第160話 共闘

「最初に言っておく……俺の足は引っ張るなよ?」


「流石は魔王様だ 俺の台詞を代わりに言っていただけるなんて」


 リンの横に立つ憤怒の魔王『サタン』と。


「どうやら二人でなら私に勝てると思っているようだが……どこからその自身は湧いてくるのか? 私には理解できないな」


 リンの目の前に立ち塞がる傲慢の王『ルシファー』の二人の魔王に立ち向かう。


「その『傲慢』……万死に値する 覚悟は良いか? 聖剣使いと魔王サタンよ?」


 本来は敵同士だというのに、今はこうして肩を並べていた。


「アンタこそ覚悟しな 今からお前の羽全部捥いでやる」


「魔王は一人で良い……お前は邪魔だ」


 サタンが光の剣を造り出し斬りかかる。


「遅い遅い……」


 片手で軽くあしらう。ルシファーがサタンに攻撃しようとするが、邪魔が入る。


「一人に気を取られるなよ」


 氷の聖剣と木の聖剣。二振りの聖剣を構えたリンがルシファーへと斬りかかり、攻撃は中断されたのだ。


「鼠が……調子に乗るな!」


 光の球体で身を包み、二人から身を守るルシファー。


 これで手も足も出ない。後はこのまま光の力を解放すれば、広範囲に対して聖剣使い達に攻撃できると考えていたのだが、その考えは甘かった。


「何度も言わせるな……俺には『視えている』んだよ」


 リンの眼は今相手の急所を見抜く力が宿っている。


 木の聖剣『ローズロード』が与えた力。それがたとえ命ある物でなくとも、こうした『魔法』にさえ発動する。


「そこだ!」


 視認した魔法の微かな綻び。そこを突く。


「今だサタン!」


「命令するな」


「なっ!?」


 リンがルシファーを守る光の球体に罅を入れ、魔王が力で叩き割る。


「随分と小心者ではないか……魔王の名が廃るぞ?」


「おのれぇ!」


「その『傲慢』……悔い改めろ」


 二振りの聖剣を持ち変え、火の聖剣と土の聖剣を手に斬りかかる。


「聖剣二刀流……『煉土炎山れんどえんざん』」


 炎を纏う聖剣を叩きつけ、爆発を起こす。


 その衝撃に耐えられず、ルシファーは後ろへ吹き飛ばされる。


「ぐっ!?」


「俺も巻き込む気だったな?」


「次は気にするな」


 即興の組み合わせであり、そのうえこの二人は敵同士。


(なんだ……何故私が膝を突いている!?)


