続鬼捜し編

102話「sideサント王国」


 時は少し進み、皇雅たちがハーベスタン王国から出発してから一日後のこと。 

 サント王国の港にサントの船とラインハルツ王国の船が来航して、そこからミーシャ元王女、クィン、シャルネ元王妃、高園縁佳、他救世団4人、両国の兵士団数十人が降りて王宮に案内してもらう。

 ミーシャたちがアルマー大陸から発ってから約四日は経とうとしていた。

 彼女たちは早速サントの国王と話しをすることになり、謁見部屋へ行く。

 縁佳たち3年7組のクラスメイトは王国へ着くまでの海路でミーシャから、ドラグニア王国滅亡のこと、皇雅がどういう意図で旅に出たのか、彼の旅に美羽がついて行った理由、そして真なる敵の魔人族のことについて全て話を聞いている。皇雅が地底へ落ちてしまった後のことも全て、皇雅自身が話したことをそのまま聞かされた。

 誰もがまだ完全に納得出来てはいないものの、全員今の状況は分かっているつもりだった。

 

 「遠路はるばるご苦労であった。シャルネ王妃、ミーシャ王女、救世団の諸君。そしてよく無事に戻ってきてくれた、我が国の兵士たちよ」


 王座にいるサント王国の国王……やや強面で王族にしては煌びやかさが欠けた衣装を着かざした老人はミーシャや縁佳たち、自国の兵士団に労いの言葉をかける。

 老人と言っても彼の顔年齢は40代と言われても違和感無いくらいの見た目であり、歴戦の戦士の風格を帯びている。近くで見ると彼の体は筋肉質であることも分かる。

 彼がサント王国の国王、ガビル・ローガンである。齢六十でありながら現役の戦士でもあり、人族の大国国王で唯一戦線に立つ男でもある。さらに彼は出身が王族ではなくとある武家の出の人間だ。妻……王妃が王族であることで国王に任命されたのだが、武力だけでなく頭も非常にキレてもの凄い統治力が国民たちに認められてこの座に就いたのだ。 


 (おじい様……)


 そして…クィンの実の祖父でもある。幼少期からガビルとともに鍛錬してきて、彼の戦歴をいくつも教えられたクィンにとって彼は尊敬できるかつ大好きな祖父である。だがこういう公の場では、身を弁えて主従関係をしっかり守っている。今のクィンにとってガビルは忠誠を誓った国王なのである。


 「シャルネ王妃、ミーシャ王女。此度の件については既に聞き及んでいる。我が兵士団をそちらの国へ送り込んでいながらカドゥラ国王とマルス王子を守らせるどころか敵に返り討ちにされる始末。敵の力量を見誤った私の責任だ。誠に申し訳ない!」


 そう言ってガビルは二人に頭を下げて謝罪する。続いてクィンと兵士団団長のコザとその他兵士たちも続いて頭を下げて詫びる。


 「お二人が発した情報によると敵は魔人族という滅んだはずの魔族だとか。そうだと分かっていれば更なる兵力を投入していたのだが……悔やまれる。いや、過ぎたことをこれ以上話すのも無駄というもの。話を変えようか」


 そしてガビルはクィンの話を聞いてからミーシャとシャルネをサントの王族として迎え、衣食住と安全の保障を確立することを決定した。さらにドラグニアで救世団として籍をおいていた縁佳・米田・曽根・中西・堂丸の五人もサントに在住することを認めた。これには兵力の増強なども意図されているが縁佳たちには知るよしもない。


 「次に話すことだが……ここにはいないカイダコウガの要求が絡んでいるとのことだったな?」

 「はい……」


 皇雅の名前が出たことに縁佳は反応する。なぜここで皇雅の名前が、と他の四人も疑問を浮かべている。


 「コウガさんが望んでいるのは、自身がもとの世界へ……ニホンという国へ帰ること。そこで彼は私に自分を元の世界・元の国へ帰る手段を見つけて、実行しろと要求しました。それも半年までには」

 「元の世界に……帰る!?」

 

 ミーシャの言葉を聞いた縁佳たちは驚愕していた。彼女たちにとって考えもしなかったことであったからだ。ガビルも顔をわずかに驚きの表情にさせていた。

 

 「そして……私がそういった魔術を完成させる為に、このサント王国は私に全面的にサポートをするようにとも要求しています。異世界召喚に関する情報を持っていれば包み隠さず私に全て開示するように、とも……」


