92話「俺は裁かれるらしい」
初対面で俺を犯罪者呼ばわりした緑色のセミロングヘアーを二つ括りでまとめて、160㎝にも満たない背丈の少女と言ってもいいそいつは、この国直属の軍略家なんだと。
しかもこの女、俺のことを本名で呼びやがった。
「それに赤鬼……なるほど、本物の鬼族、それも金角鬼ですか。他に4人も鬼族が……鬼族の生き残りがこのオリバー大陸の外にもいたのですね」
「……!」
カミラの発言にアレンたちが反応する。今の発言内容からして、この大陸のどこかに鬼族の生き残りがいる可能性が高い、いやこの国は鬼族について何か知っていると言って良い。
「あんたが今言った鬼族については後で訊くとして、まずは何で俺が異世界から召喚された人間、それも甲斐田だと分かった?」
「私は軍略家であると同時に情報収集能力にも優れています。非戦闘員である以上はこれくらいのことは分かって当然です。
けれど今回は私の推測も加味していますが」
「推測?」
「冒険者オウガの名が世に広がったのはカイダコウガさん、あなたが故ドラグニア王国での実戦訓練で失踪した日から約半月程度後のことでした。私はこれが無関係ではないと思い、信頼出来る情報屋の方々と連携してあなたとオウガのことを調べてみました。するとある日、ある情報屋があなたと会ったということを聞き、さらにあなたがカイダコウガであるという真実も掴みました。私の推測と予想がきっかけであなたの正体を突き止めることが出来たというわけです」
なんて奴だ…!あの時からしてみれば甲斐田皇雅=冒険者オウガっていう要素なんか無いに等しかったはずなのに、あの女は自身の僅かな推測から俺を甲斐田皇雅であり冒険者オウガでもあるのではと疑っていたのか!大した推察力だ。
「というか、その情報屋ってまさか……!」
「どうやらあなたと彼……コゴルさんとは雇用関係にあるそうですね。そうです私は彼からあなたのことを聞きました。こちらも国王様の許可を得て国の機密情報を少々提供したことで得たものです。因みにコゴルさんとは先日連絡をとったところです。アルマー大陸に侵攻したモンストールの群れから逃どうにか逃げ延びたそうです」
やっぱりあいつか…!しかも逃げ切れたらしい。勝手に俺のことを喋りやがって、よほど良い取引を持ち掛けられたんだろうな……何で釣られたのやら。
それにしてもこんな少女体型(胸以外は)の奴が異世界の孔明みたいな軍略家というものだから驚きだ……って、見た目が何の強さの基準にもならないって俺がよく分かってるはずだ!
「ねぇ!あんたさっき生き残りがこの大陸の外にもいたって言ったよね!?鬼族の生き残りのことについて何を知ってるの!?」
「………主に私が鬼族のことで知っていることといえば、同盟国の亜人族大国パルケ王国が鬼族を数名捕らえたということしか知りません。彼らがどうなったかについては知りかねます」
「亜人族……!!」
カミラから情報を聞き出したアレンたちは動揺して少しいきり立った。どうにか彼女たちを落ち着かせた藤原は国王に話しかける。
「国王様、私の用件というのは実はこのことだったのです……。まさかこんなあっさり聞かされるとは…」
「………そうか」
「……では話を進めましょうか。カイダコウガさん、あなたが犯した罪について」
それを聞いた藤原の顔がやや強張る。アレンも鋭い目を向ける。
「あなたは昨夜、冒険者ギルドにてダグド・フール様の両手を切断して魔法か何かで昏倒させるという殺人未遂に値する暴行を犯した…と、彼の親兵たちからそう聞いてますが、何か間違いはありませんか?」
「俺が殺しの未遂をねぇ……」
めんどくさそうに首を回してどう答えるか考えていると、後ろから怒声が聞こえて来た。
「間違いも何も、そやつは紛れもなく犯罪者であろう!!我が息子を傷つけ意識不明の重体にさせたのだからな!即刻処刑にすべきだ!!」
大扉を開けてしゃしゃり出てきたのは、赤いコートを着たでっぷり体型のオッサン。ザ・クソ貴族って感じの悪党面してやがるなぁあいつ。というか我が息子って言ったな、じゃああいつは昨日潰したクソ大男の親か。この親あってあの子ありって感じがしてやがる。
「ダグドは今も治療室でうなされている!貴様のせいでだ!!」
「けど生きてんだろ?それに両手も藤原が治した。うなされてるのは奴のメンタルがクソ雑魚だからなんじゃねーのか、下らねー」
「な、ん、だと……貴様ァ!!」
赤コートオッサンは顔までコートと同じくらいに赤くなってブチ切れている様子だ。
「兵士たちよ!即刻この愚者を捕らえ、首を刎ねろ!!ニッズ国王様、兵を動かす許可を!!」
「まあ落ち着くがよいフール卿よ。そうだな……冒険者オウガ改め、カイダコウガよ。お主は自身が犯したことは認めるか?」
ニッズ国王とやらはあくまでも冷静に客観的に俺に話しかける。ドラグニアのクズ国王よりは話が出来そうな奴だ。
