暗雲の『ライトゲート』

第151話 納得

「難しい顔をしてどうしたでござるかリン殿?」


 賢者の石があると思われる『ライトゲート』を目指して、リン達聖剣使い一行は馬車を走らせる。


 そんな中リンは、一晩を過ごした町で得た情報を整理していたのだが、悩んでいた。


「いや……どうにも引っかかることがあってな」


「引っかかる事でござるか?」


「前に言ってたよなアヤカ? この世界で『軍事力が優れた国』は今向かってる『ライトゲート』と対魔王軍の為に兵力を集めてる『ギアズエンパイア』……そして俺がこの世界に来た時に初めて訪れた『サンサイド』だって」


 魔王軍が大規模に攻め入った国はその三国。最初に『ライトゲート』と『ギアズエンパイア』が襲われ、その後リンが丁度この世界へと迷い込んだ日に『サンサイド』と戦争を起こした。


「そうでござるが……それがどうしたでござるか?」


「おかしいと思わないか? 前回『ド・ワーフ』と『アレキサンドラ』が同時に襲われて……ド・ワーフは俺達も戦いに参加してなんとか・・・・奴ら魔王軍を撤退にまで追い込んだんだ なのにアレキサンドラの軍は機械兵三千を全て『殲滅』した」


「そうでござるか? 魔王軍の軍勢はド・ワーフの方に多く投入されたと聞く アレキサンドラが三千の機械兵のみでド・ワーフは機械兵に加えて魔族兵までいたのでござるからな」


「それがどうして『被害軽微』にまで優勢になれたんだ?」


 リンの疑問はそこであった。


 確かにド・ワーフには合計七千の魔王軍が、アレキサンドラには三千の兵とここだけを聞けば被害が少ない理由はわかる。


 だが、町で聞いた情報によれば兵士達はほぼ無事であり、国への被害などほとんど無かったのだという。


「機械兵の強さは俺達も知っているだろう? 一体倒すのにも手こずるのにそんな奴らが三千だぞ? そう易々と倒せるものじゃあ無い」


「アレクサンドラは砂漠に囲まれた国なんですよ だから足場の悪さと暑さで攻め込みにくかった……とか?」


「機械兵って言ったろ? 暑さは関係ないだろうし足場に関しても何の対策もせずに攻め込むなんて馬鹿な真似しない筈だ」


 レイの言ったとおり、本来であれば戦いにくい場所であったのだろうがそこを見越してか、兵士の全てが機械兵だったという。


「だったらアレキサンドラには『秘密兵器』があったって事じゃあないか?」


 そう言い出したのはムロウである。


「秘密兵器……たとえば?」


「さあそこまでは でもあながち間違いじゃあないと思うんだよ これから魔王軍との全面戦争を始めようってんだ 隠しだまの一つや二つ隠してても不思議じゃねえ」


 非常にアバウトではあるが、確かに理にかなってていた。


 何らかの対抗策を用意していたとしたら、それを使ったのかもしれないと。


「わかったぜ! アレキサンドラにはとんでもなく強いやつがいるんだよ! そいつがほとんどの魔王軍をぶっ飛ばしたんじゃあねえか!?」


「根拠は?」


「無い! ただの願望だな! そんなヤツがいるなら戦ってみてぇ!」


 適当な事を言う雷迅。その線も無くは無いが、得た情報から信憑性が薄まる。


「町で目撃証言がある……『魔王』のな」


 アレキサンドラで指揮をとっていたのは『魔王』だったと、町で噂されていた。


 噂と聞き流すのは簡単なことであったが、リンが聞いた魔王の容姿は以前戦った魔王の姿と酷似していたのだ。


「あれから『アクアガーデン』との連絡は取れないのか?」


「ああ駄目だな 壊れては無いみたいなんだけどよ……むこうが取ってくれないだわ」


「最後に何か聞かなかったか?」


「確か『こっちは何とかしてみせるから気にするな』……ってだけだったな」


 そうチビルが答える。連絡が取れないのか、あるいは『取らない』のか定かではないが、最後に言い残した口ぶりから察するに何らかの事をアクアガーデンの王妃『ピヴワ』がしたのだろうと推測する。


