69話「Sランクモンストール×4との戦い」


 「救世団が………異世界召喚した方々が、Sランクモンストール数体にやられて、全滅してしまいました……」


 Sランクモンストール四体から十分に距離をとったところから戦況を見ていたミーシャは、3年7組の生徒たちがモンストールたちに殺されてしまったことに激しく動揺していた。


 「こんな、ことになってしまうなんて……。フジワラミワさんに会わせる顔が、ありません……。彼らを死なせるようなことはしないと、約束していたのに……」


 がくりと膝をついて目に涙を溜めて震える。ここにいない美羽に対する罪悪感で圧し潰されそうになってしまっているミーシャの肩を、シャルネは慰めるように両腕でそっと包み込む。


 「………どうしてですか、コウガさん」


 一方クィンは、剣を握っている手に力を込め、険しい顔で皇雅を見つめていた。その目には怒りが含んでいた。


 「どうしてあなたは、彼らが殺されていくのをただ見ていたのですか?どうして、彼らを救わなかったのですか………っ」



                   *


 ゴリラ鬼のモンストールが咆哮を上げながら最初に近づいてくる。さっきぶっ飛ばしたことを根に持っているみたいだ。続いて怪獣型もエーレっぽいのもプテラノドン型もやってくる。全員殺気を向けてきている感じだ。元クラスメイトどもと相手していた時とは様子が違う。

 こいつらは俺の力量をすぐに把握することが出来るというのか?よくは分からんがまあいい。要はこいつらは今から本気で攻撃してくるってことだ。

 最初に動いたのはゴリラ鬼だ。両腕に岩石を纏ってぶん殴りにかかる。脳のリミッターを550%くらい解除して「硬化」させた腕を振るって迎撃する。

 さっきはこれくらいの力で競り勝ってぶっ飛ばせたのだが、今度は力が拮抗している。このゴリラ鬼、今度はフルパワーで攻撃しにきてるな。

 力比べしているところに、怪獣が赤い「魔力光線」を撃ち、上空からプテラノドン型が嵐魔法による巨大で鋭利な刃を放ち、エーレがどす黒い雷が纏った前足を思い切り振るってくる。

 三方からの隙を突いた攻撃に対し、咄嗟に「魔力障壁」を体にピッタリ展開して防御態勢に入る。直後、俺の体は光線による衝撃と刃の斬撃と魔爪の打撃でもみくちゃにされる。しかし俺の体がバラバラになることはなく、どうにか障壁が俺を守り切ってくれた。


 重力魔法“拒絶”


  敵の包囲から逃れるべく重力魔法を発動する。俺に襲いかかる攻撃を全て弾いて拒絶する為の強力な斥力を四体のモンストールの周囲に発生させて、全てを弾いて吹き飛ばす。

 炎熱の光線は上空へ飛ばされ、それが上空にいるプテラノドンに直撃して墜落する。怪獣とエーレは俺から数十m地面にバウンドしながら吹き飛ばされる。そして真正面から力比べしていたゴリラ鬼が斥力の暴力をいちばんモロにくらう。纏っていた岩石が粉々になり、ついでに腕も半壊した。

 四体もの包囲攻撃からどうにか逃れて距離をとり、奴らの今の行動を分析する。


 (今……連携したよな?モンストールどもが連携攻撃だと?Sランクのレベルになるとそういう意識も芽生えるというのか?知能が上がっている?)


 Gランクモンストールの群れだってそうだ。あいつらに仲間意識はないはずなのに数十の群れを形成してここに侵攻してきた。

 いったいどうなってやがる…化け物が人間みたいに考えて動くとかいよいよ手がつけられなくなるじゃねーか。

 まあそれは、俺以外の人間たちにとってだが…!


 「脳のリミッター700%解除。“全身武装・硬化”」


 モンストールどもの異変については後で調べよう。様子見は終わりにして、一気に殲滅させよう!


 「………!体が」


 リミッターをさらに外した直後、体のあちこちからミシリと音を立てた。筋肉が断裂して骨が軋んでいる。

 脳が普段から勝手にかけているリミッターを無理矢理外すというのが俺の固有技能「制限解除」。50%くらいの解除でも普通の人間には耐えられないレベルの負荷がかかる。それを500%をも超えるとなるとその負荷は想像を絶するものだろう。ゾンビじゃなかったら俺は廃人化あるいは体が自壊して死んでいたかもしれない。ゾッとするね。

 ゾンビの体とはいえ、これ以上リミッターを外すと体が崩壊して戦いどころじゃなくなる。今の解除率がギリギリの許容範囲だな。それにリスクを冒してる以上、ここからは短期決戦で行くのが最善だ。目の前にいる四体の敵を睨み、全身凶器と化した体を武器にして、今度は俺が攻勢に出る。

  まずは…腕が半壊状態のゴリラ鬼から落とす。肘に推進機を武装させてから勢いよく走り出す。

 今なら100mを1~2秒で走れそうだ。5歩でゴリラ鬼のところに着いて、「連繋稼働」を素早く発生させる。簡易なパスなので威力は落ちるが、肘から生やしている推進機の加速で補正させるから気にならない。渾身の左拳の「絶拳」をゴリラ鬼の脳天にぶち当てる。

