第40話 ホログラム再生
大騒動になったのは次の日の朝だった。通いの召使いが大声で叫びながら駆け込んできた。
「ジャ、ジャンポール様が、ジャンポール様が……」
三の兄様が政庁前広場でどうこうと、さっぱり要領を得ない話に首を捻っているとき、さらにもう一人駆け込んできた。二人の話を纏めると三の兄様が政庁前広場で誰かと戦って負けているというのだ。そんなはずはなかった。三の兄様は2~3日うちにメキストに送られる予定で今は自室に軟禁されていた。監視の目をくぐって外へ出ることができるほど機敏ではない。
私と一の兄様が政庁前広場に確かめに行くことになった。召使い達の話から何かあることは確からしいので、鎖帷子を着込み、剣を腰に吊って行くことにした。一の兄様も同じように武装していた。
政庁前広場に着くと1カ所だけ人が集まっているところがあった。7家の一つ、リアデギール家の館の壁の側だった。私兵とともに近づいてくる私達に気づいて群衆がばらけた。紋章からメジテの人間と分かったのだろう、何か妙に意味ありげな視線を投げてくる人間も居た。群衆はばらけたがその場を立ち去る者は殆どいなかった。遠巻きにして私達を見ている。まるで面白い芝居を見るように。
しかし群衆が囲んでいた所には何も無かった。私は眉をひそめた。
「いったい何だ、ここには何も無いではないか。何故お前達は集まっているんだ?」
一の兄様が手近の男を捕まえて詰問した。男は目を付けられて慌てたように、
「いや、あ、あのつまり、そこに」
男は群衆が囲んでいた場所を指さした。
「変な光景が現れるんで」
「変な光景?」
「へっ、メジテの若様と傭兵みたいなのが争ってるんで……」
「なに?」
一の兄様がそちらに視線を向けたとき、丁度あの再現魔法が始まった。
前に見たときより短かったがそれでも三の兄様が斬りかかっては転び、最後に息を切らせて四つん這いになるところまでが再現された。一の兄様は唖然とした様子でそれを見ていた。傭兵の顔は靄が掛かっているようにぼやけて人相は分からなかった。そして再現魔法は唐突に終わった。
今の光景に呆然としている一の兄様より私兵達の方が立ち直りが速かった。私はメジテの私兵に命じて、集まった群衆を追い払った。
「てめえらの見世物じゃないんだ、帰れ、帰れ」
人々は邪険に追い払われるのにブツブツ文句をたれ、面白い見物だったなどと言いながら散っていった。少し離れたところで立ち止まって私達を見ている者もかなり居た。
私は三の兄様と傭兵の戦いの様子が再現されていた場所を念入りに調べてみた。わざわざしゃがみ込んで、手でさわる様なことまでしたものの敷石には変わったことは何も無かった。しかし、リアデギール家の館の壁に変なものがついているのに気づいた。子供の拳大の丸っこい筒のようなものだった。1/3程がガラスのような透明感のあるものでできていた。壁に突き立った、何で作られているのかよく分からない棒に固定されていた。
私と一の兄様は、私兵達にここに人を近寄らせないように命じて館へ帰った。そのよくわからない筒のようなものも棒に固定したままで持って帰った。妙に気になったのだ。
再現魔法がまた作動したのは私が門を抜け、正面玄関まで歩いているときだった。唐突に目の前で始まった再現魔法に吃驚して手を動かすと、目の前で戦っている三の兄様と傭兵も動くのだ。彼らの動作と関係なく、筒先の向いている方で再現されていることにすぐに気づいた。それではこれが再現魔法用の魔道具なのだ。
家に持ち込んだその魔道具は一定の時間毎に再現魔法を作動させた。父上や母上もあきれた様子でそれを見ていた。
「この傭兵、メジテに宣戦布告しているのだな」
お父様が怒りに拳を振るわせながら吐き捨てた。あんな所で、大勢の目の前で、この光景を何度も再現させるつもりだったのだ。メジテ家の面目を徹底的にたたきつぶすために。
「後悔させてやるぞ」
お父様の言葉はその場にいた全員の気持ちだった。
「おかしいわね」
お母様がその魔道具を手に取りながら言った。
「この魔道具、作動しているときでも魔力の動きが全然感じられないわ」
魔力操作では一族の中でお母様が一番だった。私にもそれが疑問だった。私に魔力の動きが感じられないのは未熟だからかと思っていたが、こいつは魔法で作動しているわけではなさそうだ。
結局再現の魔道具は5日間一定時間毎に同じ場面を再現して、止まった。
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