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とはいえ、徒歩の道のりなのですぐに目的地へとたどり着くはずもなかった。その日は、街道の傍で一休みする事になった。シャーミィだけならばもっとはやくたどり着いたであろうが、旅慣れしていないマサルも一緒なのでそれは仕方がないことだった。
テントを購入していたので、それを《時空魔法》で取り出して休む事になった。街道の傍とはいえ、盗賊などが現れないとは限らない。それもあって、二人は見張りをしながら交互に眠る事になった。
魔物であるシャーミィは正直睡眠を人間ほど必要としていなかったが、シャーミィを人間だと思っているマサルはシャーミィの言葉を相変わらず本気にしなかった。そのため、シャーミィは大人しくマサルの提案を飲んだのであった。
マサルはこの世界に降り立って、一か月もまだ経過していない状況である。彼が用心深いとはいえ、この世界の危険要素をすべて把握しているわけではない。幾ら見張りをつけていようとも、青年と少女の二人旅は本来ならばとても危険なものである。街道の傍とはいえ、危険に満ちている物だ。ただ、マサルは本当に幸いだった。共に旅をしているのがシャーミィである事が。
シャーミィがひし形と丸形と三角の三つの赤、青、黄の信号機のような月を見上げている中で、人の気配がした。
シャーミィはちらりとマサルに視線を向ける。
マサルはぐっすりと眠っている。起きる気配はなさそうだ。
異世界に転移して、比較的早い段階で街にたどり着き、マサルは外の恐怖を把握しきっていなかったのだ。
――こうして、盗賊と言う存在が青年と少女を獲物として狙い定めるという可能性がある事も、きちんと理解しきれていなかった。
例えば、シャーミィが何の力もない人間の少女であったのならば、盗賊の接近に気づいても対応しきれずに二人ともとらえられ、良くて奴隷落ち、最悪の場合で死んでいた事だろう。
ただし、そこにいるのは一見普通に見えて、普通とはかけ離れた少女である。
「げへへ、女がいるぜ」
「あの女を攫って、犯してやろう」
月を見上げているシャーミィを遠目から見て、口々にそのような下種な考えを口にする盗賊と呼ばれる者達がいる。
この世界で言う盗賊は、大抵が貧しい農民達が盗賊崩れになったものである。食べる物がなく餓え、そういう道を選び、盗賊行為に快感を覚え、盗賊としてあるものたち。
シャーミィは、自分達を襲おうとする盗賊達の事を敵としか認識していなかった。
シャーミィは元人間であるが故に、人間と言う存在に餓えていた。だからこそ、人間が傍にいて、人間が笑いかけてくれるだけで嬉しそうな顔をしていた。
とはいえ、シャーミィは闘争心を持ち合わせている。それが、なければ土の中で生きていけなかった。土の奥底で、敵を食らい続け、地上へと至ったのがシャーミィである。
人間は好きでも、敵は嫌い。
なので、シャーミィは容赦をしなかった。
その身に宿る魔力を操る。土の中で育ってきたシャーミィは、土そのものとの親和性が高い。土をまるで自分の体の一部のように操る事が可能だった。人の姿でそういう事をしたことがなかったが、本能が出来ると告げていた。
盗賊達の前にあった土が、彼らに襲い掛かった。
叫び声をあげようとした口に、土をどんどん入れていく。これは単に大声を出されてしまえば、マサルが起きてしまうかもしれないと思ったからにすぎない。
口の中に次々と土を放り込まれた盗賊達は、苦しそうな表情を浮かべて絶命した。
捕えて突き出せば、賞金がもらえたかもしれない。しかし、マサルはシャーミィに目立つ行為はしないようにと言っていた。盗賊達を青年と少女の二人組が捕らえたとなると、それはもう目立つ事が間違いないだろう。
だからこそ、シャーミィはその命を奪った。食らってしまう事も考えたが、元人間であるので人間を食べるのは躊躇われたため、このような殺し方になった。
あとは死体を埋めてしまうだけである。
また土を操って、穴を作る。そしてその穴の奥深くに死体を放り込んで、土を戻した。
これだけで完了だった。
「……マサルの事は私が守らんばね」
マサルは同じ日本出身という事や、懐かしい味を作り出してくれる存在と言う事でシャーミィにとっては大切な存在である。だからこそ、何よりも守らなければならないと思った。
こうして、人を殺してみて、自分に比べて人間という種族がどれだけ容易に命を失うのかというのを理解した。
魔物であるシャーミィと比べて、人間は脆い。
こうして盗賊を排除した事は、マサルに言うつもりはシャーミィにはない。マサルはすやすやと、シャーミィが盗賊を排除したことに気づかないまま眠っていた。
途中で見張りをかわったが、シャーミィは横になりながらも周りの気配を探っていた。何か敵が現れた場合、またマサルにばれないように排除をしようとずっと気を入っていたのだった。
翌日になって、また二人は街を目指す。
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