~それぞれの夏休み 4~

 〈予定を確認する〉と言ってからあいつからの連絡は中々来ない。こちらから聞いてみても〈もう少し待って〉と言うばかり。


「トーウコちゃん!スマホばっかいじってるけど何見てるの?」


「別に…」


 コウキ君にも催促するような形で連絡をとってみた。そして昨日の夜、ようやく進展があった。

 夏休み中に集まるのは無理そうだけど、具体的な日にちを提示してくれた。普通のことなのに、それだけで嬉しく思ってしまうのは、あいつのことが気になっているからだろうか。

 みんなの予定が出揃ったので、今はあいつの返答待ちだ。まだ連絡は来ていない。


「それよりさ、俺の話聞いてよ」


「聞いてるよ」


 つまらない。

 この男の話はさっきから自分語りばかり。いかにも「俺ってすごいでしょ?」みたいなステータス自慢は聞いてて面白くない。

 この男だけではなく、他の男と話していてもつまらないと感じるようになった。あいつと会ったあの日から、私が楽しいと感じる会話を、その雰囲気を、知ってしまったからだろう。


 夏休みは友達と遊ぶ予定で埋め尽くしていた。その中には出会いを目的としたものもある。

 私が通う商業高校は女子の比率が多く、彼氏が欲しくても簡単にはできない。しかも好みのタイプというのがあるので、ただでさえ数が少ないのに候補はもっと少なくなる。仮に当てはまる人がいたとしても大体競争率が高いので、敬遠しがちだ。

 高校生活を楽しむうえで恋人という存在は必要不可欠。待っていても時間は過ぎていくだけなので、私たちは自ら出会いを求めに行くことにしたのだ。

 夏休みも残り二日となった今日も、こうして他校の男子と交流している。いわゆる合コンというやつだ。

 でも今の私は出会いを求めているわけではない。今日だって正直な話来たくはなかったが、前もってしていた約束なのでドタキャンするわけにもいかず、仕方なく来ているという状況。来てみればなんだかんだ楽しくなると思っていたが、この有り様だ。


「てかさ、トウコちゃん超可愛いよね?」


「ありがと」


 身なりに関してはそれなりに努力しているので謙遜はしない。自分でわかってるのに謙遜する人の方が私は嫌いだ。


「なのに彼氏いないってマジ?もったいなくね?」


「…そうかな?もったいなくはないけど」


 鬱陶しく思ってしまうが、こういう場で仲良くなろうとするのは当たり前のことだ。多分私の方がノリが悪く、印象も良くないだろう。だからといって好みでないのは変わらないし、仲良くなりたいともあまり思わない。

 夏休み前はあれほど気合を入れていてイケメンなら誰でもいいって思っていたのに、不思議なものだ。自分の好みを知るには理想ではなくて、現実にその人が現れないと気づかないということを学んだ。


「俺、トウコちゃんのこと一目見た時からいいなーって思ってたんだよね。話してみて相性もよさそうだし、俺たち付き合っちゃう?」


 何を思って相性がいいと判断したのか。今までの言動に加えてこの発言、この男の薄っぺらさを物語るには十分だ。

 大きなため息を吐いてどう断ろうか考えている時、スマホにメッセージが届く。すぐに開いて読んでみると思わずニヤついてしまった。


「向こうも何か良い感じだし、俺たちも抜け出して―――」


「ごめん!彼氏はいないけど気になってる人はいるんだよね」


「え?それって…」


「てか相性も良くないし、自分の話ばっかするのもどうかと思うよ?てことで付き合うとかないから。んじゃ、そろそろ帰るわ」


 私を誘ってくれた友達はどうやら上手くいっているようだ。ちょうど2人きりになりたかったようなので「そろそろ帰る」と一声だけかけてその場を後にした。

 ユイもチホも上手くやっているみたいだし、私とアヤネだけだ。でも、どうやら私たちにも何か良いことがありそうな予感がする。


「早く会いたいなー」

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