第30話 おもい

 握られていた賢者の石が砂塵を纏い、徐々に姿を変えていく。


 第二の聖剣が、ついにその姿を現したのだ。


「そいつが二本めか!」


「……」


 鍔の部位には獅子の顔が彫り込まれ、火の聖剣『フレアディスペア』と比べると、大剣といった姿だった。


 その土の聖剣『ガイアペイン』を出せたのはいいが、やはりぶっつけ本番でゆるものでは無かった。


「……ああん? どうした? そいつを出したからには何かしてくれんだろ?」


「お……」


「お?」


「重い……」


「はあ?」


 重かった。想像以上に重かった。


 何か特別な力が使えるようになるのかと思っていたが、フレアディスペアのように闘争心に火がつくようなこともなく、いたって冷静だった。


(これじゃ振るうこともできないッ……!)


 賭けに失敗してしまった、万事休すという奴だ。


 この力で形勢逆転の予定が狂ってしまった。


「何だそりゃ……? 期待はずれもほどほどにしやがれ!」


「アニキ! 手助けしに……てっどわ!?」


 拳が腹部に直撃し出口まで吹き飛ばされる。その時助っ人に駆けつけ現れたレイが、ちょうど一緒に吹き飛ばされてしまう。


「お……おもい」


「すまん……怪我はないかレイ?」


「ああでも〜アニキが押し倒してくれてると思えばそれはそれで……」


「頭打ったか?」


「今度は赤髪の姉ちゃんか いいぜ二人がかりでよう!」


 余裕だった。二人でも簡単に倒せるというのはさっきの実力で分かっている。だからこそあの余裕が本当に恐ろしかった。


「レイ アイツと距離をとる 援護してくれ」


「でもどこに逃げます?」


「とりあえずは外に出る 広い場所ならまだ戦いやすい」


「了解ッス!」


「作戦会議はすんだか? いくぜ!」


 雷迅らいじんは一気に距離を詰める。すぐにレイは銃で狙い撃つ。


「いい腕だガンナー! これで当てたら合格なんだがよ!」


「フン! お前を倒すのはアニキの役目だからな!」


「それが本当なら舎弟の鑑だなあ 姉ちゃん!」


 レイが再装填している隙をつき、鋭い蹴りを叩き込む。だがすでにどこに来るかどうかを先ほどの射撃で避けさせることで、どこから攻撃するかを予測させやすくしていたレイはその攻撃を読んでいた。


「銃だけと思うなよ!」


 雷迅の蹴りに合わせてレイは蹴り返した。

これが『戦い慣れしたもの同士の戦い』なんだと、その光景は自分には無い戦い方をしていた。


「アニキ! 行きますよ!」


「ああ……」


「こいつだけでも楽しめそうだけどよう! お前もかかってこいよ聖剣使いィ!」


「ノーサンキューだ」


「なにぃ!?」


 不意に銃で攻撃する。予想外の一撃に大きな隙が生まれめくれた。


「走れレイ!」


「ハイ!」


「……さっきぶつかった時か!」


 吹き飛ばされ、レイに覆いかぶさっていた時に借り受けていたのだ。


「咄嗟の判断にしちゃあ上出来だあ! そうじゃなくちゃあ面白くねえ」


「そこまでだ電気泥棒!」


「ああ?」


 レイに遅れてやって来たのはここの警備をしている騎士達だった。


 取り囲むように数十人の騎士達は雷迅を追い詰める。


「なんだまだいたのか……雑魚ばっかだったからとうに逃げ出したのかと思ったぜ」


「黙れ! 我々はお前に屈したりしない!」


「本当ならゆっくり相手してやるんだが悪いな 今お楽しみ中なんだ……そこどけやぁ!」


 雷迅は一気に電気を放出する。その威力は先ほどまでと違い範囲も威力も比べ物にならなかった。


「ガハッ!?」


「女騎士になるんだったらアマゾネスぐらいになってから出直しなぁ!」


 包囲していた騎士達はたったの一撃で吹き飛ばされ、何事もなかったかのように雷迅はリン達を追った。


「さあ〜第二ラウンドだ! もっと楽しもうぜぇ!」


 逃げるリン達を、雷迅らいじんは追いかけた。


「アニキ! さっき少しだけ聖剣見えてたけどあれどうなったんすか!?」


 逃げながらの作戦会議。そうでもしなければあの強敵には敵わない。


「ダメだった 重すぎて振るうどころじゃなかった」


「ええ!?」


「だから外に出てフレアにだけ頼る そっちで最大出力で叩けばまだいけるかもしれない」


「だから外なんすね」


「そういうことだ」


「お〜い! 見つけた! 今ここの騎士達が相手したんだがダメだ! 一撃で吹き飛ばされちまった!」


 チビルとも合流する。嫌な報告とともに。


「歯が立たないか…….」


「女にも容赦ねえなオイ!」


「どうするよリン! アイツめちゃくちゃつえーぞ!」


「さっき話してたところだ」


 走りながら作戦を立てるが、先ほどやられていた部位が痛い。鈍い痛みが蹴られた腹部や顔に走る。


「アニキ痛むんすか!? ナデナデすれば治りますか!?」


「馬鹿にしてんのか」


「お前の頭治した方がいいんじゃねえの」


「チビル殺す」


「お前が馬鹿なこと言うからだろう!?」


「お前らは静かにできんのか」


《お〜い 聞こえるか聖剣使い共》


 突然チビルが背負っていた物から、何だか間抜けそうな声が聞こえた。


「なんだ? お前通信機背負ってたのか」


「あ さっき預かってたの忘れてた」


《おい! 何の為に余がお主に預けたと思っとるんじゃ愚か者!》


 海賊船の時のと違い、高性能のためか通信機には王妃の顔が浮かび上がっている。


 この世界は魔法があるだけでなく、機械の性能は浸透していないだけで、どうやらかなり高いようだ。


「……うるさいのが増えたな」


《なんじゃお前!? 初対面の時から失礼すぎはせんか!?》


「まあまあ女王さま アニキは本当のこと言ってるだけなんで責めないでやってください」


《なんでフォローしたフリして余は侮辱されとるんじゃ!? 嫌いか!? 嫌いなのか余が!》


「外が見えたな」


 話している間に外へとたどり着いた。まだ追いついていないのか雷迅の姿は見えなかった。


 今のうちに作戦会議をしっかりとしたい。


「ちょうどよかった 女王さまがいらっしゃるなら作戦を考えて欲しいんだが」


《……そうも言っとられんぞ》


「なに?」


「よう 待ってたぜ」


 後ろを振り返ると、出口の上にある屋根の上に仁王立ちしている鬼の姿があった。


「鬼ごっこは終わりだ まだやる気があるならかかってこい……聖剣使い!」


 電気を纏い、不敵な笑みを浮かべる鬼の姿が

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