16話「冒険者になろう」


 兵士どもの包囲から容易に逃れ、はるか遠くへ離れて撒くことに成功する。

 人一人いない道を歩きながらこれからどうするか考える。


 「今更だけど、ここはドラグニア王国がある大陸とは別の大陸らしいな」


 さっき絡んできた兵士団のリーダーが言っていたな、ここはサント王国の国境だと。

 地上に戻ってきたは良いが、いつの間にか全く別の大陸へ移動していたようだ。地底を考え無しに駆け回ったからな、海を越えてこんなところに来てしまっていた。

 ドラグニア王国に戻るには海を渡るか、また地底へ潜って移動するか…か。


 「異世界…チート主人公……旅、冒険………」


 まず何をしようかと思い、現代世界で読みまくった異世界ファンタジーを参考に色々考えた結果、行きついた答えは…


 「やっぱ、冒険稼業かな。まずは生計を立てようか」


 ゾンビになったこの身は飲まず食わずでも死なないようになっているが、人間らしい生活はしたいと思っているので、まずは衣食住を確保することを決めた。

 そうと決まれば、行先は冒険者ギルドがある村あるいは町…もしかすると国になる。

 国の場合、たぶんサント王国だろうな。この顔のまま入国するとまずいな。そうなったら変装しなければな。

 色々考えながら小道を歩き続ける。

 30分程歩いたところで村に着いた。カルス村とかいう名の小さな村だ。

 小さな村といってもここは冒険者たちの宿地や物資補給の場として栄えている場所だ。

 村の人口は少ないが冒険者たちがよく出入りするから割と人がいる。見た感じは歴戦の猛者っていう強い奴はいない。中級レベルの連中がほとんどだ。

 だから装備が貧相な奴は却って目立つようだ。ま、俺は運が良いというかなんというか、ドラグニア王国の支給装備のお陰で目立つことはなかった。といっても今は大分ボロボロだけど。


 「金が……無い」


 文無しのまま実戦訓練へ遠征したから金は一銭も無い。金目のものも無い。だからまともな服に替えることが出来ない。

 困ったと頭を悩ませていると、男女数名が俺のところに来た。


 「随分ボロボロだな。クエスト帰りか?見るからに金も装備もロクに無いようだが」


 パーティのリーダーっぽい髭男が問いかけてくる。咄嗟に話を合わせることに。


 「実はそうなんだ。ギリギリ敵を倒した時にはもう色々失くしてしまってね。体力も所持品もほぼ底をついた状態なんだ。この村に来たのもやっとってところでね。ギルドに戻る途中なんだ」

 「なるほど。まだ若いようだが、あまり身に合わないクエストを受けるもんじゃねーぞ。早死にしちまう。

 仕方ねーからこれで新しい装備を買って無事に洞窟抜けてサント王国に帰るんだぞ」


 髭男は俺の姿をやや憐れに見て、その同情か何かの情けで俺に装備一式を揃えられるだけの金を分けてくれた。


 「恩に着るよ」


 礼の言葉に手を振って立ち去る際、彼の仲間たちは俺を見てクスクス笑って行った。


 「別にあの少年のことどうでもいいくせに。そうやって周りに自分の印象を良くさせるの好きだよねー」

 「はっはっは。弱い奴に情けをやるのが強い奴だろうが。さぁさっさとあの洞窟抜けてサントへ行くぞ」


 ……どうやら親切心というよりは、自分の為に俺に施しを与えたってところか。まぁそっちのほうが信用できるってものだし、警戒しないで大丈夫だな。

 周りの冒険者連中はそんな俺を見てクスクス笑っている。冒険者に施しを貰う冒険者は下に見られるようだ。

 そんな嘲笑を無視して早速新しい装備を買う。マントのような羽織るもの、その下は無地のシャツ、運動ジャージっぽいズボンみたいなのがあったのでそれを履く。靴は革ブーツみたいなものしかなかったが、どういう造りをしたのか、運動シューズと変わらない履き心地だったのでサイズが合ったのを購入。とにかく動きやすさを重視して買った。


 因みにお金についてだが、この世界では全王国・町・村で共通貨幣が導入されている。通貨名称は「ゴルバ」といい、赤・銅・銀・金の4種類の硬貨となっている。赤1枚=日本円でいう10円硬貨と同等の価値のようだ。そこから、銅1枚=赤10枚、銀1枚...と続く。

 さっきの冒険者から貰った金額は大体銀10~20ゴルバってところだ。


 見た目は他の冒険者たちに比べて質素だった為、またも周りから笑われる。

 服を新調した以上、ここに用は無い。


 「サント王国へ行くなら、途中洞窟を抜けなければならない。そこには、モンストールは基本現れないが、獣種や蟲種といった“魔物”が出てくる。レベルもそこそこ高いから、十分に準備しておけよ」


 服を売っている店の人からそんな情報をもらう。この世界にはモンストール以外に、魔物という敵もいるらしい。

 モンストールが発生する前の世界は主に魔物をクエストや任務で討伐していた。今はそれに加えてモンストールとも戦わなければならないからこの世界はけっこう冒険者業が儲かるらしい。

