14話「瘴気と暗闇の地底からの脱出」
まさか、あの時のモンストールどもがまだここに居座っていたとは。普通の野生動物と違ってモンストールどもには縄張り意識が特にないようだな。
いずれにしろラッキーだ。ハリネズミには両脚を、ゴリラには自暴自棄とはいえ思い切りブン殴られた。その仕返しができるのはありがたいぜ。
「グルアァ?」
どうやら全員、俺のことが分かっていないようだ。モンストールの肉を食い過ぎたせいで、外見が若干変わったのか、死んだせいで変色してしまっているのか。訝し気にこっちを見ている。
「どうでもいい。一方的にこっちの恨み晴らさせてもらうぜ」
「硬化」を纏い、拳を固め、さらに「身体武装化」で肘にブースト装置を生やす
(この技能は頭でイメージしたものを瞬時に具現化できるようだ)
そして、「瞬足」で一気に距離を詰めて対象のモンストールをぶん殴る。狙ったのは...
「あの時は思い切りやってくれたな。こんな風にっ!」
ゴリラ型に渾身の右ストレートを叩き込む。ゴリラ型は危機察知していたようで咄嗟にガード体勢に入るが、クロスした両腕はボンッと破裂した。
悲鳴っぽい声を上げるゴリラ型に追い討ちをかけるように、着地ざまに、右足を軸に回転蹴りを胴体に入れる。反応することができなかったゴリラ型は俺の蹴りをもろにくらい、上半身が消し飛んだ。
「『硬化』を纏っているとGランクのこいつらでもこれか...。強くなり過ぎたのかも」
ゴリラ型の下半身が力なくくずおれる様を眺めながら、自分の今の力を分析する。ゴリラ型がなすすべもなく殺される様を見て、残りのモンストールどもが、俺が危険な敵と認識し殺気立つ。
そのうち3体が俺を囲むように一斉にとびかかってくる。俺は両手を横に広げ、その場で一回転する。その一瞬で、魔力光線を放った。
「属性は光。消滅しろ」
極太の光線が一回転しながら3体のモンストールを侵攻する。光線が消えた頃には、3体は跡形もなく消えた。
「複数を相手にする時は、こいつは本当に便利だな」
最後に残ったハリネズミ型は、敵わないと悟ったのか、あの棘を数本こちらに飛ばすと、背を向けて逃走した。
俺は飛んでくる棘のうち2本を掴んだ。残りは適当に避けた。
「そういや、あの時も同じだったなぁ。必死に逃げる俺にめがけてこんなもの投げつけて俺の脚刺してくれたっけ?」
そう言いながら、俺は棘を2本同時に槍投げの構えを取り、軽く助走して同時にハリネズミ型の後ろ脚めがけてぶん投げた。
軽快な音を立てて、脚にぶっ刺さり、ハリネズミ型はその場で倒れ込む。
「あの時とは立場が逆だな?」
無表情のままハリネズミ型を見下す。今は俺が捕食者となっている。
倒れたままのハリネズミ型に止めを刺すべく、走り幅跳びの要領で飛び上がり、ハリネズミ型の真上の空中でライダーキックの姿勢で急降下する。「硬化」を纏った足でハリネズミ型の頭を踏みつけた。
失敗したスイカ割みたいに中身をぶちまけてしまった。グロい。
「まぁ、テメーがあの時あの廃墟にいて、俺をこんなところに落としてくれたから、今の俺がいるようなものだ。礼くらいは言っておくよ。じゃあな」
リベンジを達成した俺は再び上へ行く。地上までもう少しだ。
*
時は数日遡る。
場所はドラグニア王国。
実戦訓練を終えた召喚組と兵士団、マルス王子とミーシャ王女が帰還。カドゥラ国王の謁見で実戦訓練の結果を報告する。
「……カイダとやらは死んだ可能性が高い、か。召喚組の者がこうも早く犠牲になってしまったのは残念だが、まぁ犠牲になったのが彼だけだということは不幸中の幸いだったな」
国王は皇雅の消失に対して何とも思ってはいなかった。むしろ彼がいなくなったことに清々してさえいる。
(あの程度の男の替えならこの国には多く存在する。戦闘レベルが低いうえに我に不遜な態度をとるような者など不要だ。とんだハズレを呼び出してしまったものだ)
皇雅のことはもう忘れて、今後の方針について話そうとする。
「あんな化け物と生徒たちを戦わせるなんて、私は……っ」
美羽はGランクモンストールの件で、これ以上生徒たちを危険過ぎる敵と戦わせたくないと再度主張した。
「確かに災害レベルのモンストールはお前たちにはまだ早い、早過ぎる。何より災害レベルは下位や上位とは格が違う。
しかしだからこそ、異世界からきたお前たちの力が必要なのだ。恐ろしい気持ちや生徒たちを危ない目に遭わせたくないという気持ちは分かっているつもりだ。
しかしお前たちには我らを凌駕し得る力を秘めている。それは確かだ」
穏やかにカドゥラは美羽を説得する。
「勝手なのは承知だ。それでもどうか頼む!これから修練と実戦経験を積んでいけば、お前たちの力で災害レベルの敵をもきっと討伐できるようになるはずだ。
我らも協力は惜しまない、国や世界の為に力を貸して欲しい」
「人族にはここドラグニア以外にも4つの大国がある。それらの国にも災害レベルとの戦闘経験がある強者が何人かはいる。彼らと協力すればきっと勝てる!」
カドゥラとマルスが美羽にあれこれ言ってどうにか戦うことを承諾させる。しばらく続いた説得の末、国王たちに生徒たちに命の危険にさらすような無理を強いらないという約束を条件に美羽はようやく納得した。
「生徒たちは死なせない。あんな思いはもうしたくないから」
(それに甲斐田君もまだ死んだわけじゃない。強くなって彼を捜して、今度は助ける!)
