第153話 悪意に飲まれたライトゲート

「出しやがれぇ! オレらが何したってんだ!?」


「不敬罪ってところかしら?」


「だったらアイツらはアニキにたいしての不敬罪なんだからな!」


「いや身分差があるでござろう?」


 ここは光国家『ライトゲート』の城にある地下牢。


 旅の目的の一つである賢者の石を求めてこの場所へ来て、やっとの思いでたどり着いたかと思えばこの仕打ちである。


「あのやり取りを聞く限り元々渡す気なんて無かった……って事かね?」


「やっぱりオレ様と雷迅が魔族だから……」


「なんだってそうなんだよ? 人間の為に戦ってんだぞ? ……まあオレは別に人間がどうなろうが何とも思って無いけど」


 魔族への差別意識が高いこの国では、確かに魔族であるチビルと雷迅を引き連れている事を良く思われなかったのかもしれない。


「いや……あの口ぶりから察するに『賢者の石』そのものを渡したく無かったんだろうよ」


 国王である『エルロス・オウル・グリフィン』は、賢者の石の事を『至宝』と呼んでいた。


 つまりライトゲートの国宝である賢者の石を、戦いに使われる事を快く思わなかったという事である。


「そりゃあ本人もそう言ってよ! けどアニキは今まで賢者の石の力で戦ってきたんだぞ!? 幾ら渡したくないからってここまでされる筋合い無いっての!」


「そうは思うがよ……現にこうして捕らえられたってことはお気に召さなかったってことだろう?」


「おいオッサン……まさかこのままで良いとでも思ってんじゃあねえだろうな?」


「ご冗談を このまま黙って従う程おりゃあ素直じゃあねえよ」


 この状況を良く思う筈など無い。ムロウはレイの問いにハッキリと答える。


「今はまだ雌伏の時ってヤツさ なんせ『二代目』が連れ去られたままなんだからよ」


 この牢屋内にリンは居ない・・・・・・


「レイの猛る気持ちはわかるわ……でも私達が下手に騒いでリンの身に何が起こるかわからない」


「果報は寝て待てと言うでござる 態々拙者達を別にしたという事はつまり……リン殿には何かさせるなり話すことなりあるということ 絶対に大丈夫とは言えぬでござるが今は待つべきでござるよ」


「シオン……アヤカ」


 各々がそれぞれ考えあっての待機である。何の策も無く、迂闊に動いてしまえば一番危険なのはリンであると考えたからだった。


「アニキ……無事でいてくださいね」


 心配しリンの事を思うレイ。今すぐリンへ駆けつけたい思いを胸に、ここは大人しく牢屋で黙って耐える事にする。


 仲間達と離され、リンは一人エルロスの元である事を命じられていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


「どうした? まだ百人しか・・・・相手にしていないぞ?」


 仲間と別々に捕らえられたリンは、その後は国王エルロスの元に呼ばれていた。


 その内容は『どれ程の実力』かを、ライトゲートの兵士達を相手に戦って見せろというもの。


「お前と戦いたいと言う戦士が丁度千人・・いたのでな 組み手でもと思っていたが……たった百人でこの有り様では話にもならんな」


(クソッ……そうは言うがここの兵士……思ってたよりもずっと強いぞ)


