6話「実戦訓練」


 翌日も訓練場で一人修練に励んでいた。少しでもクラスメイトたちとの差を埋めるべく。

 片手剣という殺傷能力が他に比べて低い武器をどう使うかを、過去に何冊も読んだラノベや漫画の内容を参考にして色々考えてシミュレーションして、自分なりの戦闘法を生み出していった。

 誰に頼ることもなく、兵士たちも当てにすることなく…。


 自主修練を終えて部屋に戻ろうと訓練場を出ると、いつからいたのか、そこにはミーシャ王女がいた。


 「一人での修練お疲れ様です。また、レベルが上がったんじゃないですか?」

 「……まぁ、少しは」


 お姫さんは俺に冷えたドリンクを渡してくれる。少し驚きつつも礼を言ってその場で飲む。


 「その…気を落とさないで下さいね?カイダさんだけあまり恩恵がなかったとはいえ、これからきっと凄く成長すると思います!

 だってあなたも異世界から来た救世主なのですから」


 俺を励まそうとしてるのか、そんなことを言う。けど今の俺にとってはそんな善意も気休めにしか聞こえない。素直にその言葉を受け入れる気にはならなかった。


 「…それよりも、通常のモンストールっていうのは、大体2~3m程の体躯なんだよな?」

 「え?はい、基本的には下位レベルのモンストールのサイズはそれくらいです。サイズに比例して強さも増していくというのが基本的な知識とされています」


 ならこの片手剣でまともに相手できるのは、その下位種のモンストール程度にしかならないかもな…こんな武器で上位以上の敵に果たして俺は…。


 (まあこの武器の活躍できるところをしっかり引き出すしかないのだろう。不意を突くとか…)


 少し考え事をしているとお姫さんがある情報を聞かせてくれた。


 「明日、カイダさんたちには実戦訓練でここから離れたところにある廃墟に行くことになっています。そこで下位レベルのモンストールを討伐するという任務をこなしてもらいます」


 昨日オッサン…カドゥラ王から聞かされた実戦訓練のことか。精鋭の兵士数人と同行しての討伐任務って話だったな。


 「その討伐任務には私とマルス王子も同行することになっています。何でも私たちの目で召喚組の実力を確かめるようにとのことで、同行を命じられました」

 「あんたらもモンストールら敵と戦う力はあるのか」

 「私は…戦闘は全くダメですが、王子は上位レベルのモンストールを討伐できる実力があるので。万が一の時は彼や兵士の方々に守ってもらうことになっています。

 私は主にこの水晶玉を使って皆さんの様子を国王様たちに見せる役目となっています」


 王国による実力テストみたいなもの。明日の訓練で誰が最も優れた戦士なのかを見極めるということか。同時に誰がいちばん弱いのか…もな。


 「カイダさん、実戦訓練…相手が下位レベルのみ、兵士がついているとはいえ、お気を付けてください。無茶も…しないで下さいね」

 「それは、俺が弱いからか?」


 お姫さんの言葉に何か引っかかった俺はついそんなことを言ってしまう。


 「いえ、そんなつもりで言ったわけでは!それにカイダさんは弱くなんてありません。誰よりも懸命に訓練していたあなたの実力はきっと誰よりもあると思います」


 お姫さんの目は真剣だった。決して建前から出た言葉ではなかった。


 (甲斐田君、君は十分に強いわ)


 まさか藤原先生と同じことを言う人がこんなところにいるとは。王族や兵士のほとんどは俺を見下して相手にしない奴らばかりだったが、この王女だけはどこか違うようだ。悪い人ではないのは確かかもな。


 「とにかく…明日は無事に任務を遂げて下さい。出来ればその…カイダさんとはまたお話をしたいので…」

 「俺と?」


 最後は何だかよく分からないことを言ってお姫さんは訓練場から去って行った。

 まぁ王国の中にも、マシな人間がいるということが分かった。今のところ一人だけだが。

 明日…片手剣でどれだけ敵と戦えるか、ラノベ・漫画知識にかけてみよう。




                  *


 翌日。実戦訓練の日がきた。装備一式は全て国が用意してくれている。けっこうレア度高い装備だ。俺の片手剣もそれなりに性能の良いものだった。

 出発する前に国王の謁見があった。初めてモンストールと戦う俺たちに激励しにきたらしい。

その際に国王は俺の方に顔を向けると蔑んだ目で俺を見下した。ブラットの報告で俺のステータスのことも耳にはいっているようだ。あからさまに俺を馬鹿にしたような視線を送るので、不快気に睨み返すと、気に障ったのか、俺を見据えながら、


