33話「Sランク昇格」


 戦いが終わった後、クィンが率先して村の生き残りがいないかを確かめる作業をした。生き残りは一人も見つからなかったそうだ。

 モンストールの死骸を全部焼却した頃には、もう日が暮れていた。イード王国へ帰ってギルドで報酬等の手続きをして、今日はそれで終わりだ。

 帰り途中、アレンにあの強化のことを聞いてみたところ、

 

「コウガのこと考えてた。コウガみたいな強さを想い続けていたら、力が溢れて、倒せた」


 とのこと。俺を参考にしたといったところだろうか?人の気持ちを理解するなんて俺にとっては無理ゲーだから分からん。


 「何にせよ、やったなアレン。一人でAランクを倒せたんだから。以前よりすごくパワーが増したみたいだし、いい感じだな!」


 そう言ってアレンを労いながら肩をぽんぽんする。アレンは、尻尾が付いてたらブンブン振りそうなくらい嬉しそうにした。顔もにやけきっている。可愛い。

 アレンとは正反対に、クィンからは負のオーラが立ち込めていた。


 「クィン?」


 俺が声をかけると、クィンは虚ろ目でこっちを見て呟くように返事する。


 「...私は、コウガさんの助けを借りました。私一人では、あのモンストールを倒せませんでした。兵士の私がこんなのでは、ダメですよね…。アレンさんみたいに一人で倒せるくらいじゃなきゃ、まだまだですよね……はぁ……」


 自分の力不足を嘆いているクィン。アレンの顔を見ると彼女はコクコクと何か促してきた。フォローしろってことか。


 「兵士だからって気負うことないんじゃないか?そもそもアレンはそこいらの兵士や冒険者とは格が違うから、あと俺とか。俺たちと違って、クィンには数の利がある。連携プレイがある。個の力より数の力で対抗すれば良いんじゃないか?

 まーようは、思いつめるな!ってこと!オーケー!?」


 後半やけくそになったが、俺の言いたいことは伝わったらしく、クィンの顔に少し明るさが戻った。


 「ありがとうございます…。気にかけてくれて」


  まぁ、結局個の力がものを言うんだけど、それは俺の場合の話。普通の奴らにとっては、数を集めて協力して戦うのが基本だ。


 (………)

 

 生前でも俺はソロで活動していた。元クラスメイトらは俺と同行なんて一切しなかったし、俺もあんなやつらと共闘する気はなかった。

 死んで復活した今ではチートレベルに強くなったから一人で敵をガンガン倒せるようになってる。

 俺は昔も今も、“協力”することが出来ない人間らしい。誰もが俺を避けて距離をとって、独りにさせる。協調・共闘…そんなものは俺にとって無縁なものとなった。

 だから部活は個人競技の陸上競技を選んだってのもある。

 俺に何かしら悪いところ、問題があるってのは否定できない。人一倍我が強い人間だってことは自覚している。だから去年クラスで衝突したのだから。 

 ま、つまりは俺は一人にしかなれない人間だってことだ。

 けど今はどうだろう?この旅にはアレンとクィンが一緒にいる。

 目的の為に一緒に旅している…この時点で俺は他人と協力していると言えるのでは?

 同行してくれている人がいる。俺にしてはこれは大きな変化が起きているじゃねーか。今になって気が付いた。しかも連れているのは異性だし。

 異世界ってスゲーんだな、高校ではクラスに友達が皆無でオタクなボッチだった俺がこうして女の子たちと一緒に旅してるのだから…。

 

 「...というか、コウガさん、左腕いつの間に治ったのですか!?前回の時もそうでしたが、アレ確実に吹き飛んでましたよね?」


 一人で回想にふけっていると、クィンが今更ながら俺の左腕のことに触れてきた。


 「あ...。これは、俺の特殊体質だ。実は俺、トカゲみたいに欠損部分が再生するんだ!...ってことで。」

 「何ですかそれ!?怪しいです!もっと詳しく教えて下さい!」

 「あー。帰って完了報告済ませたらな?」

 「絶対ですからね!?今度こそあなたの秘密を教えていただきます!」


 クィンはさっきまでの落ち込みから完全に復帰して俺のことについてまた聞き出そうとしてきた。

 彼女の興奮を治めるのに苦労した俺だった。




                  *


 すっかり日が暮れた頃、イード王国の冒険者ギルドへ帰還した。早速、依頼完了の報告をする。前に来た時とは別の受付嬢だったので、緊急クエスト完了の報告したらめちゃくちゃ驚かれた。騒ぎを聞きつけたもう一人の受付嬢…俺たちに指名依頼を出したレイさんとかいった女がやってきて、俺たちを見て納得がいったような顔をした。