 一度は魔王軍を退けたというだけあって、兵士達の強さは本物であった。


 幸い一人ずつ相手にしている為、それ程まで苦戦する訳ではなかったが、体力と魔力を削がれていくのは確かである。


「休んでる暇は無いぞ 既に次の相手は待機している」


「アンタは……何が目的だ? 俺にこんなことさせて何になる?」


「私に意見すると? 随分と下に見られたものであるな」


 今すぐにコイツをぶん殴って問い詰めたいと思うリンであったが、今リンが連れて来られているこの場所は『闘技場』であり、エルロスは高みの見物をである。


 このままでは届かない上、エルロスの横には厳重な装備に身を包む兵士を従わせている。その為に簡単には近づけないでいた。


「無礼であるぞ! たとえ聖剣使いといえど貴様は『闇の者』である! この地に立ち入る事その物が罪だったのだ!」


闇の者・・・……? 一体何の話だ?」


 興奮気味に言われた聞きなれない言葉。


 兵士はリンに対して『闇の者』であると、まるで蔑むようにそう言った。


「城に入る前に『水晶』に触れさせたであろう? あれは人間の属性を調べる代物でな……この城に入る資格があるかどうか確かめさせてもらったのだよ」


 触れる者によって水晶は色を変えていた。レイが赤でシオンが水色といったように、リンの時も色は変化していた。


「結果は『黒』……お前の属性は『闇』であった あろう事かあの聖剣使いが『光』では無く闇などと……初代聖剣使いとは真逆であった・・・・・・とはなぁ?」


 この国は『光至上主義の魔族悪』の文化が根付いていると聞いていた。


 光が最上のものであれば対になる闇とは、この国にとって『最低の悪』ということを表しているのだ。


「お前のような人間に賢者の石は渡せない……申し訳ないがそれがこの国の意思・・・・・・なのだ」


「そうかい……だったらこの国出てやるからとっとと仲間を解放しろ」


「魔族の仲間をか? それは出来ない相談だと思わないか?」


「……一人ずつ相手は面倒だ 纏めて倒してやるからかかってこい」


 こんなところに長居など出来ない。話し合いも出来ないのであれば、ここの兵士を全員倒して脱出するしかないとリンは考える。


「大した度胸ではあるが……勝てるつもりか?」


「ついでにアンタをぶん殴って賢者の石も奪ってからこの国を出るつもりだ 二度と来ないから安心しろ」


「闇の者の分際で……!」


「……良いだろ 全員倒したのであれば好きにしろ」


「エルロス様!?」


 リンの心意気を買ったのか、エルロスはそう言った。


「残り九百の兵を一人残らず倒して見せろ 勿論お前えの言うように九百人同時を相手にして貰うとしよう」


 先程までは一人一人が相手になっていたいが、次からは一度に大量の兵士が押し寄せてくる事になる。


 個々の強さが充分に備わった兵士を相手にするには、それ相応の戦い方をしなくてはならない。


「御託はいい……アンタと違って俺は暇じゃあないんでな」


「では私は暇潰しにお前を潰すとしよう 拒否権は無いぞ?」


 合図と共に闘技場内に兵士達がリン目掛けて押し寄せる。


 リンは木の聖剣『ローズロード』を構え、力を振るう。


「お前達に絡まる命の糸・・・・・・……俺には『視えているぞ』」


 リンが視認する『糸』を斬ると、まるで操り糸が切れた・・・・・・・人形の様に・・・・・、兵士達は次々に倒れていく。


「『木々分断』」


 ローズロードを地面に突き立てると、巨大な木が兵士達を無理やり引き離す。


 これで四方を囲まれ、隙を晒す心配が無くなる。


「形態変化……鎌式『ローズロード』」


 聖剣は姿を変え、大鎌となってリンに握られ、兵士達を狩って行く。


 一人また一人と、次々に確実に兵士達を倒していった。


(今ので六十ぐらいか……それまで身体が持つかどうか)


 ただし、一番重要なのはリンの体力と魔力である。


 たとえ今優位に立てていたとしても、既に消耗させられているリンにとって、全員纏めて戦うのは無理があったのだ。


(分断はした……後は力を温存しながら戦うだけだ)


 こんな戦いは一刻も早く終わらせたいとリンは着実に、けれども速やかに大鎌を振るう。


「ふん……これでは様子が見えないではないか」


 一方高みの見物に浸っていたエルロス側からすれば、木々に覆われた闘技場内ではリン達が戦っている姿を観戦する事が出来ないでいた。


「無粋な真似を……これでは何の為の闘技場か」


 そう苛立つエルロスの元に、一人の兵士が息を切らしてやって来る。


「申し上げます! たった今魔王軍の者がライトゲート前に現れたとの報告が!」


「ほう? 今はそちらが方が面白そうだ……それで? 敵の数はどれ程か?」


「現在確認されている数は……一人です・・・・


 震える声でそう答えるライトゲートの兵士。当然エルロスは疑問に思う。


「一人? たった一人に何を慌てている?」


 エルロスの疑問は、兵士の言葉ですぐにわかった。


「ライトゲートに攻めに来た魔王軍は『ツヴァイ』と名乗っております……自分は魔王三銃士『闘士 ツヴァイ』だと」


 それは魔王軍最強の戦力を誇る魔王三銃士が一人、ツヴァイの出現であった。



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