秩序機関『ギアズエンパイア』

第167話 到着『ギアズエンパイア』

「えへへ~アニキ~」


「……はぁ」


 対魔王軍に向けて、各地から兵力が集められている『ギアズエンパイア』を目指し、リン達聖剣使いは馬車を走らせてから暫くが経った。


「暑苦しいんだが……」


「良いじゃあないですか~シオンとアヤカには・・・・・・・させてたんでしょう?」


「いや別にさせてたってことは……」


「……させましたよね?」


(怖い)


 馬車内では、レイがリンの腕にしがみついて離さない。


「では拙者も……」


「シャーッ!」


(これは威嚇でござるな)


 アヤカは調子に乗って便乗し、リンと腕を組もとするが阻まれる。


「もう……あれから三週間は経ってるっていうのに」


 御者をしているシオンがポツリとそう呟く。


 町を転々としながら、ギアズエンパイアを目指して早三週間。それまでにあった出来事をレイが知ってからというもの、こうしてリンから離れる事を辞めない。


まだ三週間・・・・・だ! アニキはオレのだもんね!」


「お前のでは無いけどな」


 リンはそう講義するが、聞く耳持たないレイはまったく離れる気配を見せない。


「お~お~妬けるね~ユウヅキ~? 責任持って結婚しちまいなよ」


「たまにはいいこと言うじゃあねえか雷迅!」


「他人事だと思ってコイツ……」


「まあここまで二代目のこと好いてくれてんだから贅沢言いなさんなや レイちゃんだって顔『は』良いんだし……」


「顔『も』だ……そうだろオッサン?」


「ハイ ソノトオリデス」


 余計な事を言えばレイの無慈悲な銃弾が飛んで来る。もはやリンが無理矢理引き剥がす事も、誰かに助けを求めるのも不可能であった。


「ここで良いニュースです あと少しでギアズエンパイアに到着だと思わ」


「ようやくか……」


「え~じゃあ遠回りしましょうよ~」


「本末転倒だろうが!」


 この時間を終わらせたくないレイが無茶な我儘言う。


「直ぐそこまで来てるんだろう? だったら見えてくるんじゃあないか?」


「う~ん今はまだ目視は無理かな 誰か双眼鏡でも持ってない?」


「ならオレ様が持ってるぜ」


「丁度良い ちょっと見てくれないか」


「はいよっと」


 小悪魔であるチビル専用の小型の双眼鏡では、チビルにしか覗き込めない為、確認はチビルに任せる事となった。


「どっち?」


「右の方角よ」


 位置を確認し、覗き込むチビル。


「何か見えるかよ小悪魔?」


「……ちょいと急いだほうが良いぜ」


「どういう意味だ?」


 確認するチビルの声色から、ただ事では無いことを察する一行。


 今は遠くて見えないが、チビルの覗いた双眼鏡にはその光景が飛び込んでくる。


「ありゃあ……『機械兵』だぜ オレ様達が何度も戦ってきた」


「魔王軍か……!」


 魔王軍がとある科学者を仲間に引き込み、量産した『機械兵』の集団が、ギアズエンパイア周辺に跋扈している光景であった。


「戦いの準備をしよう シオンはなるべく速く走らせてほしい」


「わかったわ」


「ンの野郎……折角のアニキとの時間を」


「……魔王軍にぶつけてくれ」


 怒りに燃えるレイ。


 ギアズエンパイアまでもうすぐだというのに、魔王軍の魔の手がここまで及ぼうとしている事に対して、リンは不安を覚えつつも気持ちを切り替える。


「ここがギアズエンパイアね……あの高い壁の中にあるみたい」


「にしてもここなんだよ? もしかして『廃棄場』じゃあねえか?」


 不快感を口にする雷迅。それは皆も同じであった。


 ライトゲートのように大きな壁で中の様子が見えないが、ここがギアズエンパイアだと言われても、この場の光景を見る限りはそうは見えない。


(捨てられているのは……機械の残骸か?)


