84話「安堵と決意」
残酷な事実を聞かされて打ちのめされてしまっている藤原の相手をする気はない俺は、今度こそこの地帯から出てゾルバ村へ戻ることにする。アレンとセンとルマンドを呼んで村へ戻るぞと促す。アレンは「いいの?」って目で尋ねてきたから頷いて応える。
「クィン、俺たちは村へ戻るけど、お前はサント王国へ帰らざるを得ないよな?当然俺はサントへ行く気はないからな」
話を振られたクィンは藤原をチラと見てから俺に少し咎めるような目を向ける。
「彼女を……あのままにしておくつもりですか?」
「俺に何を言えってんだ、アレに。言えることも言う気もねーよ。そっとしてやってるだけありがたいと思え。それより、お姫さんたちを護送する以上は俺たちのあとをついていくのは無理あるだろ?もうここらで別れることになるよな」
「……………コウガさんはサント王国へ行く気はないのですか?」
「無いね。行く理由がない。行ったところで俺に得るものは無いだろうし。俺たちの旅は俺の目的を達成する為だけじゃない、アレンの目的の為にもやっているんだ。しばらくはアレンの目的をメインに旅しようと思ってるからな」
それを聞いたアレンは嬉しそうな反応をする。しかしクィンを見ると寂しそうにもなっている。
「俺の監視任務はここらで切り上げた方が良いんじゃねーか?俺たちの旅の同行は諦めるんだな」
「………今のあなたから目を離すのはとてもダメな気がするのですが、今回はお二方の身を優先します。一緒に来てくれないと言うのなら、コウガさんたちとはここでお別れすることになりますね」
「なら、そういうわけで……」
「待って下さい!これだけは約束して下さい!暴力だけで物事を解決しないこと。イード王国のギルドやここでのことなど……。私にとってはああいうことはやはり許容出来ません。今後は過激な行動は止めて下さい!」
「えぇーなんでお前とそんな……」
「約束して下さい!!」
クィンのこういうところがめんどいんだよなー。鬱陶しい。ここで話を拗らせるのも煩わしいから雑に分かったと返事する。
「………本当にお願いします。コウガさんには粗野で非道な人になって欲しくないんです」
「…善処はするよ」
「アレンさん、コウガさんが暴走しそうになったらあなたが止めて下さいね?」
「うん?クィンが言うなら、そうするけど…?どこで止めたら良いのか私にはあんまり分からないけど」
「本当にお願いしますよ!?あとコウガさん。あなたたちとこれきりとは思いたくありません。またの再会の為に、通信端末の登録をお願いします――」
そんなやりとりをして、クィンは俺たちと別れることになった。クィンは嫌な奴ではないけどめんどくさいんだよな。だから旅から外れてちょっと良かったなって思ったりもする。彼女には悪いけどな。
クィンに別れの挨拶をしようとしたその時――
「待って、甲斐田君」
藤原が俺に顔を向けて呼び止めてきた。顔はまだ暗く、目には涙の痕が残っている。コンディションは最悪そうだ。
「今度は、君のことを聞かせてくれないかな?あの日……地底へ落ちてから今まで何があったのかを」
「………心中穏やかじゃないように見えるが、ちゃんと聞けるのか?」
「取り乱してしまってごめんなさい。少し落ち着いたから。君の話を聞くくらいの余裕はあるから甲斐田君のことを、知っておきたいから…っ」
俺のことを知りたいっていう意思は強いようだ。クィンは俺から一歩下がって話しやすいようにしてくれる。アレンも俺に頷いて話す猶予をつくってくれる。二人の気遣いに応えて藤原に俺のことについて説明することにした。
「まずは…今の俺の状態を見せてやるか」
そう言って俺のステータスプレートを藤原に渡して、服を脱いで俺の体を見せる。
「種族が、屍族…?な、何この能力値と固有技能!?それにその体は…!?」
俺が見せた情報一つ一つに驚愕する藤原。さすがに予想外過ぎたらしい。サント兵士たちも俺の体を見て驚愕している。
「屍族っていうけど、要はゾンビってやつだ。ただしちゃんと意思があって体も腐ってないゾンビだけどな」
「ゾンビ…」
「あの地底で死んでから、何でかは分からないが俺はゾンビとして復活した。特殊な固有技能も発現した。その固有技能は敵から経験値と固有技能を“略奪”するっていうチート性能で、そのお陰でそんな能力値になったんだ」
