第105話 それはいわゆる、両片思い - 01 -
三ヶ月ぶりのラーゲン魔法学校では、帰省を終えたばかりの学生がひしめきあっていた。
校門を抜けたすぐ先にある広場には、久々の再会に沸き立つ学生達が、寮の自室に戻ることもせずに立ち話をしている。
そんな生徒達の合間を抜けながら、食堂に向かおうとしていたオリアナ達は声をかけられた。
「おーい! オリアナ、ヤナ、アズラクー! 元気してたか?」
荷物を足下に置いたまま、広場で男子生徒と話していたルシアンが、大きく手を振っている。ルシアンの横にはカイもいた。二人とも、長期休暇前と大して変化は無い。
オリアナも手を振り返し、ヤナ達と共に近付いていく。
「ルシアン、長旅お疲れ様」
「まじ疲れたわー。うち、辺鄙なところにあるからさぁ。あ、これ土産。ヤナも」
「お、ありがと」
「ありがたく頂くわ」
王都に居住を持っているオリアナやカイと違い、領主の息子ルシアンは長期休暇は必ず領地に戻る。
「アズラクも」
「ヤナ様と一緒でかまわない」
「何言ってんだよ。ほら」
ん。と差し出されたお菓子を、アズラクは苦笑しつつお礼を言って受け取った。ルシアンはこういうところがあるから、日頃無神経なことを言いまくっていても、可愛がられるのだ。
「あー皆ー! いたいたー!」
「エッダ……引っ張らないで……もぉ無理。酔った……」
「あとちょっとですわよ、ハイデマリー! 頑張ってくださいな!」
エッダ、ハイデマリー、コンスタンツェの姦し三人組も到着したようだ。
「ハイデマリー大丈夫?」
「魔船路で本読んでたら、酔った……」
千鳥足でよろよろと歩いてくるハイデマリーを、オリアナが支える。男爵家の娘であるハイデマリーもまた、領地から長旅をして帰ってくる。
「ありゃりゃ。医務室行く? 荷物、私が持ってってあげるから、休んでるといいよ」
ハイデマリーとオリアナの寮は、棟が違う。二つ離れた棟だが、何度か遊びに行ったこともあるため、部屋の場所も覚えていた。
「いやいい……ちょっとここに座る」
自分の荷物を抱え、へたりこんだハイデマリーの腕を、カイがぐっと引いた。
「わっちょっ……」
突然立ち上がらされたハイデマリーが、よろめきながらカイについていく。
「ねえ。ここ空けて。病人」
「あっ、はい。すみません」
すぐそばにあったベンチに荷物を置いて立ち話をしていた生徒が、カイに話しかけられて慌てて荷物をどかす。下級生だったのだろう。かわいそうなぐらいに急いでその場を離れた。
カイは自分が持っていた荷物をベンチに置き、ハイデマリーを座らせた。
「それ、枕にしていいから」
「あんがとー」
ハイデマリーはベンチに横になり、カイの荷物に顔を埋めると、ひらひらと手を振る。
エッダとコンスタンツェは顔を見合わせると、ルシアンに言う。
「わかった? あれが、モテよ」
「あれが出来ないから、ルシアンはいつまでも童貞なのですわ」
「お前らな!? カイだって童貞だからな!? 俺はそう信じてるからな!? なあ?! カイ」
「始業日から大声で何言ってんの……まじ引くんだけど……」
ドン引きしたカイがルシアンから離れる。
(あー……これ見ると、帰ってきたなって感じするなぁ……)
ほのぼのとした気持ちで皆を見ていたオリアナは、こことは違う意味で一際騒がしい一団を見かけた。
ここから少し離れたところで、男子生徒が二人、女生徒に囲まれていた。
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