 山積みになっているのはどれも壊れた『機械』と思われる代物ばかり。


「!? 前方に機械兵!」


 ここがギアズエンパイアである事を証明するかのように、機械兵は姿を見せる。


「ここがどこだろうが関係ない……倒すぞ」


「異議なーし!」


 真っ先にレイの弾丸が機械兵の頭部を破壊し、銃声を聞きつけた別の機会兵達が集まってきた。


「サポートは任せてください! 銃の腕には自身大有りです!」


 ライフルを構えたレイが次々に機械兵達を狙撃していく。


「生身と違って張り合いは無いでござるが……それもまあ良し」


 機械で作られた体を、容赦なく斬り捨てるアヤカの斬撃。


「まっ軽い運動だと思って倒しますかねぇ」


「おいおいオッサン? 無茶して腰やらかすなよ?」


「安心しな それぐらいのハンデならお前さんよりも多く倒せる」


「……言ったな? なら勝負といこうか!」


「最初からそのつもりだったくせに」


 ムロウと雷迅の二人は勝手に勝負で盛り上がる。どれだけ敵に囲まれた状況下であろうと、誰一人として余裕を失う者はいなかった。


「シオン 馬車を任せても良いか?」


「了解よ チビルもコッチで良い?」


「オレ様は戦力じゃあねえしな リン達に任せるぜ」


 移動手段を失わない為に、シオンに馬車を任せる事にしたリン。


「チビル お前が見た時の機械兵の数はどれぐらいだった?」


 シオンに付いて行くチビルに、確認した機械兵がどれぐらいいたのかの訊ねる。


「えーと……いっぱい?」


「成る程 行っていいぞ」


 具体的な答えは返ってこなかった。


「……いっぱい頑張るか!」


 氷の聖剣『アイスゾルダート』を呼び出し、構える。


「今更お前らに……手こずると思うな?」


 聖剣は形を変えて『槌』へと変化し、機械兵達を粉砕していく。


 氷で身動きを封じ、動けいないところを叩き潰す。


「オラァ!」


 押し寄せる機械兵達を難なく相手にするリン達。


「おうしこれでこれで丁度二十!」


「勝った おりゃあ今ので二十一だぜ?」


「まだまだいるんだ……一体差なんてすぐ上回れる」


「それもそうか……」


「お前ら真面目にやれ」


 余裕があるどころか有り過ぎる二人に、リンは呆れながら言う。


「固い事言うなよ お前も参加すればいいじゃん!」


「悪いが数えてなかった」


「ならハンデが必要かい二代目?」


「冗談だろ?」


 右手で槌を握り、左手には木の聖剣『ローズロード』を呼び出したリン。


 すぐさま形を『鎌』へと変化させて、機械兵達を刈り取る。


たった二十体差・・・・・・・だろう? すぐに追いつく」


「ハッ! 言うじゃあねえか!」


「そっちがその気なら……おじさん本気出しちゃうもんね?」


 より一層凄まじい勢いで機械兵達を捻じ伏せていく三人。


「丁度いいぜ! おあつらえ向きにスクラップ置き場に最高な場所じゃあねえか!」


 雷迅の放つ電撃が、機械兵達をショートさせる。


「ちゃんと解体作業も忘れずに……だぜ?」


 ムロウの纏わせる風が、風の刃となって切り裂く。


「全部粉々にすればどうでも良いだろ?」


 氷の槌は機械の体を叩き潰し、木の鎌は一振りすると同時にバラバラに引き裂いてみせた。


(にしても本当にたくさんいるな……もしかして壁の中に入れなくて立ち往生してたとかか?)


 倒しても倒しても湧いて出てくる機械兵達を見て、前にも結界で中に入る事を防いでいた『ド・ワーフ』の事が頭をよぎる。


(だとしたらここの防衛も結界に匹敵する『何か』がある筈だ……機械の発展した場所とは聞いていたが関係があるのか?)


「ギャアアア!? たっ助けて~!」


 そんな事を考えながら戦っていると、突如悲鳴がリンの耳に入ってくる。


「うあ? なんだ今の情けない悲鳴?」


「ちょいと遠いとこから聞こえたなぁ?」


「アニキ! 人がいます!」


 レイが指差す方向に人が襲われていると言うが、ここからだとリン達には見えず、銃のスコープ越しでしか確認が出来ない。


「なんでこんなところに人が……とにかく助けてやってくれ」


「アイアイサー!」


 レイの精密な狙撃術があれば、遠距離から狙い撃つ事など容易い。


「俺が助けに行こう 援護を頼むぞレイ」


「もちろん!」


「おい勝負はどうすんだ?」


「それなら拙者が引き継ぐでござるよ」


「げっ アヤカちゃん」


「こんなこともあろうかと拙者も数えてたでござるから」


(何を想定してたんだ)


 気にはなりつつもそのまま場を預け、救助へと向かったリン。


 襲いかかってくる敵を倒しながら、難なく悲鳴を上げた者の元へと辿り着く。


「大丈夫か?」


 怯えていたのか頭を押さえて蹲っていた青年は、リンの言葉を聞いて自分が助かった事に気づいた。


「あっ……あれ? オレってば助かったんッスか?」


「間に合ってよかったよ」


 おそらく同い年ぐらいであろう青年が、リンの差し出した手につかまり、立ち上がる。


「まったく何すかアイツら! 人見るなり襲ってきて! 失礼なヤツらッス!」


「まあ魔王軍だしな」


 何を当たり前の事をと思いつつ、青年の無事を確認して安心するリン。


「ん? なんだかアナタどこかで見た事ある顔ッスね……?」


「一応この顔で『二代目聖剣使い』って事で通ってるからそれかと」


「ええ!? アナタが!? お会い出来て光栄ッス!」


 リンの手を握って、感激したのかブンブンと強く振るった握手をする。


「申し遅れたッスね! オレはジャンです! 『ジャン・マイズ』って言います!  ここギアズエンパイアの開発部で働いてるッスよ!」


 その紹介で、ここが間違いなくあの秩序機関と呼ばれる『ギアズエンパイア』である事を、リンは再認識した。

 

 

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