 「今回の召喚で、例外にも、恵まれないステータスの者がいたようだな。ま、せいぜい他の者らの足を引っ張らないようついて行くがよい」


 と、嘲り含んだ声で言った。誰のことを言ってるのか明白であるクラスメイトは、俺を見て悪意たっぷりな笑みを浮かべる。

 性格悪い老害が。こいつも大西たちと変わらねーな。マルス王子も国王と同じく嘲り含んだ視線で俺を見ていた。朝から非常に不快な思いをした。


 城を発ち、目的地に近づくにつれ、瘴気が濃くなってくる。この先にモンストール、未知なる化け物が棲んでいると思うと緊張してくる。他の奴らも同じらしく、次第に口数が減っていく。

廃墟に着くと、同行していたミーシャ王女とマルス王子がここで待機することに。他にも数名の兵士も残り、ブラットと兵士数名が先頭で廃墟の中へ。中は瘴気に包まれ、不気味さが感じられる。


 しばらく進むと、前方から足音が。モンストールの登場である。サイズは力士くらいで、体は灰色の体毛で覆われている。両目をギラギラと滾らせこちらを睨む。その見た目に少し委縮したが、今回はブラットや戦い慣れした兵士たちも同行している。それにこのモンストールはレベルが一桁台だそうだ。

 ブラットがモンストールに攻撃をしかけながら、生徒たちに指示を出す。それに従い、大西や藤原先生をはじめとしてモンストールに攻撃をする。しばらくは力士サイズのモンストールたちが出現し、このサイズに慣れてきた生徒たちは、2~3人組で1匹討伐する形に。


 俺は…訓練で考えついた戦闘法のままに行動した。誰とも組まずに単独で遊撃として駆け回る。

 そして隙を見ては、首元に剣をブスリと刺して討伐。少し大きい敵は足首を斬り裂いて倒してから首を刈り取って討伐。

 主に生徒たちの攻撃で弱ったのを優先に狙う作戦だ。獲物を掠め取られて非難の視線を浴びるが気にならない。悔しかったら一撃で殺していけよ。恩恵あるんだからよ。

 もちろん弱っているのばかりではない。こちらに気づいていないモンストールに背後に忍び寄り、周りの壁を使って上に跳び、うなじ部分に深く突き刺す。そうやって討伐数を稼いでいく。が、レベルは中々上がらない。このサイズは雑魚扱いなのか。

 とはいえ自主訓練通りの成果を上げることに成功している。片手剣の性能を十分に活かして立ち回れている。俺の活躍を見たクラスメイトたちは驚愕している。一番雑魚ステだったはずの俺がこんなにも上手く討伐しているのだから当然の反応だ。

 藤原先生は俺を見て微笑んでいる。彼女も魔法でそれなりに討伐をしていた。

 この実戦訓練で俺は、恩恵にかまけてのうのうと過ごしていた怠惰なクラスメイトどもに、俺の実力を思い知らせてやった。



                   *


 やがて、地下へ進み、明るさが失っていく。出現するモンストールも2m級のサイズがほとんど。武器を普通のサイズに替え、アキレス腱部分を切り裂き、崩れ落ちたところに喉やうなじを斬って討っていく。気が付くと、討伐数は俺がいちばんになっていた。

戦果がハズレ者の俺に劣っている事実に焦っている馬鹿どもを俺は侮蔑をこめた目で煽ってやる。いい気味だ。

 だが、俺に劣ってるのがよっぽど癪に障ったのか、大西が躍起になり単独でさらに地下へ降りた。ブラットが制止するよう警告するも、聞かずに進む。


 しばらくすると、瘴気が一段と濃くなってきた気がする。何かヤバい気配がする。ブラットも何か感じ取ったのか、険しい表情だ。


 とその時。地下から背が凍るような咆哮が上がり、同時に、大西が蒼褪めた顔で戻ってくる。


 「ハァ、ハァ、何だよアレ!?あんなやべー奴いるなんて聞いてねーよぉ!」


 パニックを起こしながら叫ぶ。どうやら地下に今までのとは桁違いのモンストールがいたようだ。

 咆哮が再び上がったかと思うと、大西が駆け上った階段が崩壊する。そこから頭みたいなのが見えてくる。だが、そのサイズがさっき倒したのより10倍以上もある。唸り声を上げながら、人一人が隠れられるくらいのデカい手がここを登るようにかけてくる。そして、その全貌があらわになる。


 デカい。体長20mはあるくらい、体には棘があちこちに見られ皮膚はとても堅そうだ。俺の剣では刺さらないんじゃないか?だが、いちばん目を引くのは、あいつの周りに纏う濃い瘴気である。絶対普通じゃない。

 突然現れた大型のモンストールを観察していると、狼狽するブラットが。そして動揺しながら口にだした言葉がやけにはっきり耳に入った。



 「何でここにGランクのモンストールがいるんだ...!?」

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