17話「洞窟を進むと…」


 ドラグニア王国に日本という異世界の国出身の若い男女たちが召喚されて、彼らで構成された対モンストール戦闘組織「救世団」が結成されてから半月程の時間が経った。

 王国内での訓練、近隣の森で魔物を討伐させる実戦訓練、十分な安全を約束された中でのモンストール討伐任務など、美羽や高園を始めとする2年7組の生徒たちと先生は戦闘力を上げていった。

 手強い敵と戦うことを想定して、相性の良い者同士で組んで連携を取る訓練もやっていた。例えば高園は仲が良い米田や曽根と組んだり、大西は山本と片上、安藤と組んでいた。

 最初のうちは下位レベルのモンストール・魔物の討伐にあたり、段々敵の強さを上げていき、今では救世団のほとんどのメンバーが単独でⅮ~Ⅽランクの敵を倒せるレベルに上がっていた。

 その成果を知ったカドゥラ国王ら国の上層部は次の計画の頃合いだと判断し、救世団を呼び集めて本格的な戦闘準備に入らせた。


 「お前たち救世団には今後各大陸に存在する王国に数名ずつ滞在してもらうことになっている。サント王国をはじめとする4か国に均等にお前たちを派遣する、先日行われた各国代表同士の会談で決まったことだ。

 お前たち優秀な戦力を我が国だけが有しても世界の脅威を拭うことは出来ない。他の国々には救世団のような戦力は無いからな」

 「各国に均等に派遣して世界の人族の戦力のバランスを取る。それが今の人族のモンストールとの戦いに向けた方針だ。

 ただ今すぐ全員を派遣するわけではない。まだレベルが不十分な者もいる為、その者たちは引き続きここで訓練と経験を積んでもらう」


 カドゥラとマルス王子が美羽とクラスの今後の方針について説明する。この世界に存在する5大国が既に決めたことなので救世団に拒否権はない。そのことに不満を抱いていたのは美羽くらいで、クラスのほとんどは特に文句を言う様子はなかった。

 因みにこの派遣策を提案したのはミーシャ王女である。

 

 「ただ、現段階で既に他国へ派遣出来るだけのレベルに達している者が何人かいることは把握している。その者たちには3日後にそれぞれの国へ行ってもらう」


 カドゥラの言葉にクラスのほとんどがざわめく。自分たちの中の誰かが特に優れて強い戦士であることに期待している様子だ。自分がそうじゃないのかと自惚れている者がほとんどだ。


 「3日後に他国へ滞在してもらう者は……

 フジワラミワ、タカゾノヨリカ、ドウマルユウヤ、ソネミキ、ヨネダサヤ、ナカニシハルミ!以上6名だ!」


 マルスによる発表にクラスはまたも騒然とする。納得の声もあれば、驚きの声もあった。


 「私が…ここから離れて、他国に……。それじゃあもう、甲斐田君を捜すことが…っ」

 「………」


 美羽と高園は自分が派遣されることに愕然としていた。


 「マジか…俺が選ばれた…やったぜ!」


 茶が混じった黒髪の少年、堂丸勇也は自分が選ばれたことに歓喜していた。職業はガンシューター。元の世界ではサッカー部で、同じ部である里中や小林大記と親しい。


 「わ、私が…選ばれるなんて!?何かの間違いじゃ…」

 「そんなことないわ、小夜のスキルは今後さらに強くなるわ。国王様たちはそれを見越して小夜を選んだのよ!」


 米田小夜は選ばれたことに困惑して、それを曽根美紀が窘めている。


 「やったわね、私たち全員が選ばれるなんて!」


 もう一人…黒のロングヘアで眼鏡をかけている女子、中西晴美は堂丸と同じく選ばれたことを喜んでいる。職業はプリースト。高園たちと親しいが安藤久美とも親しい。

 

 「くっそー俺は選ばれねーのかよ!高園や先生はともかく、堂丸や中西たちに越されるなんて!」


 選ばれなかった大西雄介は頭を掻きむしって悔しがる。


 「へっ、そうしょげんなって。俺らもそのうち派遣されるって。それまでモンストールたくさんぶっ殺そうぜ!」


 大西にそう声をかけたのは須藤賢也。大西とつるんでいる不良男子だ(髪を赤く染めている、服装も派手めだ)。職業は銃剣士。彼も半月前の訓練で、大西たちと一緒になって皇雅をリンチしていた。学校でも皇雅をハブにしていた。


 「えー、晴美だけ選ばれてんじゃーん。私はここでお留守番ー?

 つーか何で米田が選ばれてるわけ?絶対私の方が強いのに(小声)」

 

 安藤はあからさまに不満言を漏らす。米田をチラと睨んでもいた。小動物然としてオドオドしているところが安藤にとって気に入らないようだ。


 「まあまあ抑えて。これからもう少し訓練頑張ればきっと久美も選ばれるって」

 「えー?訓練だるいし。モンストール倒し続けるだけでいいでしょどうせ」


 安藤を窘めている黒のセミショートヘアで長身の少女は、柴田あいり。職業は召喚術師。安藤や中西と親しい関係だ。


 「まったく、文句があちこちから聞こえるな…いいか貴様ら!」


 マルスは文句を漏らしている大西や安藤たちに叱責を飛ばす。


 「今回貴様らが選ばれなかったのは、単純に戦力がまだ不足しているからだ!今回選ばれた者たちは皆日々の訓練に精を出していたと聞いている。それに対して貴様らは彼ら程の訓練を怠っていたのではないか?その結果がこれだ!