美羽は、今後よりいっそう修練やモンストールの討伐に尽力していくことを決意した。
「やれやれ、説得するのに苦労をさせられた。彼らがいた世界はどうやら戦にかなり疎いようだな。まだ年若いという要素を差し引いてもどいつもこいつも肝が据わっておらぬではないか」
「だが…あんな連中に頼ってでもしないとこの国の戦力を大幅に上げる術はもはや皆無だった。ミーシャの提案も捨てたものではなかったと思いますよ父上。確かに今回召喚した者たちは全くと言っていい程に戦闘経験が浅すぎるようだが」
美羽たちがいなくなった謁見部屋でカドゥラとマルスは美羽とクラスの連中の愚痴を漏らしていた。
「我があそこまで頼んでいるというのに中々承諾しないとは、それに生徒とやら彼らの命を危機に晒さないなどと条件までつけおって。若娘が生意気に…っ」
「お気持ちは察しますがその辺で。まあこれから修練と討伐任務を積ませていけばいずれはあんな奴らでも十分に使える駒になり得るでしょう。しばしの我慢です」
「そうだな…。ひと月もすれば彼らは我らの優秀な兵となるだろうな。あのハズレ者と違って才に溢れ圧倒的能力値を誇る戦士になってもらわねば」
全てはこの国が栄える為に……国王たちはそんなことを口にしていた。
国王をはじめとする王族の連中は異世界召喚組の彼らを単なる駒としか認識していない。この先もし彼らが使い物にならないと判断したならば、皇雅の時と同じように“廃棄”することは確実だろう。
数日後、異世界召喚組の男女三十余名をまとめた組織…「救世団」が誕生し、ドラグニア王国に大きな戦力が加わることとなった。
*
深い地下から、上へ上へと登り続けるうちに、いつの間にか瘴気がほとんどなくなり、出てくるモンストールも上位クラス以下ばかりだった。食うことはせず、適当にあしらった。そしてついに...
「……!光が見えてきた!!」
あの日ここに入ってから何日経ったか分からない。随分と長い間、暗闇の中、瘴気と悪臭だらけの人が住めるわけがないとこで不眠不休ずっとさまよい続け、戦いつづけた。
そんな日々が、今やっと終わると思うと感動してきた。
しかしここは、以前実戦訓練で訪れた廃墟とは様相が違っていた。
もしかすると、闇雲に上っていくうちに、あの廃墟があったところと全く違うところに来てしまったのかもしれない。
光の方へ走る。光のところに着くと風も感じられる瘴気に混じったものではなく、自然を感じられる風だ。外は今、朝か昼の時間なのだろう。辺りは崖のようになっていて、ここを登れば地上だ。「制限解除」で脳のリミッターを外して、その場で思い切り跳んで一気に登り、この暗闇から脱出する。
同時に、陽の光を全身に浴びる。久しぶりの感覚だ。感動しながら軽く伸びをする。五感を戻してみると、悪臭もすっかりなくなっていた。瘴気の濃度も辺りに見えないくらい薄まっていた。
そのことが、地上へ帰ってこれたとより強く実感する。帰ってこれたことを嬉しく思う。
「帰って来たぞ、ふふふ...。死んでも生き返って、俺はここへ帰ってこれたぞ...!ハズレ者と罵られ、虐げられ、最後は嗤われながら捨てられたが、俺は物凄く強くなって戻ってきた!!」
しばらく歓喜してはしゃぐ。少し経ってから落ち着いて、崖を登り切って草原へ移動する。
誰もいない草原に立ち、日の光と風をこの身にしっかりと受ける。
「あのくそったれな連中がいるドラグニア王国には戻らない以上、一人でこの異世界を旅することになるわけだが……」
超絶強くなって闇の底から地上へ帰るという目的はひとまず達成された。
「さて、
ここから……どうしようか」
全く先のことを考えておらずやることも全然思いついていない状態で、俺の異世界での旅がようやく始まろうとしていた―――
チュートリアル編 完
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