 信じられないと、ルシファーは怒りを顕にする。


「私はルシファーだぞ!? この世でもっとも誇り高き堕天の王! 傲慢を掌る魔王だ! だというのに……何故お前達は私の邪魔をする!?」


「言った筈だ……魔王は二人もいらない」


「そしてこうも言ってたろ 俺はお前が……気に入らない・・・・・・ってなぁ?」


 怒りに震える。そんな理由は許されないと。


「私は先導者……人間は私に従えば良い……人間は私だけを信じていれば良い! 逆らう欠陥品はこの私が処分する!」


「見ろよ お前よりも怒っているぞ?」


「成る程……サタンとルシファーが表裏一体とはこの事か?」


 聖剣使い一人の時はこんな事にはならなかったというのに、魔王サタンが状況を一変させた。


 黙示録の竜の力を取り込んだ『偽りのサタン』の存在が。


「お前さえいなければ……全ては上手くいっていたのだぁ!」


 ルシファーの翼が怒りに呼応し、『六翼』から『八翼』へとなろうとしていた。


「やれやれ……八翼か」


「覚醒は間近って……ことだよな?」


 ルシファーの六枚の翼が『八翼』へと変わる。


 十二枚の翼を持った『もっとも神に近かった天使』が堕天し、傲慢の魔王としてその名は人々に刻まれた。


「ここから先は別次元だ 逃げるなら今のうちだぞ?」


「生憎と……ここで退いたって良い事なんて無いからな」


 リンからすればどちらの魔王が残ったとしても、良い方向に進む事は無い。


「だったらお前との決着を付けたいんだよ お前に負けてもらったら俺が困る……ってほどでもないがな 好ましいのは同士討ちか?」


「ふん……そう言うのでれば付き合え 俺が『魔王を超越』する為にな」


 サタンの手に、神代の魔鍾洞の最奥地、『ヴォルスンガ・サガ』にて手に入れた魔剣『グラム』が握られた。


「勘違いするなよ 俺がお前の手助けをするんじゃ無い『お前』が助けるんだよ」


「勝手に思っていろ」


 リンは二振りの聖剣を戻し、今度は木の聖剣のみを構える。


「形態変化……鎌式! 『ローズロード』」


 聖剣は形を変え、鎌となる。


 まるでそれは死神の大鎌のように。


「一つ言っておくぞ 俺はルシファーは倒すが『エルロス』まで倒すつもりは無い」


「憑依者か……策はあるのか?」


 今ルシファーの体は、ライトゲートの王『エルロス・オウル・グリフィン』の体を乗っ取っている状態である。


「策……か 一か八かの賭けにはなるが……奴を『根絶』できるかもしれない」


「その方法は?」


「……耐えろ 『十二翼になるまで』……な」


「何だと……?」


 覚醒が間近となった為か、翼が生え始めた今を叩きたいのだが、結界のようなものに阻まれルシファーの元にまでたどり着けないでいた。


 そして先程のように決壊を壊そうにも、綻びが見当たらない。だから今の内に倒す方法を見つけなくてはならないのだ。


「別に俺はあの王を殺しても構わんのだがな」


「やってみろ その時は俺がお前を殺す」


「ふん……そう言うと思ったさ」


「ウオォォォォォォ!」


 完全に八翼となったルシファー。放つ魔力はより強く、禍々しく放たれる。


「さて……待たせてすまなかった 再開だ」


「耐えろよサタン あと四翼ぶんな」


「簡単に言ってくれる……」


 残りの四翼までと言うが、先程と比べても明らかに雰囲気が違う。


「いくぞ『グラム』……本来の持ち主でなくて悪いがな」


 竜殺しの剣グラム。


 たとえ相手が竜でなくとも、その斬れ味が落ちる事は無い。


「もう少し……もう少しで力が満ちる」


「それで? には勝てるのか?」


「勝てるとも 何故なら私は……『ルシファー』だ」


 戦いの最中、覚醒に覚醒を重ね、本来の力を取り戻しつつあるルシファー。


 不安定な精神が、徐々に収まりつつある。力を取り戻した暁には、誰にも止める事が出来ないであろう。


 それがたとえ聖剣使いと、魔王サタンの力をもってしても。


「!?」


「お返しだよ」


 目の前から姿を消したかと思えば、ルシファーは背後に立っていた。


「『エンシェントシェル』」


 指先からは放った一発の光弾。


「グゥッ!? グァァァァァァ!」


 被弾と同時に背中で弾けた。


「良い声だ……もっと聞かせてくれたまえ」


(今だ……っ!)


「駄目じゃないか 殺気は消さないと」


「なっ!?」


 鎌を指で摘まれただけで、動かすことが出来ない。


「聖剣使い……君の力はとても厄介だ」


(まずいっ!)


 咄嗟に鎌を離し、一端距離を置く。


 聖剣を戻し、土の聖剣と氷の聖剣でルシファーから身を守る事に専念した。


「おや? それは無駄だと理解したと思っていたが?」


「なんだ!? 俺の周りに!?」


 魔方陣がリンを包み込み、逃げ出そうとするが身体が動かせない。


「『エンシェントボム』」


 爆炎がリンを襲う。逃げ場は無く、直撃だった。


「あっ……が……」


「どんな気分だ? 自分の思い通りに事が運ばなかった今の気分は?」


 急激に力を付けたルシファーの前に為す術が無い圧倒される二人。


「呆気ないものだ……口だけは達者な猿だったのか?」


 倒れ付す聖剣使いと魔王サタンを見て、終わったのだと確信する。


「さて……私の復活を世に知らしめなくてはな 漸く人間達を導ける」


 かつての『塔』を完成させ、もう一度『神』へと人間の存在を知らしめる時が来たのだと、心躍らせる。


「待っていろ愛しき人間達……私は蘇ったのだ!」


 王の間を出て、宣言する。


 人々は平伏し、世界はルシファーの物となるであろう。


「フッ……フッハッハッ!」


「……まだ生きていたか サタン」


 振り返るとそこには立ち上がったサタンの姿があった。


 薄気味悪く笑い、気でも触れたのかと訝しむ。


「何を笑っている? あまりの力の差に壊れたか?」


「なに……お前の滑稽な姿を見ていたら可笑しくてなぁ?」


「どういう意味だ?」


「まだ気づいてないのか? お前はここから『出られない』」


「なんだと?」

 

 扉が開かない・・・・。どれだけ力を込めようと、ビクともしない。


「どういうことだ……?」


「我の部下は優秀でな……我々を部屋の空間ごと『隔離』した」


 魔王三銃士である『ドライ』が、魔王がこの場に来た時からずっとそうだった。


「たとえ扉を開けたとしても無駄だ ここはもはや『別世界』 外に出たとしても繋がっていないのだ」


「姑息な……時間稼ぎに過ぎぬぞ?」


「ハハッ……! 狙ってやったんなら凄いな魔王?」


 傷だらけの体を起こし、リンはこの状況に歓喜・・した。


「聖剣使い……何が狙いだ?」


「狙ってた訳じゃあないさ……ただな 偶然にも『条件』が揃ってるんだよ」


「なんだ? その『条件』とは……っ!?」


 突如、鳴る筈の無い・・・・・・雷鳴が轟く・・・・・・


「イレギュラー再び……か?」


 聖剣使い、二人の魔王、この場に・・・・存在しない筈の声・・・・・・・・がする。


「誰だ……お前は?」


「我を知らぬと……そう申すか? 『七欲の魔王』」


 漆黒の鎧に紫色のマント、紫色の髪を左右共に耳より上に束ねた、銀色の瞳を持つ『少女』の姿。


 だが、その外見は仮の姿。


「我は! 戦の神! 三相女神の『バイヴ・カハ』である!」


 聖剣使いと二人の魔王の熾烈な戦い。


 その場に顕現するは正真正銘の『神』である。


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