52話「自業自得だ」


 ジェット機を置き去りにするくらいの速度で空を駆けること約十分後、次の町に降り立つ。

 ここも名前の知らない町で、さっきと同様に町民どもが荷物を持って出て行こうとしてたり、家を閉め切って立てこもったり、パニックに乗じて盗みを働いていたりなどと、町は騒がしく、荒れていた。

 俺のことを何も知らない無知で愚かな盗人や不良どもが襲ってくるのを返り討ちにしながら、モンストールどもの気配をよく感知できる方へ歩いていく。

 商店街らしき地帯に着く。店主が逃げたためにがら空きとなった店をガラの悪い連中が占領している。中には何を血迷ったのか、婦女や少女を捕まえて性的暴行をしている奴らもいた。


 「まるで世紀末な世界だなこの町は…。かなり酷い」


 呆れて呟きながら指先から魔力を飛ばして、暴行している連中を昏倒させて移動を続ける。

 この数日間は主に武術を磨いてきたが、魔力の操作鍛錬も少しかじった。魔力の扱いに長けた戦士たちからある程度教えてもらい、今のように魔力を小さく飛ばすくらいには上達した。

 やがて「未来予知」で、群れがやってくるだろう地点に着いたところで移動を止めて、準備運動をしながら待っていると、何やら騒がしくしている連中がやって来た。


 「来るなら来いよモンストールども!!Aランク冒険者であるこのゴマルたちが駆逐してやる!!」

 

 金髪の大柄な男の叫び声に続いて周りにいる男女がそれを囃し立てながら一緒に叫ぶ。どうやら冒険者どもがここに来たようだ。見たところあいつら全員でパーティーを組んでいるようだ。

 そのうるさい集団を不快そうに見ていると、まだ逃げていなかった町民が奴らを見て顔を明るくさせた。


 「冒険者ゴマル一味といったら……パーティーでAランクのモンストールを難なく討伐する実績を持つ、ドラグニア有望の冒険者パーティーじゃないか!」

 「ランクはAだが、実力としてはGランクと評されてもおかしくないって聞いたぞ!あいつらがこの町にいたなんて知らなかった…!」


 どうやらドラグニアの中では有名な冒険者パーティーらしい。パーティーでAランクをねぇ…。それにしてもゴマルとかいう金髪男、何だその装備は?髪だけじゃなく鎧まで金ぴかじゃねーか。


 「Aランクモンストールの攻撃をも軽く防いでみせた黄金の防具。剣術と魔法両方に秀でている攻撃力。攻防ともに優れている俺が来たからには、この町は滅ぼさせねーぞ!はっはっは!!」


 大声で自慢するという小物臭を漂わせている。それでも町民たちの反応は良かったらしく、あちこちから頑張れ、勝ってくれといった言葉が投げられている。


 「ん……?そこのガキ、見たところお前も冒険者か?」


 ようやく俺に気づいた金髪男が、俺のところへ来てテンプレを臭わせる絡みをしてきた。

 そうだと短く答えると、金髪男はあからさまに見下した態度をとり、悪意感じる顔をした。


 「そんな装備でGランクと戦う気かよお前、気は確かか!?駆け出し冒険者か?今アルマ―全土にGランクモンストールの群れが発生して、そいつらを殲滅しろっていう緊急クエストが発令されている。俺たちはそのクエストを受けてここに来てるんだ。

 分かるか?ここはお前みたいな雑魚がくるところじゃねーんだよ!場違いなんだよ場違い!」

 

 俺を指さして罵倒する金髪男に乗じてパーティーメンバーも口々に俺を罵ってくる。弱い装備だのママのところへ帰れだの自殺志願者だのと好き勝手に俺に悪口を浴びせてくる。近くにいる町民どもも俺を馬鹿にした視線や言葉を投げてきた。

 「鑑定」でパーティーメンバーの一人一人のステータスを見てみる。どれもBランク程度の実力しかなく、リーダーの金髪男もクィンより弱い。

 こんな奴らにGランクの群れを殲滅できるとはとても思わない。というかその程度の実力でよくGランクと戦おうと考えたな?こいつら絶対災害レベルの敵との戦いを経験していないな? 


 「そんな強く見せてるだけのダサい装備より、無駄を全て失くした俺の装備の方が優れていると思うけど?あと声がうるせーんだよ小物が。テメーらこそその程度の装備やステータスでGランクの群れを倒せると思ってんのか?さっさとここから出て行ってAランク以下の敵とでも戦ってろ」


 俺の言葉を聞いたパーティーメンバーはしばし沈黙する。切れたのは金髪男ではなく取り巻きの男だった。


 「おいテメー!弱小…いや、駆け出しの分際でゴマルに何デカい口を――」


 俺に掴みかかろうとしたところで、金髪男がそいつを手で制した。相変わらず俺を蔑んだ目で見下していて不快だ。


 「ふん、言わせておけ。大勢に笑いものにされたことが悔しかったってところだろうどうせ。ガキの冒険者はプライドが高いって言うだろ、ククク……」


 切れるどころか尚も俺を馬鹿にするところ、悪い意味で大人なところを見せてくる金髪男…………いやよく見ると、口は笑っているが目が笑ってねーな。内心ムカついているらしい。ウケる。

