第4話 「扉の向こうには」



「———へぇ、映画かぁ」


 興味津々にエリーシャが見つめるのは巨大なスクリーンだった。

 ど迫力に演出されたストーリーに彼女は釘付けだ。


「映像の概念は私の時代にも存在していたけど、物語形式は演劇や舞台とかでしか見たことなかったなぁ」


「……それ十分にすごいんじゃねっ?」


「うーん、そうかな。私は映画の方がいいかも」


 魔術と技術は互いにとって一般常識。


 エリーシャの時代にとって車なんて再現しきれないほどの絡繰的な構造になっているため、現代にとって魔法となんら変わりない驚愕らしい。


 固定概念なのだから仕方ないけど。

 いまだに魔法が大昔に存在していただなんて到底信じられない。


「ああ、面白いかったなー! 特に炎の剣士さんの大技は見所だったよ!」


 子供のようにはしゃぐエリーシャ。

 先ほど買い与えた服装のせいでより一層、魔法使いとは程遠い活発な女の子だ。


 戦略のための町案内のはずが、いつのまにか遊びに変わってしまったな。


「あ、お腹すいた」


「お前ら幽霊なのに、空腹とかあんのかよ」


「そりゃ現界してるから半分『霊体』でもう半分が『受肉』している状態なんだ。私もなんだが違和感は感じているんけどさ、べつに死ぬわけじゃないから気にしないことにしてる!」


 なんてポジティブな娘なのか。

 受肉とは即ち、半人間ということなのかな。


 周りがエリーシャにのみ盲目なのが霊体サイドで、常に干渉している俺は彼女の人間サイドを見ているという捉え方で間違っていないだろうか。


「白世は空気がいいね。私の故郷を思い出すなっ」


 背中を体当たりされる。

 吹き飛ぶのではないかと戦慄したけど、思ったより軽い。


「やめろよ急になにも無いところで、すっ転びそうな奴だって周りから思われるだろうが」


「へへ、失敬失敬」


 次、向かうところは病院。

 病室の白いベットの上で眠るのは、先日まで元気だった母親だ。


 お見舞いの花を購入したのだが、未だ意識不明な状態が続いているため母さんに見せることができない。


「異形は人の魂を喰らう。君のお母さんは、微量だけど魂の一部が欠けてしまったんだ。申し訳ないけど現代の治療法じゃ、この昏睡状態からは目を覚まさせることはできない」


「はっきり言うんだな………見た目以上にエグイ容赦なさ」


「現実を包み隠して、良いことが起きないことは前世で何度も学んだ。口は災いのもとだって言うけど、嘘偽りは不幸の磁力に成り得るんだよ」


「心当たりしかねぇんだけど」


 あれやこれや考えてみれば、ああそうかと納得する。


 嘘ばっかりついていたから運が悪かったのか。


「魔法使いは胡散臭そうな人ばかりだけど、嘘はつかないように———」


 扉のほうを一点に見つめだすエリーシャ。


 何事か声をかけようとするも彼女に「シッ」と制止される。


「妙な気配を漂わせている奴がすぐそこまで近づいている………レンカ、私の言うとおりにして」


 人目のつきそうな場所でか。


 相手がただの能無しの化物なら納得だが、それ以外の奴なら存在をあからさまに示している理由が見当もつかない。


「ここじゃ人が多すぎる。周りも巻き込むわけにはいかない。早めにここから脱出して人気のない場所に移動しよう」


「移動って言ったって、出口は病室の扉一つだけだろ。正々堂々と出るのかよ……?」


「他にもあるじゃない」


 唐突に首元の襟を掴まれる。

 そのまま扉とは真逆の方、窓側まで引っ張られる。


 ふわりと浮き上がるなんともいえない感覚に表情を固める。

 自分が病室にいないことは瞬間的に変化した空気背景で理解した。


 エリーシャが俺を窓の外へと放り投げたのだ。


 3階どころではない。

 5階という高い位置から生身の俺は、地上に引き付けられるように落下を始めたのだった。




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