第178話 聖剣使いと聖剣使い

「来たね 二代目くん」


 早朝、約束のバトルルームへと足を運ぶリン。


 約束通りやってきた二代目聖剣使いに、初代聖剣使いは笑顔で迎えるが、雑談も挟まずに本題を直ぐに入った。


「返事を聞こうか……もっとも君の返答は僕の期待するものじゃなさそうだけど?」


「そういうことだ」


 炎がリンを包み込む。握られた火の聖剣。それが答えだった。


「これが答えだ 俺は戦う……これが俺の選択だ・・・・・


「……もう少しお利口さんかと思ったけど」


「期待するなよ? 『同じ顔』なんだから」


 二代目聖剣使い『優月ユウヅキ リン』と、初代聖剣使い『リン・ド・ヴルム』が相対する。


 同じ名前と顔。だが性格も生きた時間も、生まれた世界も違う二人。


「へえ……顔つきが変わったね」


 この短時間で何があったのか、それはわからなかったが、以前とは『何か』が違う事を察した初代聖剣使い。


「ならば応えよう 君がいかに無力なのかをその身に刻め」


「知っているさ……それでも『戦う』って決めたんだ」


 火の聖剣『フレアディスペア』を構え、初代聖剣使いと対峙する。

 強さは知っていた。無闇に斬り込むのは失策であろう。


(それでも……!)


 リンが先に斬りかかる。向き合うだけではこの状況は変わらない。隙を晒す事が無いのであれば、自分から勝負を挑んで隙を作らせるしか無い。


「何か変わったのかなって思ったけど……気のせいだったのかな?」


 聖剣を出す事も無く・・・・・・・・・、初代聖剣使いはリンの聖剣を避ける。


「この程度で勝とうと思ったの? 随分甘いじゃないか」


 拳を振りかざす。一撃で仕留める為に。


「……アンタこそ 俺を甘く見すぎじゃなかい?」


「!?」


 攻撃は読まれていた。どこから、どうのような角度を狙ってくるのか、知っていた・・・・・


「ハッ!」


 聖剣で振り払う。当たりはしなかったが、引き離す事は出来た。


「やったぜアニキ!」


 そしてレイは、モニタールームから二人の戦いを観戦していた。


「にしても皆なにやってんだ? 誰も観戦に来ないし……」


 ここにいるのはレイのみで、他の仲間がいない。


 不思議に思いつつも、兄貴分のリンの勇姿に胸を高鳴らせる。


「流石はアニキだぜ……初代の攻撃を躱すなんて」


「それは……そうでないと困るでござる」


「なんだよやっと……って? なんで皆疲れ果ててんだよ」


 漸くやって来た仲間に、レイは遅れた理由を早速聞こうとしたのだが、皆揃って目の下に『隈』を作ってやって来たのだ。


「いや……だってねぇ?」


「オレらさっきまでずっと『特訓』に付き合わされてたしな……」


「特訓!?」


 レイと別れた後、リンは仲間達へと頼み込んでいた。


 水の魔法のシオンに、風を扱うムロウと雷を操るの雷迅。


 そして剣術に優れたアヤカを同時に相手をし・・・・・・・、少しでも初代の強さに、対抗できる為の『特訓』を、陽が登るギリギリまで付き合ってもらっていたのだ。


「でもなんでチビルまで?」


「オレ様はなんかあった時の治癒要員だと……だからオレ様も寝不足で……」


「おりゃあ少しだけリンさん・・・・の戦い方を知ってたからそれ教えたりな」


「あの野郎……一朝一夕で身に付けられるはずないってのに」


 雷迅の言う通り、たった一晩で強くなれる筈など無い。


「さっきまでって……じゃあアニキ徹夜!?」


「二代目曰く「その前に一週間寝てから大丈夫」だとさ」


「いやそういう問題じゃ……」


「それでもリンは……やれることはやりたかったのよ」


 力の差を見せつけられた。だが戦うと決めた、だから全力で抗うのだ。


「でもまあ……頑張って貰わないと困るでござるよ 拙者の弟子でござるからな」


 モニター越しに皆が戦いを見届ける。誰もが皆リンの勝利を祈って。


(ここか!)


