第3話 「魔法使いエリーシャ」
「星の遺物が一つでも開かれし時、世界に終焉が訪れる」
あれから12時間が経過する。
家内を荒らした化物に消滅の儀式を行った自称勇者の魔法使い「エリーシャ」に早朝から片付いていないリビングの真ん中で説明を受けていた。
人様の家のソファーを独占する彼女を正座した姿勢で見上げる。
「復唱ありがと。堅気の人間じゃ現状理解は困難だってわかっているけど、これから君に降りかかる厄災の対処のために聞いてほしい」
「ああ、とっくに前置きだけで理解が追い付いてねぇけど」
「単刀直入に告げちゃうけど、地上のなにもかもが滅んじゃう。さっきの化物たちの侵攻によってね」
エリーシャが端的すぎる告白。
あんなフィクション的な体験をしたのにも関わらず実感が全く湧いてこない。
いまだ思考が常識の範疇にいるからなのか、平穏な日常の逸脱が嘘にしか感じていない自分がいた。
「あっ、いま嘘って思ったでしょ?」
「そりゃま………パンピーですし」
常識人気取りの俺、最悪に気持ち悪いな。
気にしていないのか愉快に受け止めてくれるエリーシャ。
なにこの良い子。
「まず星の遺物だけど、さっき君を襲った化物のことをだよ。異形と呼んでるけどね」
「星って単語だけでスケールが想像を凌駕するんだけど、具体的に何処からやってきたワケ?」
「地球の親戚、月からだよ」
空に指をさす彼女に釣られ天井に視線を移す。
「ソイツらを対処するため呼ばれたのが私たち。君たち現代の人たちが幻想だって笑い話にする魔法やドラゴンとかが蔓延っていた遠い昔の世界から来たの」
「ラノベのような異世界からなのか?」
「そんなとこ」
適当に言ったのに伝わったのかよ。
「現代との根本的な干渉を果たしたからなのかな。情報が記憶に保有されてるらしいんだ」
「万能なんだな………お前」
「ふふーん、一般常識は心配しないでオーケイ」
発音が羨ましいぐらい良い。
イングランド出身のような容姿をしている、日本人ではないことは確かだ。ネイティブな先生と同等なぐらい違和感がないオーケイである。
「ちなみに私だけじゃないよ? いまこの極東の何処かで私と同じ存在が憑依体と合流しているところかもね」
チン、とトーストの完成した音がキッチンの方から聞こえた。
「え、そなの」
「とーぜんだよ。月の異形って戦力が底なしだから流石に私一人じゃ凌ぎきれないよ」
つまり先ほどの化物、恐ろしい月の異形がこれからもわんさかと襲いにくるってことか。
「数は皆と会わなきゃ分かんないけど、心強い味方になってくれるのは確か。私の知り合いもいるかもね。同窓会を開催しよっかな?」
主催費はだれが負担する前提なのか。
ん、てかエリーシャが言う憑依体とやらは何なのかと疑問に思った。
さっそく彼女に問いただす。
「本来私たちは亡き存在、霊体なんだ。だからホラ、目立つような恰好をしているのに昨日駆けつけてきた救急隊には声をかけられなかったでしょ。見えていなかったんだよ」
情報を整理すれば、納得できる根拠があった。
こんなにも若い見た目なのに幽霊、つまりは死を経験しているのかこの子も。
死んだ後だと言うのに、目覚めて間もなく与えられた仕事が世界滅亡の阻止。
それなのに、何も知らない人たちは平和な日常を満喫している。
常に自分たちが守られていることさえ知らずに。
俺も人のことを言えた立場ではない、つい先ほどまで無知だったから。
「エリーシャはどう思うんだよ………」
「ん、なにが?」
「感謝もされねぇくせに戦えるのかよ。お前にはお前自身の人生があるだろ、なのに名前も分からない他者のために二度目の命を費やして…………」
「―――見返りは平和で十分だよ。元々、私たちが勝手に存続させた未来だもん。他人事じゃないよ」
人は自分のことだけで手一杯なのに。
どうして名前も知らない相手の重荷を背負おうとするのか。
理解ができない。
お節介焼きどころではない、善意を通り越した異常者だ。
「今宵、狼煙が上がる」
ソファーから立ち上がり軽めに体を伸ばすエリーシャ、そこには緊張感がまったくない。
「その間はレンカくんさ、町案内をしてよ。この町のこと全く知らないし異形たちとの戦いで利用できるベストポジションがあるかもしれないしさ」
満面の笑みで提案する彼女。
ちょうど学校は休みだし丁度いいのかもしれない。
———
『世界観設定の解説』
・白世
日本、近畿地方ほぼ中央に位置した大都市、その端っこにある『白世市』と呼ばれる町が舞台。
・魔法
あらゆる奇跡を可能とする万能な技術。
本来は魔術と呼んでいる。
・エリーシャ(偉霊)
隠蔽された遠い過去の偉人。
魔法使いとして顕現したが元は剣闘士。
常に霊体なので他人からは見えない。
その姿を他人に披露するには定められた憑依体の体を借りなければならない。
・憑依体
エリーシャのような者達に体を一時的に憑依させる人物。
・星の遺物
人の魂を喰らう異形。
その生態は謎に包まれているがエリーシャのような者達ではなければ倒すことは不可能。
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