 それを聞いて俄然冒険者になろうと決意した。しばらくは冒険者としてこの世界を見てみるのも良いだろう。そのうち元の世界に帰れる方法も見つけたいところだ。

 

 準備を終えて店から出る。行先は特に決めていないが、冒険者ギルドがあると言われているサント王国に行こうかと思う。そこで正式に冒険者になろう。

 出発しようとしたその時、待てよと後ろから声をかけられる。振り向くと人相が悪い男冒険者二人が俺を蔑んだ目で睨みつけている。


 「さっきのやりとり見ていたぞ。ソロで冒険者をやっているそうだな。それも…ランクもEかFってところだろう」

 「そんな奴がこの先の洞窟を抜けられるとは思えねぇ。

 そこでだ。Ⅾランク…それも直に昇格する予定の上位候補である俺たちのパーティに入れてやるよ」


 よくあるパーティ編成の冒険者たちだった。冒険者は基本二人以上で編成するものらしい。ソロで活動している者は余程の実力者かその逆であぶれた者かのどちらかがほとんどらしい(さっきの店から得た情報)。

 で、俺がソロ冒険者だと見抜いたこの二人は俺をこのパーティに入れてやると話を持ち掛けられたのだが……どう見ても俺を仲間として歓迎する気はないな。悪意しか感じられない。


  「実力が下の下な奴じゃこの先やっていけない。見たところお前、クエストで死にかけたそうじゃねーか?実力が無いくせにソロでやってるからそうなるんだよ」

 「だが俺たちと一緒に行けば少なくとも死ぬことはねーよ。俺らは安全に成功出来るクエストしかやらねーからな」

 「まぁお前には俺らの荷物持ちからやってもらうけどな。丁度そういう奴が欲しいと思ってたところなんだ…くくっ」


 二人は悪意ある笑みを浮かべながら俺に荷物持ちとしてパーティに加われと言ってくる。俺を奴隷扱いにでもしたいのか。先程の一件で俺がかなりの弱者だと思い込んでいるそうだな。アホらしい。


 「断る。俺は一人でやっていける。さっき金を貰ったのは実力が無いとかじゃなくて、不慮の事故で有り金を落としたからってだけだ。荷物持ちが欲しいなら他を当たりな」


 そう言って去ろうとするが、当然のようにそれを許す二人ではなく、前後を塞いで止めてくる。


 「俺らは親切に、お前の為を思って勧誘してやってんだぜ?お前よりランクが上の俺らがよぉ」

 「何が不慮の事故だ。事故に対処出来てない時点で実力が無い雑魚だろうが」


 後ろの短髪男は武器である剣をこちらに向け、前を塞いでいる坊主の男は魔法具らしき道具を向けて脅してくる。そんなに俺を荷物持ちにさせたいのか。


 「下位の中でも雑魚な奴は俺らみたいな有望な冒険者の荷物持ちでもやってりゃいいんだよ!どうせ誰も期待なんかしてねーよ、モンストールどころか下位の魔物に手こずってるだろうカスが、冒険者名乗ってんじゃねぇ!」

 「まだ断るってんなら、今後冒険者をやれない程度に痛めつけてやるぜ…!」


 脅しながら二人は距離を詰めてくる。見た目だけで俺を弱者だと決めつけるこいつらには心底呆れさせられる。

 こういう奴らはウェブ小説の異世界作品の序盤で何度も見てきた。弱い者にしか相手しない、しかも自分らの奴隷にしようとするクズだ。

 それにこいつら見てると、元クラスメイトの大西とかああいうクソな連中を思い出してしまいイラついてくる。

 

 なので、遠慮無く潰すことにした。

 

 「お前らみたいなクソ野郎こそ――」


 後ろを振り返って剣を構えている男の頭を一瞬で掴んで――


 「冒険者やってんじゃねぇこの、冒険者の恥どもが!!」


 地面にドカァンと叩き潰した。


 「あ”……あ………」

 「………え?」


 地面にめり込んで物言わなくなった剣男を見た坊主男は、何が起こったのか理解が追いついていないといった様子だ。呆然と仲間の変わり果てた姿を見ている。


 「ゴミは……」


 めり込んでいる男を掘り出して掴んでその全身を思い切り――


 「消えろ」


 空の彼方へ投げ飛ばした。数秒で男の姿は空へ消えて無くなった。


 「……………」


 今度は空を呆然と見つめている冒険者の胸倉を掴んで締め上げる。


 「がっ!?あがががが……っ」

 「見た目でしか実力を測れない小物のクズが。目障りだからさっさと消えろ、殺すぞ」


 ブチッと掴んでいた服の一部を破って地面に捨てて吐き捨てる。俺が弱い奴ではなくとんでもない力を持った奴だと理解した坊主男は、血相を変えて悲鳴を上げながら俺から逃げ去った。


 現実にも、ああいうクズは存在するんだな。異世界は……俺が思っていた以上に現代と変わらないつまらないところなのだろうか。

 今の一件で異世界に対して失望をし始めた俺は溜息をついて改めて出発した。


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