 すぐに選ばれたいのならばもっと己を磨くことだ!今の貴様らなど、まだ余の実力と変わらないぞ!」

 「…マルス王子様の仰る通りだ。今後はより懸命にレベルを上げることに励むように。少しでも早く我々の希望に相応しい戦力となってくれ」


 マルスの檄にブラッド兵士団長も同意する。彼らの言葉に大西たちはへーいと返事して黙った。


 「貴様らも…死んだあの“ハズレ者”のようにはなりたくないであろう?ならば一層励め。以上だ」


 マルスの最後の言葉に救世団全員が反応する。大西をはじめとする大半はそれもそうだなと反応する中、美羽と高園はマルスを鋭く睨みつけていた。この期に及んで皇雅を貶める発言が気に障った様子だ。


 「選ばれた者たちにはこの後滞在先について説明がある。残っておくように。それ以外の者たちは解散だ」


 カドゥラの言葉を最後に話は終わりとなった。




                   *


  さて…今の俺は、カルス村を出てとりあえずサント王国を目指しているところだ。村を出て進んでいくと、店で聞いた通りの洞窟が見えてきた。ここを避けて王国へ行くのは無理そうなので、洞窟に入って進んでいく。


 あの瘴気にまみれた闇の地底と違い、割と明るくて空気も普通だ。その理由は、冒険者か王国の兵士かの誰かが作ったのか、あちこちに松明が設置されている。ここにいる生物たちは火が怖いのか、松明の近くに痕跡はない。洞窟内はけっこう人の手が加えられていて進みやすくはなっている。サント王国を行き来するからだろうな。


 しばらく進むと狼っぽい獣族が群れをなしてやってくる。洞窟に棲む魔物とかはどうにも出来なかったらしく、松明が近くにないとこうして魔物と遭遇する。

 「鑑定」でステータスを見る。と、一匹の平均レベルは5。それが7体か匹いる。召喚されたばかりのクラスメイト1人では敵わないレベルだな。

 固有技能は特に珍しいものは無いな、なら軽くひねるか。そう思い、戦闘態勢に入る。


 「脳のリミッター30%解除」


 この程度の奴らなら、ほんの少しの解除でいい。地面を蹴り、接近した狼どもに足刀蹴りを放つ。蹴りをまともにくらった狼は声もなく落ち、蹴りの衝撃波で周りの狼も吹き飛んで壁に叩きつけられる。残りの狼たちは低く唸りながら俺から逃げていった。俺に立ち向かってくる獣や魔物は基本こうやって相手するが、逃げてくれるなら放っとこう。いちいち殺すのめんどいし。


 その後、巨大ヤスデや蝙蝠、ネズミなど様々な種の生物が出てきて、いずれも適当に倒したり無視したりした。

 時間的に、今洞窟内をうろついている人って俺しかいないみたいだ。洞窟入った時も、その後しばらく進んでも全く人と遭遇しない。完全に貸し切り気分だ。

 だから、松明に照らされた先に人骨が転がっていたことに軽く驚いた。さっきから人がいないのはそういうことなのだろうか。

 その先を進むと、死体がいくつか転がっていた。中には強そうな防具を着た男の死体もあり、レベル20以上はありそうな奴らの死体をちらほら見かけた。

 どれも鋭利な刃物で抉られたような傷跡が見られる。モンストールが紛れているのか?と推測するが、犯人は全く分からない。いずれにせよレベル30以上の魔物かモンストールがうろついていそうだ。


 「あ、こいつらは…!」


 さっき見た死体をよく見ると、それらは村の店で俺に金を恵んでくれた髭冒険者パーティだった。先に進んでいたと思っていたらこんなところで死んでいたのか。

 髭男には軽く黙とうをして残りのメンバーは無視して去った。あいつら俺のこと軽く嘲笑ってたしな、黙とうなんかしてやるもんか!


 さらに奥へ進むと、先程までの明るさが無くなった。壁を見ると、松明が消されたような痕が見られた。故意に消したっぽいな。相手は暗闇でも目が利くタイプか。

 「夜目」を発動して、周りを注意深く見て進んでいると、同時に発動していた「気配感知」に何かが引っかかった。30m以内だ、近いぞ。

 相手に敢えて聞こえるよう足音を立てながら、気配がする方へ。徐々に姿があらわになる。



 「っ...!...誰!?」


 と女の声がする。件の殺人犯は女だったのか。そしてようやく姿がはっきりと見えた。

 肩に届くくらいの長さの赤い髪をし、身に着けているものは薄汚れた布服の女は、振り返りこちらを見据える。

 そして彼女の足元には―洞窟に生息する生物たちの死体がたくさん転がっている。どれもレベル10はありそうな奴らだ。だが、俺は彼女の口元に注目していた。

 彼女の口周りは血で真っ赤だった。さらに彼女の両手には肉片らしきものがあった。この格好と状況を見るからにして分かることは……


 「まさか、ここの魔物どもを食ってたのか...!?」


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