 「本当に、3人で討伐なさったのですね...。噂通りの規格外の強さをお持ちのようで!あ、礼が先でした。ありがとうございました!これでこの国は、モンストールの脅威からまた守られました」


 そう言ってレイさんは丁寧にお辞儀をする。もう一人の受付嬢もお辞儀した。


 「ま、あいつらモンストールが本腰入れて、この国を落とそうとするなら、災害レベルの奴らもそのうち出現することになってくるだろうな。そこのところ、国王様とかに忠告した方がいいかもな」

 「災害レベル……ドラグニア王国から遭遇報告が出ていましたから、対策しなければなりませんね…。忠告感謝します!」


 ではこのことを王宮に報告するので……と挨拶してレイさんはこの場を去った。続いて、現在の受付嬢が報酬の手続きをしてくれる。

 指名依頼と緊急クエストによる特別手当もついて、報酬金が前回より多い600万ゴルバを手に入れた。冒険者登録して1週間経たないうちに、資産が1000万超えた。投資でテンバガー儲けをした気分だ。俺、株投資一度もやったことないけど。


 「なお、今回の成績により、オウガさんと赤鬼さんは『S』ランク冒険者に昇格です!」


 その一言に、ギルド内が騒然となる。


 「Sランクだと…!?」

 「まだあんな若い連中が!?どう見ても凄い力があるようには見えねえぞ?」

 「あの黄色い髪の女兵士がSランクじゃねーのか?彼女の方が強そうだぞ」


 などと、ここにいる冒険者の誰もが俺とアレンの昇格に疑問の声を上げた。隣にいるクィンがその称号を与えられるのに相応しいといった空気を醸し出してくる。俺に疑惑や不愉快といった視線を寄越してくる。ギルド内の空気が悪くなってきたのが分かる。


 「周りの連中は、俺らがSランクになったことに納得してねーようだな。さっきから鬱陶しい視線を感じる」

 「……群れを殲滅したのは本当なのに」


 アレンもこの負の視線がお気に召さない様子でいる。


 「彼らがあんな反応をするのも無理ないのかもしれません。国の兵士団やAランク冒険者のパーティを動員させるようなクエストでしたから。普通たった三人で行くレベルじゃありませんから」

 「それもそうだが、あいつらは俺の見た目が気に入らないみたいだぜ?こんな形をした男がSランク冒険者だなんて、どういうことだ…って言いたそうだ」


 冒険者どもの視線を無視してカウンターに用意されている金の確認作業をする。冒険者どもの様子を見たレイさんとやらは申し訳ありませんと謝罪する。


 「その…あまり気を悪くしないで下さい。彼らにとってはそれだけ衝撃的なことでしたから。私自身も本当はあなた方だけでクエストを成功させるとは思ってませんでしたから…」

 「そうかい」


 なのにテメーらギルドは、俺たちに危険な依頼をしたっていうのかよ。別にどうでもいいけど、それって俺たちが死んでも良かったってことにならねーか?アレンとクィンだけだったらヤベーことになってただろうな。

 

 「あの…Sランクに昇格した冒険者には、その名誉として王国から特別報酬がもらえるということになっているのですが…」

 「ふーん、そんなのがあるのか。俺は要らないかな。今ので資金が十分集まってるし。アレンは?」

 「コウガがいいなら、私も要らない」

 「じゃあ、特別報酬は受け取らないってことで」

 「い、いいのですかそれで…!?」

 

 俺とアレンが揃って受け取りを拒否したことにレイさんは困惑した。わざわざ王宮へ行くのは面倒そうだしな。必要な分の金が出されりゃ十分だ。


 「こういうのは謙虚とは...また違った感じですね。やっぱり変わってる人…」

 

 クィンの呟きもスルーしてこれから祝勝会でも開こうという話に切り替えて、上の階にあるレストランへ行こうと二人を促す。

 しかし階段を上ろうとした時、


 「待てよ、オウガとかいう不正冒険者!」


 俺をそんな呼び方をして行く手を止める冒険者が出てきた。やっぱり穏やかなまま終わることは出来ないようだな…。

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