44話「甲斐田皇雅vs竜人族族長エルザレス」


 場所は変わって、国の管轄内にある大草原に移動した。そこから南へ進むとセンたちが発見された場所の森林となっている。

 この障害物が一つも無いだだっ広い場所で、これから俺と竜人族でいちばん強いとされているエルザレスの力試しが始まろうとしていた。


 「じゃあお前ら、頼む」


 エルザレスが号令をかけると同時に、四人の竜人戦士、俺とエルザレスだけを四角形状に囲んだ。囲んだと言ってもその広さはサッカー試合コートくらいはある。

 俺たちを囲んだ四人の竜人戦士たちは次いで魔法を発動した。赤紫色の鳥かご状のバリアーが展開されて、俺とエルザレスを閉じ込めた。


 「“魔力障壁”を応用させた結界魔法だ。これで見物人たちはもちろん、無関係な民たちにも被害や迷惑がかかることはない」


 ここは大草原、さっきまでいた人気のある場所からは既にけっこう離れているというのに、こうしてバリアーを張ったのか。


 「本気を出したら、この場所からだろうと国町に被害をかけてしまう自信があるみたいだな」

 「ああそういうことだ。この結界は攻撃の余波はもちろん、俺の直接攻撃にもある程度は耐えられる構造になっているから遠慮なく暴れられるぞ」

 

 自慢げに語っているエルザレスの格好は、さっきまでの派手服ではなく上半身は裸で下は一般的なジーンズとなっている。彼なりに動きやすい服装ってところだろう。俺が言うのも何だが、あまり戦いに向かない格好だな。

 

 「コウガ、気を付けて。あの竜人は強い、凄く強い。私やここにいるどの竜人よりも」


 結界の外からアレンが俺に忠告をしてきた。


 「だろうな。さっきステータスを覗いたがアレンたちと桁が違い過ぎる。強さをランク基準で測るならSランクの最上ってところか」


 しかもあれだけ年を食ってるというのに、あの強さだ。150才って……。俺くらいの年から戦いに出ていたとしたら、戦闘歴は百数十年という超ベテランだ。戦闘経験の豊富さではこの時点で負けている。

 だから今回は相手を下に見るのはよそう。地底で過ごした日々を思い出せ……。あの時の緊張感を引き出せ…!


 「じゃあ、始めるとしようか」

 「ああ。だがまずは………」


 俺はエルザレスにではなく、展開されているバリアーに接近する。


 「あんたと、外にいる竜人どもに、俺の力を見せてやるよっ!」


 そして脳のリミッターを解除して、「硬化」させた拳をバリアーにぶつけて……粉々に割ってやった!


 パリィン…………!!


 「は……?」

 「え……!?」

 「な………っ!?」


 エルザレスが、バリアーの外にいる一同が、俺の拳で壊れていくバリアーを見て呆気に取られていた。

 数秒沈黙。


 「ば……馬鹿な!?この結界を一撃で破壊!?族長の攻撃でも数発は耐えるというのに!!」

 「しかもただの拳一つでだと……いやよく見るとあの拳、とんでもない魔力が纏っている!?あんな高レベルの武装化は初めてだ……!」


 結界を張っている竜人たちは驚愕して激しく動揺していた。加えてショックも受けていた。


 「あの高密度の結界、災害レベルのモンストールを何体も閉じ込められる耐久力を誇っていたそうです…。それを武装させた素手で一撃で……。相変わらずコウガさんは狂った……いえ、常識から外れてますね……」

 「コウガ…やっぱり凄い!」


 クィンは若干呆れて、アレンは目をキラキラさせて俺を称えた。


 「やれやれ、これには非常に驚かされた…。この結界を一撃で壊す奴は普通いないと思っていたんだがな…。だがこれではっきりした。

 お前は強い。それも…俺を脅かすくらいに」


 エルザレスは俺を認めたようだ。俺が格下ではない、油断できない相手だと認識したようだ。

 四人の竜人戦士たちに結界を張り直させて仕切りなおす。


 「今度は故意には壊さねーよ」

 「当たり前だ、というかいちいち張り直させなきゃならんから止めろ」


 今度はエルザレスに向かって駆ける。相手も迎え撃つべく構えをとった。剣も無ければ魔法を放つ素振りもないからして、俺と同じ素手での格闘戦か。

 とりあえず先制の左ストレートを放つ。拳には「硬化」を纏っている。さあこの一撃をどう対処する?


 「―――ってあれ………ぅお!?」


 気が付けば目の前にいたはずのエルザレスが消えていて、俺の頬に奴の拳がめり込んでいた。

 地面と平行に飛ばされるもどうにか体勢を立て直して着地する。


 「お前の拳を受けると大怪我しそうだな」

 「――いつの間にっ!」


 一息つく間もない。気が付くと真後ろにいたエルザレスが軌道の読めない拳を放ってくる。ほぼ全発くらってしまう。


 (何だあのパンチ…!全く読めねー。威力も高いし)


 「まだだ―――“多蛇武突たじゃぶとつ”」


 手の形を獅子の手のように変えて、さらに蹴りも加えた連続打撃が襲い掛かってくる。その動きはうねる蛇の様だ。咄嗟に「魔力障壁」を体に纏わせて連撃をどうにか防いだ。


 「ほう、防御魔法を体に纏わせるとは器用だな。だが………」

 