 

 「そこまでデカい口を叩くってんならここで好きにしていろ!だがその代わりに、俺たちの邪魔はしないこと。そしてお前がモンストールどもに殺されそうになても、俺たちは一切お前を助けない。あり得ないことだろうが逆も同じだ。実力にそぐわないことをしに来たお前の自業自得だ!じゃあな、せいぜい奴らに食われないようにするんだなガキが」


 そう言った直後に金髪男は唾を吐いてきた。それはあらかじめ予知していたので後ろへ下がって難なく避けた。

 俺の動作に金髪男は一瞬目を細めたがすぐにこちらを馬鹿にした言葉をこぼしながら離れて行った。パーティーメンバーも俺をしきりに罵りながら同行していった。

 クソが。あの金髪野郎、態度も顔までも元クラスメイトのあいつらを思い出させる。特に大に………いや止めよう、名前を思い浮かべるのも不快だ。

 今すぐあいつらぶち殺してやろうかと思ったが、これからモンストールどもと戦うしあの化け物どもで憂さ晴らしすることで我慢してやろう。

 

 「いや、待てよ…………面白いこと思いついた――」




 十数分経ったところで、商店街地帯にモンストールの群れが侵攻してきた。数は最初の町よりも多い、二十体以上はいる。

 モンストールの群れが出現してから一分程で、さっきの金髪男のパーティーが戻ってきた。よく見るとさっきよりも数が増えている。他のパーティーと合流したみたいだな。大勢の群れを前にしても金髪男はやってやるぞといった態度のままでいる。胆力があるのかまだ力の差を理解していない無能なのか。

 で、俺はというと…………「迷彩」を発動して高い建物の上から見物していた。

 せっかくだからまずはあのクソ冒険者どもにやらせてみよう。あんな口を叩いたんだ。だったらやってみればいい。

 そして思い知ればいい、テメーらがどれだけ無知で無能だってことを…!


 そして戦いが始まってから五分後、俺が予想した通りの光景が広がっていた。

 調子が良かったのは最初だけだった。群れを分散させて各個撃破を画策したところまでは良かった。しかしGランクの力を侮った連中は、一体倒すのに手間をかけてしまい、その間に別のモンストールに襲われてしまい連携がバラけてしまう。

 そこから先は見るに堪えない醜態を見せてくれた。

 冷静さを欠いたメンバーがヤケを起こして変な行動を取って、モンストールに殺される。パニックは連鎖していき、一人また一人と無様に殺されていった。

 その光景を、俺は面白がって見ていた。


 「ははははは!予想通りの展開になったな。馬鹿だろあいつら。その程度の戦力で何でGランクの群れに勝てると思ったのかね…。

 さて、そろそろ討伐しに行くか」


 パーティーが半分くらい死んだところで屋根から立ち上がって「迷彩」を解いて、屋根を蹴って飛び降りる。その勢いのまま両脚を「硬化」させて近くにいたモンストールの脳天にドロップキックをくらわせる。

 頭の汚い中身をぶちまけてモンストールは死滅する。そして俺の乱入に気づいたモンストールが数体俺に襲いかかってきたので、脳のリミッターを解除して全身を硬化・武装化させて派手に返り討ちにした。

 俺の前にいたモンストールを全て片付けて死体となった冒険者どもを踏んで跨ぎながら進み、今も冒険者どもを蹂躙している残りのモンストールどものところへ行く。

 

 「ゴマルっ!!た、助け――ぎゃああ”あ”!!」

 「勝てるわけねぇ、こんな化け物――がっぐあ”……!!」

 「ひぃぃいい!!ひぃぃいいい………え”ぎぉ!!」


 次々やられていく馬鹿な冒険者どもを鼻で笑いながら、奴らを殺しているモンストールどもを背後から襲って討伐していく。


 「くそおおお”お”お”お”お”!!何でだ!?なんでこの俺が逃げ回ってるんだ!?こんな、こんなはずじゃあ……!!」


 パーティーのリーダーである金髪男は完全に冷静を欠いた状態になっていて、でたらめに魔法を撃ちながら必死にモンストールから距離を取ろうとしている。


 「ハァ、ハァ…………ああ?お前はこの俺にデカい口を叩いたクソガキ冒険者…!まだ生きてたのか!」


 俺に気づいた瀕死状態の金髪男は、苦しそうにしながらもニヤリと悪意に満ちた顔を向けてこんなことを言い出した。


 「ちょうどいい、どうせ無価値なお前を利用するとしよう。お前を囮にしてやる!モンストールがお前に気を取られている隙に、俺が魔法であいつを討伐するんだ!

