第二話 災厄の魔物と転移者の道中
1
「ふふふふ~ん♪」
シャーミィと名付けられた《デスタイラント》。災厄の魔物の一種に数えられる少女は、ご機嫌な様子であった。
鼻歌を歌いながら歩く姿は愛らしい。
シャーミィがマサルと共に街を出て、すでに数日が経過していた。
マサルが街を出てからマハラ砂漠とは正反対の方向に進むことを決めたのは、騎士の者達に
「《デスタイラント》の噂のある砂漠にはいかないほうが良い。そもそも危険だ」
と言われたからであった。
ちなみにその会話はシャーミィの居ない所でされた。
……シャーミィが《デスタイラント》本人である事はいまだに誰にも把握されていなかった。
まさかその災厄の魔物である本人が少女の姿でこんな場所にいるとは、誰も考えていないのである。
「シャ、シャーミィ。待ってくれ。休憩をしよう」
「もう休憩か? 疲れているの。じゃあ、休む」
「……シャーミィは体力が凄まじいな」
魔物であるシャーミィは人であるマサルよりも、体力があった。そのため、余裕を見せているが、マサルがその体力についていけるはずもなかった。
マサルも流石に、シャーミィが見た目通りの少女ではない事は理解していた。
とはいえ、シャーミィの人ではない発言は相変わらず信じられていなかった。自分と同じように異世界に渡る時に何かしらのチート能力を受け取ったのではないかとマサルは考えていたのだ。
地球からやってきた存在であるという大前提があるため、相手が自分と同じようにそうであると思い込んでしまっていた。
(でもその変わりに言葉が通じないというのは不便だっただろうに。それともシャーミィは異世界に来る時に記憶でも欠如したのか。混乱したのか。訳の分からない事言っていたし)
マサルがこの世界に来て間もないからというのと、シャーミィが日本語を話しているからというのもあるだろう。マサルはそんな風に勘違いをしていた。
そのような勘違いをされているなどとは露知らずのシャーミィは、にこにこしながら休憩のための準備をしている。息切れを起こしているマサルとは正反対に、シャーミィは元気であった。
それもそのはずだ。地上に出てからというもの、シャーミィにとっては喜ばしい事ばかりだった。
まずは数百年ぶりに人間に出会えた事。そして数百年ぶりに人間と会話を交わせた事。そして嬉しい事に完全な日本食とは言えないものの前世で食べなれていた味に近い物を食べる事が出来た事。
それらを踏まえて、数百年も生きている災厄の魔物と呼ばれるシャーミィは人生――いや、魔物生で一番楽しんでいた。
マサルとシャーミィは、整えられている街道を歩いていた。休憩のために街道から少し出て、草むらに二人は座り込んでいる。
マサルは腰に下げている水筒を手に取り、ごくごくと水を飲みこむ。そしてふぅと息を吐きだす。
「それにしても、マサルは体力なかね」
「……シャーミィの体力がおかしいだけだと思うが」
「そういうもの?」
不思議そうな顔をしているシャーミィが、人間だったの何て三百年以上前の事である。土の中で敵対する者を食らいながら地上を目指し続けた魔物は、人間の体力などもちろん覚えても居なかった。
人の形をしていようとも、人として生きた記憶があろうとも、あくまでシャーミィは魔物である。
「まぁ、私は人じゃなかもん」
「……そうか」
「あー、信じてなかね‼ 私は魔物。巨大なミミズやもん」
「……街で話でも聞いたのか? 冗談を言うにしても、それは悪い冗談だぞ? 街で噂されている《デスタイラント》は災厄の魔物らしいから、冗談でもそんな事は言わない方がいい。その魔物は全てを食らいつくす破滅の象徴らしいから」
「街?」
「街で聞いたのだろう。あの街の近くで災厄の魔物――《デスタイラント》が見られたと。だから、そんな冗談を言っているんだろう?」
《デスタイラント》が現れたと街が騒がしくなっていた事実を実際はシャーミィは知らなかった。
騎士団の者達はシャーミィに過保護になっていて、そのような恐ろしい存在の話をしようと思っていなかったのだ。あの騎士団の関所からほとんど出ておらず、まだこの世界の言葉が少ししかしゃべれないシャーミィがその噂を把握していないのも無理はなかった。
それよりもシャーミィは衝撃を受けていた。
(《デスタイラント》。災厄の魔物。街の近くに現れた。って、それ私やん! 明らかに私だよ。というか、私って《デスタイラント》っていう名前の魔物なのか。それさえも初めて知った。災厄の魔物って、物騒過ぎる。私、そんなに危険な魔物じゃなかとに。それに人間と仲よくしたいのに、人間にとって破滅の象徴って……)
と、自分が何と呼ばれているか知って、ショックを受けていた。
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