 パンと音を立てて、頭の中身をぶちまかして、ゴリラ鬼を破壊した。

 さっきのTレックスのことがあったから、倒れたところに魔力をたくさん込めた光属性の「魔力光線」撃って塵にして消してやった。まずは一体目。

 次は………斥力で弾かれた怪獣の「魔力光線」をくらって墜落したプテラノドンを消しに行く。一瞬で奴のところへ跳んで、狙い先をまた脳天に定めて、簡単な「連繋稼働」で力をパスさせた状態の左脚を大きく上に上げたまま急降下して、渾身の踵落としをおみまいしてやった。

 もの凄い爆発音が辺りに鳴り響き、同時にプテラノドンの血と脳みそも飛び散った。

 そして魔力光線を撃って骨も残さず消し去った。これで二体目。

 その時エーレがまた隙をついて攻撃を仕掛けてきた。全身にどす黒い炎や雷を纏わせて突進しにきている。

 ただ単に突進しているわけじゃない。自分の進路と標的…俺の周囲に重力魔法の拘束をかけて動きを封じている。これによって標的を確実に轢き殺すって作戦か。知能高い生物だな。

 蒸気機関車みたいに鼻息を荒げさせながらまっすぐこっちに突っ込んでくるエーレを真正面から迎え撃つ。「硬化」した手に魔力でつくった小さく強大なバリアーを張ってから、エーレの突進を受け止める。バリアーで奴の炎と雷による手へのダメージを防ぐ。


 「せいっ!」


 突進を受け止め切ったところでエーレをひっくり返すように投げ落とす。


 “全属性武装鉤爪マルチ・ガロン


 両手にいくつもの属性を纏わせた鉤爪を武装する。

 これは……地底で遭遇した人型モンストールの武器を真似したものだ。打撃と斬撃を兼ね備えた物理攻撃。さらに炎熱や水、嵐といった属性攻撃も付与させているから威力は絶大だ。

 七色のオーラを纏った黒い鉤爪を、倒れているエーレ目がけて振り下ろし、その五体をズタズタに引き裂く。

 前脚も後脚も尾も角も、鉤爪でバラバラに解体する。両腕を超高速で振るってさらに切り刻む。攻撃が終わった頃には、エーレの全身は真っ赤なバラバラ死体となっていた。そしてダメ押しに炎熱魔法を放って後処理する。


 “炎の渦”


 ごうごうと巨大な炎の渦巻きが発生して、エーレを燃やしながら飲み込んでいく。

 これで三体目。あとは火を吹く怪獣のみだ。瞬間移動の如く移動して怪獣の真後ろに回り込む。

 危険を察知したのか、怪獣は背中の甲羅から鋭利な棘を生やして咄嗟に防御態勢に入った。よく見ると亀の甲羅を持ったゴジラみたいなやつだ。ガキだった頃に特撮で見たことあるな。名前はガメr………おっとこの辺にしておこう。

 棘だらけの甲羅に構うことなく、鉤爪で攻撃する。ガキッと音が鳴って火花が散るだけで、甲羅を切り裂くには至らない。頑丈だな。どうやらこの怪獣は他の四体と比べてかなりタフネスさが売りのようだ。 

 「斬撃は捨てよう。打撃面に特化。受けてみろ、俺の全力を」


 要塞と化している怪獣を見据えたまま、武の構えを取る。意識を集中させて体内で力をパスさせていく。今度はさっきとは違って、細かくパスを繋げていく。手と足の指に至るまでパスを繋げ力を大きく、強くしていく…!

 左足をスタート地点にして、左脚(ふくらはぎから腿へとさらに細かく分けて)→腰→胴体→右脚(以下略)→右足へと、土台をパス強化。

 そして同時に、上半身も右手をスタート地点にして、右腕(前腕と上腕へと細かくパス)→右肩→腹(右腹斜筋から腹直筋・左腹斜筋へと!)→左肩→左腕(以下略)→左手へと!

 パスが完全に繋がったところで仕上げに右足をダンと地面にめり込むくらいに踏み込んで、体を小さく素早く旋回させて、本気を込めた左拳を放つ!


 “絶拳”(700%本気バージョン)


 甲羅に当たると同時にヒビが入り、亀裂が広がっていくと同時に拳が甲羅の先へ深く入っていき、そして甲羅が粉々に崩れるとともに怪獣の胴体に拳がめり込み、破壊していく。

 俺の拳に耐えきれなかったか、怪獣の胴体がボォンとド派手に爆裂した。ボトボトと肉片が落ちていく音を聞きながら今の一撃からの残心をとる。

 今の一撃……エルザレスと戦った時に放ってたら、アイツを殺していたかもしれない。リミッターを今までいちばん外してたし、本気を込めてたし。

 チート化した俺が本気を出したのだから、Sランクだろうと関係無く一撃粉砕に成功。怪獣はとっくにただの肉塊と化していた。


 「あー。全部捕食してから殺せば良かったな。まあいいか。経験値は入ってるし」


 「略奪」で固有技能を奪うことを失念してしまったことを少し悔いながら怪獣の肉塊を焼き消す。

 突如現れたSランクモンストール五体は俺は全て討伐した。その際被った被害は、ドラグニア王国の兵士団が全滅、そして……救世団こと、元クラスメイト29名が全滅、と。

 とりあえず王宮へ行ってみようか。モンストールの死骸が一つも無いことを確認してから移動する。

 ほぼ崩壊してしまっている王宮へ戻るとクィンたちもそこにいた。

 