「シオン 何か心当たりは無いか? あの王妃が何か知ってるのかどうか?」


「……さあ? 私からはなんとも言え無いわね」


 馬車を扱うシオンに聞いてみるが心当たりは無いと言われてしまう。


「どうした二代目? そんなに気になるのか?」


「そりゃそうだろ もしそんな秘密兵器とか強いのがいるのなら……俺達としても戦力として欲しいだろう」


 魔王軍との全面戦争を控える中、そんな情報があるのなら是非とも一度見ておきたいと思うリン。


 一体アレキサンドラは何をしたのか……再び情報を整理し始めた。


「真面目だねぇ……アレキサンドラもギアズエンパイアに集まるんだ その時ハッキリするだろうに」


「難しい顔してるアニキもカッコいいですよ!」


「お取り込み中悪いけど見えてきたわ……あれが光国家『ライトゲート』よ」


 シオンの言葉を聞いてリンは外を見る。


 リンは息を呑んだ。


「あれが……ライトゲート?」


「うひゃあ~……デッケェ『門』だなぁ~!」


 ライトゲートの名に恥じない大きな『門』が聳え立つ。


 巨大な壁に囲まれて中の様子を窺うことはできないが、門の前には門番と思われる徹の鎧に包まれた兵士が検問を行っている様子であった。


「で? どうするよ? オレら『魔族』は中に入れて貰えると思うかい?」


 ここライトゲートは魔族への差別意識が強く、簡単には通してくれない。


 隠れようにも検問をされているのであれば、すぐにばれてしまうであろう。


「安心しろ 秘策がある」


「おっ! さすがリンやるな! で? その秘策は?」


「……頼む」


「「は?」」


 魔族組であるチビルと雷迅が口を揃えて言う。


「頼むしかない 別にやましいことが無いなら説得して入れて貰うしかない」


「えぇ……」


「そりゃあないぜリン……」


「なんだよ……俺だって考えたんだ」


 何かあった時の戦力として雷迅は非常に強力であり、チビルの治癒魔法も役立つであろう。


 そしてなにより、『仲間』をそんな理不尽な理由で置いていきたくなかったのだ。


「そろそろ私達の番よ 準備して」


 門の中へと入る為の関所。ここで門前払いを喰らうか、最悪乱闘騒ぎに発展してしてしまうのかどうかはリンにかかっていた。


「馬車を停めてください 中には何が入っているのでしょうか?」


「ちょっと失礼します 我々の事はお聞きにはなっていないでしょうか?」


「その顔は……もしや聖剣使い様でございますか!?」


「ご存知頂いてなによりです 流石はライトゲート ここまで神聖さを感じさせる門だったとは……感服いたしました」


 交渉はリンが応じた。リンの事を知っているのであれば、話し合いを有利に進められると判断したからだ。


「お褒め頂光栄です聖剣使い様 今までのご活躍ぶりは私達ライトゲートの住人も存じておりますよ」


「恐縮です ですが自分一人の力ではありません 未熟な自分を支えてくれる『仲間』がいたからこそここまでやってこれたのです」


「聖剣使い様が一流であれば仲間の方々も一流だと……さぞ素晴らしい旅の日々をすごしていたのでしょう 是非ともお聞かせいただきたいものです」


 手始めにここ『ライトゲート』を褒め、『仲間』の存在を伝えた。すると兵士もリンの『仲間』を褒める・・・


「誰一人欠けてはならない大切な仲間です 恐れ多くも二代目聖剣使いとしての重責……一人では耐えることは出来なかったでしょう 魔王軍を討つという同士に恵まれたことを誇りに思います」


「そんな聖剣使い様の馬車なのですが……誠に申し訳ありません 疑っている訳ではないのです ですがいつどこで魔王軍が忍び込まないとも限りませんので……」


「お勤めご苦労様です 勿論構いませんよ」


 馬車の中に兵士が入る。


 そしてリンは思う。これでいい・・・・・と。


「!? この者達は!?」


「おや? どうされましたか?」


「聖剣使い様……ここライトゲートに魔族を入れる事は出来ません 一体何故魔族なんぞが・・・・・・ここに」


 当然二人に反応する。そう発言した兵士に対してレイが銃口を向けた。


「おいこら オレのなかまにたいしてなんていった?」


「ヒッ!?」


「やめるんだレイ 失礼だぞ」


「すみませんでした!」


「いえ大丈夫ですが……」


 銃を下げすぐさま土下座をするレイ。驚きはしたがその光景を見て兵士は一安心する。


「ですが……レイの言うとおりたとえ『魔族』だとしても大切な仲間をそのように言われるのは……些か納得しかねますね」


「ですが……!」


「先程ご説明したとおり これまでの旅は皆で支え合って苦難を乗り越えてきたのです……貴方もそのことはご存知のはずだ」


 最初に兵士はリン達の活躍知っていると言い、一度は仲間の存在を肯定している・・・・・・


「言った筈ですよ……誰一人欠けてはならないと お忙しいところ恐縮なのですが是非ともここライトゲートの主へとご相談していただきたい」


「そうは言われましてもこれも規則でして……」


「……申し訳ない 魔族より『人間』の方が血の気が多いらしい」


 兵士が規則を盾に断ろうとしたとき、アヤカが鯉口を切る。


「揉めごとを起こしたく無いのはお互い様でしょう? 何卒お願いいたします……」


 リンが頭を下げて兵士へとお願いを・・・・する。


 それがとどめとなったのか、兵士は要求を呑んでその場を離れた。


「……これで納得してもらったな」


「なあ……最後の方さ?」


 お願いという名の『脅迫』に近かった。


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