「まあ俺が奴の両手を斬り落として魔法で気を失わせたのは認めるけどな、先に攻撃してきたのはあの男――」
「見ろ!奴は自白したぞ!!即刻兵を――「今話してんだろ、黙れ」(ゴッ!!)――ぉああ”!?」
話の腰を折ってきた赤コートオッサンを重力魔法で伏せさせて黙らせる。その魔力に国王もカミラも恐れ慄いた。
「続けるぞ?さきに攻撃してちょっかいかけてきたのはあの男だ。俺の仲間たちに悪意ある絡みをしてきたから剥がしてやろうとしたら因縁つけてきて俺をぶん殴りやがった。それも武器を使ってな。だからその報復として斬ったんだ、それだけ」
「そ、そういう経緯があったとはいえ、お主の報復行為はやり過ぎではないのか?フジワラ殿に治してもらったとはいえ身体の部位を欠損させるというのはいくらなんでも……」
「そうか?あいつは冒険者なんだからそれくらいの報いを受ける覚悟はしてたんじゃねーのか?知らんけど」
国王の意見に俺は何の悪びれもなく淡々と言い返す。俺の物言いに周りの王族や兵士どもは俺を悪者を見る目を向けてくる。カミラの目にも敵意が若干感じられる。どいつもこいつも……
「大体あのダグドとかいう冒険者兼貴族は、かなり女癖が悪くて他の冒険者たちから評判が悪いって聞いたぜ?あんなクズ野郎の手を落とすくらい別に構わなかったんじゃね?」
後に聞いたことだが、ダグドを潰したところを見た冒険者たちは清々したという声が多かったとか。俺をヤバい奴と評するどころか正義のヒーローだとすら称える奴もいたとか。
「確かに彼の評判は悪いとは聞いてます。しかしそれとこれとは別です」
カミラが厳しい口調で反論してくる。
「あなたは自分の行いを自白しました。そしてなおその態度……国王様。やはりカイダコウガをここで捕らえるという方針でよろしいでしょうか?」
カミラの言葉を聞いた藤原は焦った顔をする。
「むぅ、フジワラ殿の知人らしいが仕方あるまい。カイダコウガ、大人しく拘束してくれるだろうか」
「嫌だと言ったら?」
「我が国の兵士団があなたを捕らえることとなります――」
カミラがそう宣言すると同時に、部屋で控えていた兵士どもと、大扉から入ってきた兵士どもが一斉に俺たちを取り囲んだ。とはいえ武器は全て俺だけを向けている。
「あーあ、やる気かよ……」
「コウガ、手伝いは?」
「要らねー。皆は俺から離れててくれ」
アレンたちを兵士どもの囲いから逃がす。兵士どもはアレンたちを囲おうとはしなかった。狙いはあくまで俺だけらしい。
「カミラさん!どうか考え直してくれませんか!?国王様も!彼は、甲斐田君は私たちの為に攻撃してしまったんです!行き過ぎたところはあったと思いますがちゃんと止むを得ない理由が…!!」
「ミワさん。申し訳ありませんが私情を挟むわけにはいきません。彼のがしたことはどう考えても過剰防衛です。よってこの国で裁きを受けてもらいます」
藤原とカミラはどうやら知り合い関係の様子。しかしカミラは藤原の言葉にほだされることなく厳然と俺を裁くと宣言した。
「ではトッポ団長、お願いします」
そう告げると同時に俺に猛スピードで迫る男が。俺は距離を取るべく部屋の窓ガラスを割って外へ移動する。
すると外で待っていたのは、あちこちに配置されている兵士どもだった。俺が外へ出ることを読まれていたらしい。
どう相手してやろうかと考えながら広場の中心へ移動したその時、
「うぉ!?」
足場が突如無くなり浮遊感が。落とし穴か!
下を見るとマグマのように煮えたぎった液体が溜まっている。火属性と水属性を合成させた強力な溶解液のようだ。さらに左右には鋭利な剣で埋まっている。壁に手をつこうにも剣が刺さり手がおじゃんになってしまう。
けどこの程度の罠なら今のステータスの俺なら痛くもかゆくも……
「あれ?体が……っ」
と思ったのだが、数秒経つと体から煙が上がってきた。こいつはただの溶解液ではないな。何か、特殊なものを入れてるな。
「その溶解液には対不死性質の生物の為につくられた“聖水”が投与されています。あなたはアンデッドの性質を持つ人間だという情報も得ているので。その対策をさせていただいてます」
上からカミラの声が降ってくる。召喚獣か何かでここへ来たのだろう。
それにしても、俺がアンデッドだってことまで調べがついてるのかよ。コゴルの奴喋り過ぎだろ…!いつか締める。
「そしてその“聖水”は、ミワさんの発案でつくられたものです。
彼女曰く、邪悪な魔物や不死性の化け物に効く聖なる性質を秘めた水だそうで。彼女の天職である回復魔法を駆使して完成したものをサンプルとしていくつか頂戴して増産しました」
「………っ!?」
あの、女ァ!!なんてもんを創りやがったんだああああああぁ!!
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