 「コウガさん、どういうつもりですか……!?」

 「いったい何のことだ?」


 顔を合わせるなりクィンがちょっと怖い剣幕でそう言ってくる。言いたい内容は分かってるけどあえて惚けてみせる。


 「どうしてあなたと同じ異世界の人たちを……助けなかったのですか!?遠くからだったのでハッキリ見えてはなかったですが、あなたは彼らがモンストールに殺されていくのをただ見てるだけでした………違いますか?」

 「ああ、その通りだ。あいつらは窮地に陥り、近くを通りかかった俺にみっともなく救いを求めてきた。俺はそれを断り、あいつら全員を見殺しにした。生き残った奴はいない。あそこからここへ帰って来たのは俺一人だけだ」


 クィンの問い詰めに対して俺は淡々と答える。


 「何故助けなかったのですか!?コウガさんの実力なら四体のSランクモンストールが相手だろうと、救世団……異世界の方々を守りながら戦えたはずです!ですがあなたは守るどころか……何もしないで彼らが殺されていくのを見ていただけ……!

 何故あんな酷いことをしたのですか!?あの人たちは、コウガさんの仲間――」

 「仲間じゃねーよ」

 「………っ!?」


 俺があいつらの仲間?それだけは言わせねー。咄嗟に冷たい感情を乗せた声で否定する。クィンはもちろん、彼女の傍にいたミーシャさえも怯む。


 「俺の生前のことはもう知ってるんだったよな?だったら分かるだろ、俺とあいつらにはもう何も無いってこと。数時間前も、俺とあいつらとのやり取りを見たお前なら分かるはずだ。仲間じゃねぇ、だ。それも二度と関わりたくないレベルで受け付けたくない他人だ」

 「コウガ、さん………」

 「どうしてあいつらを助けなかったのか、か。助けるわけねーだろあんな奴ら。学校では俺を除け者にして陰湿な嫌がらせもしてきて、この世界で力が逆転した途端俺を囲って暴力振るって、見下して蔑んで、そして嘲笑いながら見捨てて見殺しにした………そんな連中を何で助けなきゃならねーんだ?」

 「………………」

 「俺は嫌だね。たとえ金を積まれても助けない。俺があいつらを殺すことはしないがそれだけだ。あいつらを守って助けるなんて、俺に何の見返りも得も無いことはしねーよ。だから見殺しにしたんだ。今まで俺にだけ対して酷い仕打ちをしたことを後悔させながらモンストールどもに殺されてもらった。

 理解はできたか?俺があいつらを見殺しにした理由を」

 「そんな………それでも、あなたは助けるべきでした!そうするべき……だったんです……!」


 やっぱりというか、納得はしていない様子のクィンは怒りと悲しみが混じってそうな声で途切れ途切れにそう言った。


 「カイダさん。Sランクモンストールを討伐していただいたことには感謝しています。再び私たちを助けていただきありがとうございます」

 

 黙ってしまったクィンに続いて今度はミーシャが話しかけてくる。モンストールどもを討伐したことに対する礼を言うだけかと思ったが、まだ何か言いたそうだ。


 「ですが………私も、カイダさんには異世界召喚組の方々の命を救って欲しかったです。確執があったとしても……それでも……」

 「お前も同じようなこと言うのな」

 「あ………」


 特に相手にする気はないから雑に返事をしてミーシャから離れて会話を終了させる。ミーシャから悲しみの意がこもった視線を感じる。ちらと見ると王妃も複雑そうな表情をしていた。

 

 (あーあめんどくせ。ゾルバ村へ戻るか)


 Tレックス型モンストールと戦う前に感じ取った“何か”のことは気になるが、現れない以上はもういいだろう。

 そう考えていた、その時―――



 「あの同胞たちを一人で難無く殺し尽くしたか。あの時からさらに力をつけたようだな。さすが、俺の肉を喰っただけはある。

 なあ、興味深い人族の男よ!」


 「――――っ!?」


 その声は…上の方から聞こえた。

 そしてその声には…聞き覚えがあった。

 地底でゾンビになってから最初に遭遇した……だ…!!


 即座に声がした方へ顔を向ける。そいつは王宮のてっぺんに座っていて、俺が姿を視認したことに気づくと王宮から降りて俺たちと同じ地に立つ。


 「テメー、は……!!」

 「あの時喰った俺の肉は美味かったか?興味深い人族の男」


 人型のモンストールは、初めて遭遇した時と変わらずヤバいオーラを出しながら不敵に笑いかけてきた―――



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