第152話 跪く
「やはり一度は話し合いで応じてくれるかどうか確認すべきだったな 今回の一件で良い教訓になった」
「入れるように話しつけてくれたことには素直に凄いと思うがこう……言っちゃあなんだが最後は脅迫に近かったと思うぞ?」
魔族が入れないと言われ、仲間だから入れてくれと頼んだリン。
その交渉の仕方は雷迅の言うとおり、納得して貰ったというよりも周りから見ればほぼ『脅し』であった。
「なるべく断りづらい状況に引き込むのがポイントだ」
「何で手馴れてんだよ」
「でもよかったな! 『ライトゲート』の王様に許可貰えてさ!」
これで晴れて全員が『ライトゲート』へ入ることが出来た。リスキーな事ではあったが、やってみて良かったとリンは思う。
「それにしても凄く綺麗なところね……それにお城はともかくあの『塔』の迫力も凄いわ」
シオンの言う天高く聳え立つ『塔』は、来た時は門の外からは見る事が出来なかった建造物である。
「結界かね? ここの奴らは魔法に長けた奴らが多いからな」
「なんで隠す必用なんてあるんですかねアニキ? 見られちゃあ困るものですか?」
「塔を隠しているのか……それとも中を覗かれないように隠蔽してるとかか?」
理由は不明であるが、外から干渉されないように隠しているようであった。
「とにかくここの賢者の石を貰おう 長居は良くない」
偏見という理不尽な理由で入れなかった以上、無理やりわからせるよりもこの国に長居しない事が、お互いの為であろうと判断する。
「別にオレらも魔族と仲良しこよししてくれって頼みに行くわけでもないしな そんくらいの考えでいいんだよ」
「ただし喧嘩はするなよ? 一発でアウトだろうからな」
「一旦停まってくださーい!」
話しているうちに城の門の前まで着いていた聖剣使い一行。国に入る時とはまた別に、門番の兵士に馬車を停められた。
「皆様の事は既に伺っております ですがこのお城に入る前に一度この『水晶』に触れていただきます」
そういって取り出されたのは透明な『水晶』に触れた者から、城の中に入れるのだと言われる。
「どなたからでも構いません 全員が触れてからお進みください」
「なんだコレ? 触るだけでいいのかよ?」
そう言ってレイが水晶に触れると、水晶の
「『赤』……ですね どうぞ皆様も触れてくださいませ」
「そんじゃ次はおじさんが……」
ムロウが触れると色は『黄緑』に、次に触れた雷迅は『黄色』、チビルが触れると『土色』へ変わり、シオンが触れると『水色』に変化し、アヤカは『緑色』であった。
「では最後に聖剣使い様……どうぞ手を添えてください」
(一体何をやらせるんだ?)
リンは疑問に思いはしたが、ここで従わなければ通れないのでれば仕方ないと口には出さずに言われるがまま、水晶に手をかざす。
「……『黒』で……ございますね」
(今日のラッキーカラーか何か? 察するに『大凶』とかに思えるが)
顔はヘルムに覆われいて確認できない代わりに、明らかに声が喜んでいるように思えなかった。
「……どうぞお進みください 王が待っておられます」
全員の色を確認し終えると門は開かれる。
水晶の色はおそらく『何かを調べた』のであろう事を、リンは察した。
「なんだったんですかね?」
「まあ通れたでござるし」
「王が待ってるか……粗相の無いように気をつけとくとするか」
リンは色の事は後でこの国の王から説明があるかも知れないと思い、とりあえず覚えておく程度にとどめておく事にした。
「ようこそお越しくださいました……聖剣使い様とその御一行様 こちらへどうぞ」
そう城内に案内され、広く長い廊下を進む聖剣使い一行。今まで見た城の中で、ここライトゲートの城は間違いなく一番警備が厳重であった。
(用心深い王様って事か……町中も巡回の兵士が何人もいたしな)
以前魔王軍に襲われたと聞いていたが、この厳重さを見れば防衛に成功した理由もリンは頷ける。
「ここから先は皆様だけでとお申しつけられておりますので私はこれで……王に失礼の無いようにお願いいたします」
大きな扉のその先にこの国の王がいる。そして感じる今までに感じたことの無いような『強い力』のようなもの。
「歓迎しよう聖剣使いとその仲間達 よく来たね」
声と共に扉が開く。玉座に座るライトゲートの王の姿に、一同は圧倒される。
(あれが……この国の王か?)
「初めまして……だね? 私の名はエル 『エルロス・オウル・グリフィン』だ」
神々しささえ感じさせるライトゲートの王。威風堂々たとした『エルロス・オウル・グリフィン』が迎え入れる。
全員が膝を突き頭を下げる。予めそうしようと決めていた訳ではない。
「楽にしたまえ 君達は客人なのだから」
「ありがとうございます……王様」
言葉一つの重みが違う。あまりの格の違いで、自分の発言はあまりにも軽く感じさせるものだった。
「今世間を騒がしている魔王軍相手に良く戦ってくれてるそうではないですか 感謝してもし足りないというもの」
「もったいなきお言葉……ありがとうございます」
(何なんだよコイツの言葉の重さ!? 絶対タダモンじゃあねえ!?)
(おいおい……あまりの怖さに膝付いちゃったよ)
各々も感じているこの気のようなものに当てられると身体がいう事をきかなかった。
「では用件を聞こうか? とは言っても……知っているようなものではあるが」
「はい ここライトゲートにある賢者の石を頂きにここまで参りました……もしやこの地にある賢者の石は盗まれてしまったという事はありませんか?」
「安心したまえ ちゃんと賢者の石はあるとも」
今までの経験から、何者かが賢者の石を奪っていることが何度もあった。
これだけの警備が施されたライトゲートにはキチンと保管されているということを聞いて、リンは一安心する。
「だが……
「……は?」
「ライトゲートの至宝を何故……戦いの道具として扱うれなければならないのか? 魔王軍と戦うのに本当に賢者の石は必要なのか……疑問には思わないのかね?」
言葉の重圧に押しつぶされそうになる。
反論したいのに、身体がそれを拒んでいたのだ。
「……答えられないか 流石は魔族と共に旅をしている事はある」
穏やかな表情とは裏腹に、言葉には悪意が満ちている。
「どれだけの男かと期待していたのだが……拍子抜けであったな」
「随分……言ってくれるじゃん 王様?」
全員が跪いていた中、エルロスが言った言葉に反応して立ち上がる者がいた。
「レイ!?」
「王様が偉いのはわかるけど……初対面の相手に対しての態度じゃあねえなぁ?」
リンへの評価に対して、腹を立てた妹分のレイが王に指を向けて言い放つ。
「アニキの強さを直接見てもねえ癖に勝手なこと言ってんじゃあねぇ! 自分のお宝見てる前にアニキと今のこの世界の状況を見やがれってんだ!」
エルロスの言葉の重圧に耐えながら言い切るレイ。そんな状況下でも良く啖呵が切れたものだと身が縮む思いよりも寧ろ感心するリン達。
「……
だが流石に耐え切れなかったようで、言い切った直後レイは倒れる。
「その無礼を……死んで詫びろ」
エルロスの指先に光を集め、それをレイへ向けて放った。
「……どういうつもりだ王様?」
「ほう? それが聖剣の力か……それは木の聖剣だな?」
エルロスの『言霊』の重圧をねじ伏せ、リンは植物の盾を作り出してレイを庇った。
「アンタ……何者だ?」
「言ったであろう? 私はライトゲートの王『エルロス・オウル・グリフィン』だと」
王の間に兵士達が入り、リン達を取り囲んだ。
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