 そして二人の聖剣使いの戦いは、より熾烈さを増していた。


 特訓のおかげかそれとも迷いを振り払った為か、リンの攻撃は躱されはするが諦めてはいない。

 隙を探り、そして捉える。防戦一方だった戦いの筈が、火の聖剣が初めて初代の服へと掠めた。


「おっと」


 初代は風の聖剣を呼び出し、リンから即座に離れて態勢を立て直す。


「……出したな? 聖剣を? つまり少しは認めてくれたってだよなぁ?」


「君のことは認めているよ……君の『弱さ』もね」


 聖剣を出したという事は、初代も攻めに入るという事。


 握られているのは風の聖剣『ゲイルグリーフ』である。持ち主の『速度』を極限まで高める風の力。


「来い……『アイスゾルダート』」


 今は距離が離れているが、この程度の距離など一瞬で詰められてしまう。


 リンは二本目の聖剣『アイスゾルダート』を呼び出し、地面へと突き立てると、氷の壁がリンの周りに展開される。これならば相手からの急接近を防ぐ事が出来だろう。


 そして、この壁にある唯一の『死角』を狙うであろう場所もリンは分かっていた。


(上だ!)


 攻めて来る場所をある程度予測出来るのであれば、対処する方法も導き出す事が可能である。


 氷の壁は、相手が乗り越えてくるであろう事を前提の高さにしてある。狙い打つ場所は決まった。


「幼稚だよ この程度の壁なら……」


「──ッ!?」


突き破れば良い・・・・・・・


 目の前に立ち塞がる氷の壁を、初代は『正面』から突き破る。


「搦め手はね 純粋な力の前には無力・・・・・・・・・・なんだよ」


 力の差を埋める為も搦め手だったが、それは裏目に出てしまった。

 完全に油断した『死角を超える』抜け道。リンは接近を許してしまう。


「くっ!?」


 だが一瞬だけ防御の為の猶予があった。氷の壁を突き破った時の僅かな時間。その時間でなんとか防いだのだ。


「火の聖剣『フレアディスペア』……会いたかったよ」


 リンが最初に手にした聖剣。ここまで生き残れたのも、この聖剣のおかげである。


「久しぶりだね 君と見た絶望・・・・・・を忘れるわけないさ──『タリウス』」


(タリウス……?)


 火の聖剣で初代からの攻撃を防いだリン。攻撃は防いだ。今も防いでいる。


「……おかえり」


「なんだと!?」


 元の『賢者に石』へと戻され、石は初代の手元へと渡る。


 奪われたのだ。


「何を驚いてるの? 君よりもずっと長く・・・・・聖剣を扱っているんだよ?」


 今まで相手にした事が無かったからこそ、リンは完全に失念していた。


 聖剣を"奪われる"という事を。


「これで僕の聖剣は『五つ』だね 君と逆転した」


 この場にある聖剣は九つ。全て揃っている。


 リンが土、氷、木、闇を所持し、初代が水、風、雷、光に加え火を奪った・・・


 本来ありえないこの戦い。これは云わば『聖剣の争奪戦』でもあったのだ。


「どんどん出しなよ 全部返してもらうから」


「なら……俺も奪えばいいんだな?」


「やれるものなら……ね?」


 火と風の聖剣を構え、二刀流となった初代に対して、リンは氷の聖剣に加え土の聖剣『ガイアペイン』を呼び出して対抗する。


「聖剣の担い手としての覚悟……君にあるのかい?」


 灼熱の炎を纏い、嵐の如く荒々しい風の如く、聖剣を振るう。


彼らの遺志を継ぐ・・・・・・・・ かつて僕が選んだ道」


 聖剣使いとしてのきっかけとなった戦争。九賢者の遺した・・・力を受け継ぎ、戦争を終わらせる為、その力を振るい続けた。


「この力を授かったときから僕は『英雄』になる必要があった そうでなければ世界を救えない……英雄となったその日から『戦い続ける』事から逃げられない」


 戦争において、英雄とまで呼ばれる活躍をした。


 それは、沢山の『命』を奪った事でもある。


「間違っていたとは思わない でもその『正しさ』に押し潰されそうにもなる」


 激しさを増す攻撃に、押されていくリン。


「戦うというのは『正しさ』の否定だ 自らを肯定して他者を否定するからこそ争いは生まれる……それは『魔王』も同じ事」


 魔王には魔王の考えがあってこそ、魔族と共に世界征服を決めた。


「君は"勝たなくてはならない"んだよ 負ける事は許されない それは強さだけじゃない……『心』の強さもだ」


 確固たる信念を持つ相手。己の信じたからこそ戦う覚悟を決めた。


 負けてはならないのは力だけの話しでは無く、相手の正しさに押し負けない、自らの心の強さの事である。


「君は全て劣っている……力も心も『弱い』のさ!」


 リンは押し負け、後ろへと吹き飛ばされる。


(しまった!?)


「戻って来たね『レグルス』 僕は君の痛み・・・・を忘れていないよ」


 手から離れてしまった聖剣を、初代は拾い上げ、レグルスと呼んだ土の聖剣『ガイアペイン』は石となり、初代の手に渡ってしまう。


「これで『六つ』……まだやるかい?」


 次々に奪われる聖剣。


 リンの残りの聖剣は、残り『三つ』だけである。

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