 ミーシャはガビルの強面に威圧されてか、やや恐る恐るといった様子で述べた。


 「甲斐田が、そんなことを……!」

 「あいつ、ここから日本へ帰るつもりなのかよ、正気か……!?」


 曽根と堂丸は国王の御前であることを忘れてつい言葉を漏らしてしまう。それだけ予想外のことだったから無理もない。


 「ふむ…………我が国の機密を開示してまでミーシャ王女に異世界への帰還の魔術の完成を協力せよ、か……」


 ガビルは腕を組んでしばらく思案する。その沈黙が皆を緊張させた。


 「………すまぬ。国の全ての情報の開示については、流石に決めかねる。今ここではあい分かったとは言えぬ」

 「そう、ですか……」


 ガビルの言葉にミーシャはさほど落胆はしてなかった。予想していた返事だったからだ。


 「私は……コウガさんから彼が元の世界での生活を好み、そこにはやりたいことがたくさんあってやり残していることもたくさんあるからそこに早く帰りたい、と聞いてます。ですから、私としては彼を元の世界……ニホンという国に帰してあげたいと考えています。そうして、あげたいです…」

 「………(ミーシャ王女……)」


 ミーシャの言葉に切実さを感じた縁佳は心が揺れた。


 「うむ、ミーシャ王女の気持ちは分かった。だからまずは、ミーシャ王女のサポートは保障しよう。あなたが存分に研究や開発作業が出来る場を設けて、召喚術や空間魔術に秀でた者たちもつかせよう。

 ただ、国の機密に関しては待ってほしい。それについては、カイダコウガをここに連れてから続きを話させてほしい。クィン、確か彼の通信端末を登録していたな?連絡をとってくれるか」

 「分かりました。連絡が取れ次第ここに来てくれるよう頼んでみます」


 ガビルの言い分にミーシャはこれも納得する。それが普通だろうと思った。


 「…コウガさんは今、ハーベスタン王国に滞在していると思います。仲間である鬼族のことで情報を求めてのことで……」

 「おおそうだ。ミーシャ王女たちは船にいたからまだ知らなかったのだったな。先日、ハーベスタン王国にSランクを含むモンストールの群れが百数体出現したそうだ」

 「―――えっ!?」


 ミーシャはもちろん、クィンも縁佳たちも初耳だったらしく驚く。


 「だがその群れは冒険者オウガと赤鬼、さらにカイダコウガとともに旅をしているフジワラミワと鬼族たちによって殲滅されたと、昨日世界中に報じられていた。ハーベスタン王国には甚大な被害を負ったとも聞いているが滅亡はしていない」

 「そんな、ことが……!」


 今日まで船で生活していた為、ハーベスタン王国のモンストールによる大災害については全く知らなかったミーシャたちにとっては完全に初耳であった。


 「冒険者オウガに赤鬼……(コウガさんとアレンさんのことだ。フジワラミワさんもいることから、間違いない!)」


 クィンとそしてミーシャは前もってコウガ=冒険者オウガであることと、彼がハーベスタン王国へ向かったことを知っていたので大体の事情を察することが出来た。


 「オウガって急に有名になったSランク冒険者だよな。あいつハーベスタン王国にいたんだ」

 「見た目は私たちの年と近いんだって。どんな人なんだろう?」

 「というかSランクモンストールをぶっ倒すって、藤原先生とオウガと赤鬼って人強過ぎるでしょ…」

 「か、甲斐田君は無事だったのかな?Sランクモンストールがいる群れに遭遇したって…」


 クラスメイトたちはオウガが皇雅であることに気付いていない。

 しかし、縁佳だけは別だった。

 

 (オウガ……美羽先生と一緒にモンストールの群れと戦った?じゃあ甲斐田君は?

 待って、オウガって冒険者の名前で本名じゃないよね?それにその時には鬼族たちも参戦してたって…。その鬼族たちって確か…甲斐田君と旅しているって……………まさか!?)


 縁佳の頭の中でとある推測が閃く。その推測を今すぐにでも確かめたい衝動に駆られる。誰に確かめようか?考えた結果、皇雅と旅したことがあるクィンに目をくけた。


 ガビル国王との謁見が終わった後、縁佳はクィンに話しかけて問いかけてみる。


 「タカゾノヨリカさん、でしたよね?どうしましたか?」

 「………率直に聞きます。冒険者オウガって、甲斐田君のことなんじゃないですか?」

 「えっ?いやその、それはコウガさんに言うなって言われていて………あっ」


 意表を突かれたせいでクィンはつい口を滑らせてしまう。


 「………………(やっぱり)」


 一緒にいた米田と曽根が「えぇ!?」と驚愕する中、縁佳は皇雅=冒険者オウガであることを確信したのだった。

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