頼内容は、日本人の冒険者志望の人への戦闘訓練、魔物の探し方、倒し方、罠の仕掛け方に、野営などのノウハウを指導してもらう感じです。まあそこそこのレベル上げも依頼に含みますが」
「ノウハウの指導か、それだけで大丈夫なのか?」
「まあ何のノウハウもなく冒険者を志望されるよりはノウハウを学んだ後なら危険は減るでしょうし、冒険者志望を諦めて別の仕事をする人も居るでしょうから」
「ただそれだと冒険者を目指す奴が今以上に過剰な自信を持ってしまわないか?」
「それはもっともですが、ノウハウを知らないでフラフラされるよりは安心ですし、そこは本人達次第ですね。」
「本人達次第か、どうも聞いてる限り安心とは言えそうにないな」
月山部長の心配はごもっともなんですが、こればっかりは本人達が冒険者をすると言って森に行って魔物狩りをしている現状ではノウハウを学ばせた方が生存率も上がりそうな気がするので、そこは月山部長には納得してもらうしかありません。
そう思いながら会場を見回すと、確かに冒険者志望組の痛い人達や野沢さんなどの周りに人が多い気がしますが、その他の人達もそれぞれのグループを作っていたり、プレモーネの人と歓談しているし月山部長の言う通り今回は成功のようです。
自分は冒険者志望組にギルドへ依頼をする件を伝えに向かいます。
冒険者志望組が話す輪の中に加わろうとすると痛い人が目ざとく自分を見つけ声をかけてきます。
「お~、失礼な奴、来たか、この前紹介してもらった滝山さんのおかげでキャンプのノウハウを結構学べたぞ!」
そう言いながら痛い人が手を振っています。
「いや、とりあえずさ、なんで懇親会の参加するだけなのにその格好してるの?必要ある?」
「当たり前だろう、俺は冒険者なんだからク〇スを着てておかしい事は無いに決まっているだろう。」
うん、駄目だ、頭の中まで痛い人だ・・・。
「まあ、本人がいいならもういいよ・・・。それはさておき、冒険者志望組の人って誰が纏めてるの?」
「纏める人?そんなのは居ないぞ、大体数人でグループを組んで森に行っているから、たまに会ったら情報交換するくらいだ」
「そうなんだ。何グループぐらい居る?」
「そうだな、俺の知ってるだけで4グループだ、まあ他にもいるかもしれんが」
「じゃあ痛い人に頼みがあるんだけど、とりあえず冒険者志望組が何グループあってソロの人が何人居るかを調べて欲しいんだよね」
「なんで俺がそんな事をしないといけないんだ?」
「まあ冒険者志望組の中で痛い人が一番顔が利くと思うからね、それに冒険者志望組の人達にはギルドの熟練冒険者から色々なノウハウを学んでもらう機会を用意させてもらいたいんだよね」
「熟練の冒険者からか?」
「そう、それなりに経験のある冒険者を指導教官の替わりに1週間ぐらい指導を受けられる機会をね」
「それは助かるが、そんなのをギルドがしてくれるのか?」
「それはこれから自分が依頼を出すから問題は無いんだけど、冒険者を志望する人達には生存率を上げるため出来る限り全員ノウハウを学んでほしいんだよね」
「それは確かに、因みに俺たちも含まれているのか?」
「うん、そうだよ、滝山さんからアウトドアを少し学んだと言ってもこの世界の森で野営するとなると日本でするキャンプとは違うからね」
「わかった、そういう事なら喜んで協力させてもらうが、俺はどうすればいい?」
「とりあえず、グループが何組あるか、ソロは何人いるかの確認だね、あとソロの人には数人一組で指導を受けてもらうからその旨の伝達と組み分け、まあ大体3.4人一組で組み分けしてほしいね。あとはそのグループでギルドに行って日程を決めるんだけど、とりあえず明日ギルドに話を通すから明後日以降にギルドで日程調整とかしてもらう感じだね」
「わかった、じぁあ今から俺達のグループで調べて話をしてくる」
そう言うと痛い人は自分達グループの仲間に話をしに行ってしまいます。
あとは痛い人に任せておけばいいか、そう思っていると、痛い人との話を聞いていた冒険者志望組の人からも声をかけられますので、とりあえず趣旨を話します。
どうやら自分達でも泊りで森に行くノウハウも無く毎回森に行っても日帰りなのが不満だったようで、皆さん食いついてきます。
これで冒険者志望組も自立できるでしょうし稼ぎも増える事でしょう。
そう思いながら歓談をしていると痛い人が帰ってきます。
「おい、失礼な奴、人数確認とグループ分けが終わったぞ」
「そういう痛い人の後ろの方に何人か人が居ます」
誰も連れてこいとは言ってないんだけどな・・・。
「で、どのくらいだったの?」
「ソロは7人でグループが6組で合計31人だ」
「じゃあソロを2グループに分けて8組だね、じゃあ明日依頼をしてくるから明後日以降にギルドに行って日程等をきめて。まあ一気に8組は無理だろうからまずは予約からだね」
「わかった、じゃあ皆には明後日以降ギルドに行って予約をするように伝える」
「あとは質問とかある?」
そう言い痛い人が連れて来た人たちからの質問に答えて疑念を解消します。
うん、これで明日ギルドに依頼するの忘れてたら絶対恨まれるな・・・・。
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