 俺は地面を蹴ってエルザレスから距離を取った。


 「武術の方はまだまだ未熟のようだな」

 「………仰る通り、だ」


 返す言葉もない。それにしても奴のあの動き……あれが「蛇竜武術じゃりゅうぶじゅつ」か。それを皆伝しているとなると超一流の武術者と見ていいだろう。

 しかも固有技能もしっかり使いこなせてやがる。さっき消えたように錯覚したのは「隠密」でくらませたから。回り込まれたのも「隠密」と「瞬足」を上手く掛け合わせたからだ。


 (固有技能の使い方が上手い。さすがは戦闘経験歴が百年以上ってところか)


 武術が未熟。確かにその通りだ。今までの俺はただ力を振るっていただけにすぎない。「技」をきちんと使ってないし把握もしてない。それじゃあダメだ。


 (……そうだ、俺にはあの固有技能があるんだった)


 自分が持っているとある固有技能を思い出す。意識すれば今の俺でもそれなりに武術が扱えるはずだ。


 「じゃあ行くぞ――」


 エルザレスが次の攻撃に出る。身を前傾させてこちらに接近して、そこから超音速の拳と蹴りを放ってきた。

 

 (さっきまでの攻撃とは違う――)


 その一挙手一投足が、まるで龍が飛んでくるかのよう。くらえば体が弾け飛ぶだろう。


 「あれは……“九頭龍武撃くずりゅうぶげき”。竜人族に伝わる最強の打撃技だ。まさかあれを使うとは…!力試しと言いながらあの人族を殺すつもりか!?」

 「っ!?そんな危険な技を!?コウガさん…!!」


 外からカブリアスとかいった奴の声が微かに聞こえた。あとクィンの切羽詰まった声も。

 なるほど、要するに「強い技」ってことだ。

 ならくらうわけにはいかねぇな……!


 「はああああああ………!!」

 

 意識を集中させて、今自分がこうありたいってことを思い浮かべて、その通りに体を動かす!

 俺は蛇のように体をくねらせて躱し、飛んでくる拳と蹴りをタイミングよく弾いていなして受け流した。まあ途中何発かくらって体にかなり傷がついたが、ほぼ成功と言っていいだろう。


 「お前、その動きは…!」

 「見よう見まねでやってみたから粗さはあるが、ある程度は使えたぜ」

 

 俺が今実践した動きは、「蛇竜武術」を真似たものだ。

 俺の固有技能には「武芸百般」がある。これを意識すればどんな武術もほぼ真似ることが出来る。俺自身が未熟だからまだ完コピは出来てねーけど。


 「だから、もっと来いよ。俺に武術をもっと見せてくれ」

 

 挑発するように手招きをして余裕を見せてやる。


 「迂闊にこちらの技が出せない、か。だったら次は魔法技だ」


 俺の挑発に乗ることはしないエルザレスは、俺から距離を取ってから手を前に突き出して魔法を放った。


 “熱爆砂サンドフレイム


 大量の赤い砂粒が飛んでくる。後ろへ飛んで躱す。砂が地面についた瞬間、大爆発して被爆した。

 さらに砂粒が降ってくる。範囲が広い。まともにくらえば体がバラバラになってしまいそうだ。

 「魔力障壁」を展開して爆発を防ぐ。ヒビが入るが気にしない。こちらの魔法を放つ隙が作れれば良いのだから。


 “絶対零度”


 パキイィンと、爆発ごと砂粒を全て一瞬で凍らせてやった。


 「大した魔力だ―――“魔力光線”」

 

 続いて赤い魔力光線がとんできた。こちらも青い魔力光線を放って応戦する。

 拮抗したのはほんの数秒。俺の方が競り勝って光線がエルザレスに飛んでいく。

 当たったら殺しちゃいそうだったので軌道をずらして被弾を避ける。エルザレスの左後ろ側が大爆発して地面が焦土と化していた。


 「………この俺が、手心を加えられるとは。しかもお前のような若い人族に」


 不満げに言葉を漏らすエルザレスの頬には一筋の汗が流れていた。


 「今のやり取りで分かっただろ。今のあんたじゃ俺には勝てねー。そろそろ見せろよ、“進化”を」

 「まあそういう約束だったからな。いいだろう、ここからはマジでやってやる。

 先に言っておく……」


 エルザレスから魔力やら覇気やらの上昇が感じ取れる。次第に体の形態が変わっていく。


 「死ぬなよ」

 「もう死んでるから心配ねーよ」

 「そうか―――“限定進化”」


 カッと光が生じる。光が止んだ先から現れたのは、巨大な赤い蛇のような龍だった。

 全長10mはあるな。人型時の強靭な筋肉をさらに発達・巨大化させた腕と胴体。全身には硬度が増しているだろう赤い鱗が覆われている。さらに禍々しい角と牙を生やし、見るもの全てを射殺すかのような眼をしている。


 「あの見た目とそれに相応しい圧倒的な強さ。竜人族の皆が、そんな彼を称えて、“赤神竜せきしんりゅう”と呼んでいる」

 「これが……竜人族の長の真の姿…何てオーラと覇気…!対面しただけでも敵わないと思わされる…!」

 「お母さんはあれとかつて互角に戦ってきた…。私が目指す強さは、あれをも上回るレベル……」


 せきしんりゅう?赤き神の竜ってか……カッコイイ二つ名じゃねーか。能力値が初期より10倍近くも跳ね上がっている。見た目通りの強さを持っている……!


 「では行くぞ!」

 「ああ、こっちもさらにリミッターを外してやるからな!」


 魔力を高めて攻撃態勢に入るエルザレスと脳がかけている力の制限を無理矢理外す俺。


 ――脳のリミッター 500%解除――


 第二ラウンド開始だ。

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