藤原からプレートを返してもらって、服も着直す。そこからも俺のこれまでのことを話してやった。俺の旅の目的のことも、アレンたちと一緒に鬼族を復興させようとしていることも、魔人族というモンストールの上に立つ真の敵と戦ったことも、全て話した。
藤原は真剣な目をして、俺の一言一句を聞き逃すまいといった感じで聞いていた。
「そう、だったんだ…。甲斐田君はあれから凄い経験をたくさん積んできたんだね。私たちが戦ってきたのよりもはるかに強い敵とも戦って、仲間もこんなに…」
藤原はアレンとクィンを感慨深げに見る。その視線を向けられた二人は不思議そうに見返す。
「鬼の角が生えている子がアレンさん、黄色い髪の兵士さんがクィンさん、でいいのですよね」
「うん」
「はい」
「私の自己紹介がまだでしたよね、ごめんなさい。藤原美羽です。甲斐田君と同じ世界から召喚されました。ドラグニア王国の救世団として活動、してました…。あなたたちが甲斐田君と一緒に旅をしていたんですよね」
藤原の問いかけに二人は頷いて肯定する。
「お二人は、甲斐田君のことをどう思ってますか?」
続く問いにクィンがえっと意外そうに声を漏らす。しかし藤原の真剣な目を見ると真面目に考える仕草をする。アレンも真剣な顔をしてその答えを告げる。
「コウガは仲間…大切な仲間。憧れもあって、友達みたいな親しみもあって、すごく頼りになる人で、そして……家族になってほしいって思える人」
アレンは迷うことなく誇らしげに、そして嬉しそうにそう言った。センとルマンドが家族って単語に色めいた反応をしてアレンにグッジョブと褒める。
対するクィンも、そんなアレンの発言に若干顔を赤くさせて慌てながら答えを告げる。
「コウガさんはその、強いだけじゃなく賢いところもあって頼りになる人です!ですが、乱暴で過激なところもあるのでそこは直してほしいと思ってます。例えば誰かと揉め事を起こした時、過剰に攻撃するのは止めてほしいとか…。
あと……私も、コウガさんは大切な仲間だと思ってます!」
クィンも仲間という部分はしっかりと言ってくる。藤原は二人の言葉を聞くと、安心したような顔をして「よかった」と呟く。
「ありがとうございます、そう言ってくれて。甲斐田君を受け入れてくれて。あなたたちのような仲間がいてくれて、とても安心しました…!」
少し目を潤ませながらそう言う藤原に、アレンとクィンは少し戸惑う。
「はぁ…なんだよその、母親が同級生たちに仲良くしてくれてありがとうねっていう感じなやつ。恥ずかしいんだけど」
俺は呆れた顔でぼやく。
「嬉しいの。甲斐田君に…君のことを大切に想ってくれる仲間がこの世界でできたってことが。学校でも、この世界に来たばかりの頃でも、甲斐田君は誰とも―――」
「あーもういいからそういうの。俺のあれこれを暴露しないでいいから」
強引にこの話を終わらせて、それでと話を変える。
「俺の行動内容は全部話してやった。もうあんたと話すこともなくなった。ドラグニアが無くなった以上、あんたもサント王国へ行けば良いんじゃねーか?あんたの戦力ならお姫さんの良い護衛にもなれそうだし」
「……甲斐田君はこれからどうするつもり?」
「まずはゾルバ村へ戻ってそこにいる鬼族と合流する。で、そこからはしばらく鬼族の為に旅をするつもりだ。鬼族の里の再興に向けてな。まずはこの世界のどこかにいる鬼族と再会するところからだ。次の行き先は村へ戻ってから決めるつもりだ」
別に答えなくてもいいことだったのだが、つい全部話してしまう。藤原美羽……彼女は俺に対して何の敵意も悪意も無い。この地で死んだ元クラスメイトどもと違って。だからだろうか、アレンたち程じゃないが気を許してしまっているのは。もっとも、彼女も俺を見捨てたことに変わりはないと思うがな。
すると藤原は俺に歩み寄り、決意を固めた面持ちをしながら宣言する――
「私も、甲斐田君の旅の仲間に加えて欲しい!君と一緒に行動したい!」
「はい……?」
予想外過ぎる発言に、さすがの俺も口を開いたまま固まってしまった。
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