11話「ゾンビの性能」
俺は、しばらく呆然とステータスプレートを眺めていた。何度見返しても職業欄に記されているのは、片手剣士ではなく、確かにゾンビとなっていた。
「つーか何だよ、職業がゾンビって!職業というより種族じゃないのか...!?」
人型モンストールから逃げ隠れていることも忘れるくらい動揺した俺はプレートに大声で突っ込む。当然プレートは無反応。仕方ないので、取り敢えず新しく発現した固有技能に目を通してみる。
『五感遮断』:自分の意思で痛覚、嗅覚、聴覚、味覚、視覚を自由自在に遮断可能なお、痛覚の遮断機能のみ自動か手動で切り替えが可能。
現在:自動
『自動再生』:身体の欠損箇所が自動修復される。欠損の大小で完治する時間差あり。
『略奪』:相手の固有技能を奪い自分のものにすることができる。同時に経験値も
得られる。方法は、対象の肉体の一部を体内に取り込むこと。取り込む大きさによって経験値の大小に差がある。なお、この技能は無機物および死体には発動しない。
『感染』:噛みついた相手をゾンビにさせることができる。なお、相手は死体に限られる。
どれもゾンビらしい技能ばかりだ。まず、「五感遮断」。これのお陰でさっき死ぬほどのダメージをおっても何も感じなかったのだ。今は、自動で遮断されているから、痛みは一切感じない。これは、そのままにしといて良いかなぁ?痛覚は、生死に関わる機能だけど、死んでる今の俺には関係無いしな。
次に「自動再生」。腹の大穴が塞がり、いつの間にか右腕が元通りになっていたのはこの技能のお陰か。欠損した箇所に塵が集まり、それらが細胞組織とかを再生して元の身体に復元したんだろう。詳しいことは分からん!あと、傷が深い程、治る速度が異なるということも注目だ。腹の穴よりも千切れた右腕の完治が後だったのは、そういうことだったのか。
そして、未だその目で確認していない残りの2つだが、これらはかなり強い技能なのでは?
「略奪」……こいつがいちばん凄いぞ。相手の固有技能を自分のものにできるのだから。そのやり方だが、肉体の一部を取り込むって、それってゾンビ映画でよくある...「食べる」ってこと...?
そこまで考えると、自分はもう人間を辞めた存在に生まれ変わってしまった気になってしまい、気分を悪くする。
「つまり、腕とか脚とか腹とかの肉を噛み千切って、飲み込めば、技能を習得...奪えるということか...」
もう一つの「感染」について、これは自分の駒を量産することができるのかもしれない。まぁ、つくりあげたゾンビが俺の命令に従うかは分らんが。ただし、ゾンビにするには、一度殺してからじゃないとダメか。使える奴と要らない奴を取捨選択できるし、便利じゃないか。
と、新しい固有技能を確認し終えたわけだが、ゾンビってこんなに有能過ぎる技能を持ってるもんだったのか、と感嘆する。
あと、能力値だが、体力が0になっているのを見て、やっぱり俺は死んでいるんだ、と自覚させらる。と同時に、ふと気づいたことが。
「これって、ずっと能力値が10倍になっているのか?」
そういえば、能力値欄が少し変わっている。右側に( )内に10倍数値が表示されているが、もしかしてこの数値が今の俺じゃないのか?だって、「逆境強化」は体力が1割未満で発動する技能で、体力が0ということは、条件達成してるし...。
「てことは、永遠に10倍の力を発揮できるってことか。さらにどれだけ攻撃されても死ぬことはない。既に死んでいるのだから。体は傷つくが、しばらくすれば元通り。...なんか俺が知ってるゾンビからかけ離れているなぁ。つーか、これって既にあいつらクラスメイトや兵士どもの誰よりも強くなってね?」
そこまで考えると、俺に黒い感情が渦巻いてくる。この力があれば、俺を死なせた原因をつくった王子や兵士たちを、俺を蔑んで嘲笑って見捨てたクラスメイトたちを、自分の良いようにできる。そんな考えが頭を過った。
(……あいつらに復讐だってできるかもしれない。でも復讐って?殺すのか?あいつらを?一人残らず?)
確かに俺をこんな目に遭わせたんだ、憎いと思っているし恨んでいる。仲間だなんて微塵も思っていない。殺せと命令されれば迷わず殺してやれるくらいにはもう情の欠片もない。
しかし……本当に殺しに行くか?
恨んでいる。思い出しただけでも怒りがこみあげてくる。
けど……わざわざ戻って復讐しに行く程か?別にあいつらに殺されたわけでもないしな。
なんだかいまいち踏み切れないな。
「まぁいいや。あいつらに復讐するかどうかについては後で決める。まずは……ここから出よう」
まずは、この瘴気まみれの地底から脱出しなければならない。で、ここはさっきみたいなキチガイに強いモンストールたちがうろついている。今のステータスではまともに相手できない。
つーかさっき遭遇した人型の奴は、実戦訓練の最初に相手した大きめの人間サイズと同じくらいだったはずだ。最弱レベルがあのサイズのはずが、あんなに強いのはおかしい。王国が嘘を教えていた可能性もあるが、異世界召喚してまでの手間かけといて嘘の情報を流してクラス全滅させる、なんてのもあり得ない。やっぱり王国にも知らない例外がまだあるようだ。それがあの人型というわけか。
災害レベルのそれもかなり上に位置する化け物であることは確かだ。逆に、あいつの肉を食らえば、少しの量でも経験値をたくさんもらえてレベル上げられるし、固有技能も得られるだろう。
「...かなり博打になるが、やる価値はありそうだな...だってこれ以上死ぬこと無いんだし。つーかもう死んでるし」
ここを脱出するには、少なくともGランクかそれ以上の敵の群れの中を進まなきゃいけないというクソハードなミッションだ。どちらにしろ、自身を強くせずして、地上へ戻るのは不可能だろう。
「いや、むしろ積極的に食らわなければならないんだ。地上に出る頃には誰よりも強い奴になる為に。
なら、ここで俺は強くなるべきなんだ!
...なってやろうじゃねーか、チート主人公に!!!」
こうして、ゾンビとして生まれ変わった俺は、さらに強くなるべく、この瘴気にまみれた地底に巣食う格上の化け物どもを食らうことにした。
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