 おら、分かったら囮になってこい!死んで俺の役に立ちやがれ!!」

 

 囮だ?この俺をか?金髪男の言葉を聞いてつい、半月程前のことを思い出してしまう。あの実戦訓練のこと、俺だけ犠牲にされて落とされたあの時を…。

 この金髪野郎はつくづくあのクソッタレな連中を連想させやがる。ホントに不快だ。

 半狂乱状態で俺に掴みかかってモンストールのところへ投げ飛ばそうとしてくる金髪野郎の攻撃をひらりと躱して、ローキックを放って奴の両脚を破壊してやった。


 「うぎゃあああああ!?」


 骨が完全に折れてその場から動くことが出来なくなった金髪野郎を汚物を見る目で見下していると上から魔力光線が降ってきた。障壁を展開して防いでから空を見ると鷲か何かの鳥型のモンストールがこちらに狙いを定めていた。

 鬱陶しいので「瞬足」でジャンプして鳥型モンストールの上を取り、ライダーキックを首にくらわした。勢いよく頭部がどこかへ吹き飛んで胴体だけとなったモンストールは力なく落下して絶命した。


 「は…………!?」


 一部始終を見ていた金髪野郎の顔は驚愕に染まっていた。次いで今までのクソな態度だったのがウソのように消えて、俺を敬うような態度を見せた。


 「ま、まさかあなたがそんなに強いだなんて!先程までのご無礼、誠に申し訳ございませんでした…!」


 両脚が折れているので上半身しか動かせない金髪野郎は頭を地につけて謝罪してきた。土下座をしているつもりらしい。

 その時後ろからズシンと音を立てながら牛型のモンストールが近づいてくる。さっきまでこいつを追いかけていたモンストールだな。


 「ヒッ!!そ、そこでお願いだ……!後で礼は必ずするから、あのモンストールと残りのモンストールどもをぶっ殺して俺を助けてくれ、いや下さい!!頼みます!俺はこんなところで死にたくねーんだよ…!」


 迫りくる牛型モンストールに恐怖しながら、俺に助けてくれと必死に懇願してくる。モンストールは金髪野郎に目をつけている。このままだとこいつが先に殺されることになるだろう。

 しきりに助けてくれと叫ぶ金髪野郎の前でしゃがんで、俺は感情の無く答えてやった。



 「嫌だね」



 金髪野郎は一瞬何を言われたのか分からないって顔をして俺を呆然と見つめる。構うことなく続きを話す。


 「テメーこの戦いが始まる前に俺に何て言った?

 お互いに助け合いは無しだ。戦いの邪魔はしない。たとえそいつが殺されそうになっても助太刀はしない、と」


 金髪野郎は顔を青くさせる。しかし黙ることはせずに醜く足掻いてくる。


 「た、確かにあの時はそう言ったかもしれねーが、実際は助けるつもりだったんだぜ俺は!本当だ!!もしお前が殺されそうになってたら割って入って助けるつもりだったんだ!!だからお前も、あの時のことは忘れて俺のこと助けてくれ!!」

 「今となっては何とでも言えるよなぁ?

 ていうか、テメーはさっき俺を助けるどころかモンストールの餌にしようとしおやがったよな?俺を囮にして助かろうとしてたよなぁ?その分際でよくまぁ、助けてくれと、言えたなぁ」


 金髪野郎はさらに顔を青ざめさせる。


 「あ、あれは仕方なかったんだって!俺もいっぱいいっぱいだったんだって!あ、謝るから!後でこの詫びと礼は必ずするから、水に流してくれぇ!!」


 モンストールがさらに近づいてきたのを察した金髪野郎は、両拳を地面に殴りつけながらさらに喚きだす。


 「なあ頼むよ!!助けてくれ!!お前のせいで動けないし魔力も底が尽きかけてんだ!!マジで殺されちまう、なあ!!

 冒険者同士助け合いするのは当たり前だろ!?あんた強いんだろ!?早く後ろのモンストールを殺してくれよおおお!!」


 地面に拳と頭をガンガンぶつけながら俺に助けを求めて醜く喚き散らす様を、俺は無表情で見下すだけだった。

 そして牛型モンストールが金髪野郎を両手で掴む直前に、冷たく言ってやった。


 「テメーこうも言ってたよな。


 自業自得だ バーカ」


 ガシッと掴まれモンストールの顔の前まで連れてかれた金髪野郎はこれ以上ないくらい叫んで、また俺に罵声をぶつけだした。


 「ふざけんじゃねえ!!お前それでも人間かあ!!早く、助けろよ!!クソがあ、助け―――」


 その汚い声を最期に、金髪野郎は頭からバリバリと喰われたのだった。モンストールの両手は奴の血で真っ赤に染まっていた。


 「俺はもう半分人間じゃあねーんだよなぁ」


 俺はその光景をただ無表情に眺めて、小さく呟いた。



 「―――ざまぁ」







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