第109話 魔王の思惑/邪竜の出現

「呼ばれた理由は理解しているな」


「……はい」


 魔王城。玉座には魔王が座っている。


 魔王三銃士『ドライ』。他の三銃士の二人、『ツヴァイ』と『アイン』もそこにいた。


「申し訳ございません…… 魔王様のお考えを無視した挙句 おめおめと敗走した私に 相応の罰を」


 膝をつき頭を下げるドライ。何も言わない魔王に代わり、アインが口を開く。


「ホ〜ント口だけだったよねドライちゃん? 恥ずかしくないノ?」


「まあまあ 聖剣使いに負けたわけじゃあないんだし」


「想定外の事に対処出来ない『軍士』……何かの冗談カイ?」


「……返す言葉もない」


 普段はアインに口を挟ませないドライが、弱々しい声色で答える。


 それだけドライにとって、今回の失敗は許されない事だった。


「魔王様の命令を無視した……これだけで裏切り者として裁かれる覚悟はしております ご命令とあればこの命をもって償いましょう」


「言ったネ? それじゃあこのアインが処刑人として首を落とそうカ」


「それは良い お前に殺されるのはこの上ない屈辱的な死であろう」


 影がドライの首元へ忍び寄る。アインいつでも首を捻じ切る準備を済ませていた。


「やめてってアイン! ホラドライもさ! そんな自暴自棄にならないでちゃんと謝ろうよ! ねっ!?」


 緊張で息ができなくなってしまいそうなこの状況を、ツヴァイには耐えられなかった。


 なるべく穏便にと、ドライの処罰を提案するツヴァイだった。


「……お前達は何か勘違いをしているのではないか?」


「……え?」


 最初の一口以降、口を閉ざしていた魔王が遂に口を開く。


「お前の処罰など知らん 反省するなら勝手にしていろ 我はお前に前々から言っていた『トールプリズン』付近にある聖剣の調査についての話をするだけだ」


「まっ待ってください魔王様! それでは納得がいきません!」


 罰が無いなど有り得ないと、命令を背いた反逆者として扱われなくてはならない自分に、新たな命を下すなど、信じられないとドライは抗議する。


「ほう……? この私に意見すると? 命令を聞き入れるつもりはないと?」


「それは……」


「それ程までに罰を欲すると言うのであれば……『生きろ』 今回の屈辱を一生背負うが良い」


 信じられずにいた。過ちを犯したドライに『生きる事が罰』と魔王は言ったのだ。


「……お受けします その罰を そして誓いましょう 我が身は全て魔王様に捧げると」


「今だ見つけられずにいる『聖剣』……お前一人で確認してくるが良い あの洞窟に『変化』が起きているやも知れん」


「はっ!」


「やったねドライくん! アインは信じてたからネ!」


「どの口が……」


「いや〜よかったよかった! ところで魔王? 『変化』って何さ?」


 今回集められた理由が『トールプリズン』付近にある『洞窟内の聖剣』だった。


 それは以前に手を尽くして捜索していたのだが、未だに手掛かりが得られずにいた。


 だが、魔王は洞窟に『変化』が起きたかも知れないと言った。何の根拠も無しに言った発言とは思えなかった。


「赤き竜……『黙示録の邪竜』が姿を見せたのだ」


「『黙示録の邪竜』……ですか?」


 その言葉に聞き覚えがなかった。だが魔王は「そうだ」と答える。


「着実に駒が揃ってきている……もうすぐだ」


 魔王は視ていた。魔王の思い描く『結末』を。


「言っていたのだな? 戦の神を名乗る女が『次はお前だと』?」


「はっ!」


「フッフッフ……そうか 遂に神が我を『見過ごせない』と」


 魔王の目的は『世界征服』だ。それに変わりはない。


 だが、それだけでは無い。魔王は『征服するものは人だけでは無い』のだ。


「『神話を塗り替える』……何と心躍る響きであろうな」


 魔王の思惑を知る者は、この場に一人・・しかいなかった。







 そして魔王の言った『黙示録の邪竜』は、害獣駆除の為に出向いた牧場にて姿を現す。


「息抜きしに来たはずが息の根止められそうなんですが」

 

 熊を倒して終わりだと思っていた矢先に、突如として月を覆うほどの巨体を持つ『竜』が、状況を一変させた。


「アニキ! しかも熊が生き返りやがりました!」


「予想通りコイツ魔物だったのかよぉ!」


「前門の虎後門の狼ってやつか……」


「アニキ! 竜と熊ですよ!」


「そういうことわざなんだよ!」


「伏せろ!」


 竜が空から獲物を狩る為に空襲を仕掛ける。


 リン達は地に伏せる。息を吹き返したばかりの熊が、代わりに餌食となった。


「おいおい……一口だぜ」


「一難は去りましたね……」


「一難さっても大惨事なのは変わらないんだよ……」


七十メートルはあるであろう竜の胃袋を満たすのに、熊一頭で足りる筈が無かった。


「第二波が来るぞ!」


 上空から滑降して来る竜から走って逃げるが、到底逃げかきれる筈など無い。


「これでも……喰らってろ!」


 背後から迫る竜に対してリンは振り返り火の聖剣『フレアディスペア』を、大口を開いた竜の口目掛けて、特大の炎を浴びせる。


 竜が反撃を浴びて怯んだ隙に、リン達は何と躱せた。


「どうだ!?」


「リン 悪い知らせだ 聞きたいか?」


「聞きたく無いが聞かせろ」


「竜が姿を見せる事なんてまず有りえねぇ……だから何が弱点だとか何だとかは全然知らねぇ」


「右に同じくッス」


「期待してたら最初から聞いてたわ」


「クッソ失礼だなお前!?」


 ここに物知りのチビルがいてくれたら、もしかしたら知っていたかも知れないという自らの運のなさを心の中で嘆くリン。


「班決めでじゃんけんなんて提案するんじゃ無かった」


「でだ……知ってることもなくは無いだよ」


「それが……悪い知らせか」


 言い方からもうリンは察してしまっていた。


「竜の身体は人間と魔物を除きゃ唯一『魔力』を蓄えられる生き物だ それで魔力の補充法ってのが『食事』になる訳よ」


「で? 竜の好物ってのはもしかして……」


 そこまで言われれば、もう全部聞かなくても理解してしまっていた。


「ずばり『魔力を持った生き物』だ さっき熊食べてたろ? ああやって直接魔力を取り込むのさ」


「……この中で魔力が一番あるのは」


「二台目聖剣使いである『お前』だろな それどころかレア中のレアな逸品だろうぜ? 竜からしたら」


 当然、狙いはリンである。


「勘弁してくれ……」


 そんな思いも虚しく、竜は再びリンに狙いを定めた。


「さっきのも効いてないみたいッス……!」


 レイは銃を乱射し牽制するが、竜の鱗の前では無力である。


「ッチ! わかってたけどさぁ!」


「散らばれ! 一箇所だと全員食われる!!」


 三人はバラバラに別れるが、やはり狙いはリンのままだ。


(口元に炎が……まさか!?)


 赤き竜はリンに向けて、特大の火炎を放った。

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