機械仕掛けの運命ー現代日本に転生した女勇者や女魔王、英雄を率いて滅びゆく世界を救済するー

亜原 雄介

第1話 「月の捕食者」



 ———あれは俺がまだ高校生だった時の話だ。

 肌寒く、雪がそろそろ降ってきても不思議ではない冬でそれは起きた。



 通っている学校『白世公立野大館高等学校』校舎の正門で一人、自転車から降りる。

 長年のブランクのせいか、地に足をつけるまでの動作があまりにも不器用だ。


 久々の自転車がまさかの新品、ママチャリならぬクランクのチェーン音がまったくしない流行りのロードバイクである。


 ただでさえ感覚を取り戻してもいないのに更なるハードルアップのせいで、自転車歴の浅い奴のように見られてしまう。


 自己紹介しよう。

 俺の名前は遠月蓮花とおつきれんか。青春から抜けだす手前の高校3年生である。


 にしても休学日の校舎は本当に静かだな。


 教員が数人ぐらい居るかもしれないけど、普段の賑やかさと反した雰囲気のせいで自分が通っていた学校とは思えない。


 夏休みの間、工事で校舎の内装が変わったような新鮮さだ。


「しっかし不気味だよなぁ。真夜中だったら尚更一人で学校侵入とか勇気百万倍必要になってくるよな………」


 正面の下駄箱への扉が開いていたのに、教員の姿が見当たらない。


 旅行中の生徒会の友人が教室に文化祭の企画書を忘れたから代わりに回収して欲しいとの指令を受けたが、まさかこんな不安な想いになるとは思いもしなかった。


 恐る恐ると廊下を進み、目的の教室に辿り着く。


 職員室には誰も居なかったので無断で持ってきた鍵を使って中へと入る。


 騒がしい生徒がいてくれたおかげで賑やかだった教室も、見ての通りお調子者たちが居なければただの虚無空間となんら変わりない。


 逆に誰かが鍵のかかった教室内で一人ポツンと座っていたら困るわ。教室に入った瞬間、青ざめた顔の女子高生が首だけを180度曲げて振り向いてきたら失神するわ。


 それよりも資料を回収してとっとと帰ろう、と思いながら生徒会長殿の席へとむかう。

 だが正直、彼の机がどれなのかが曖昧で覚えていない。


 物を置いていく奴なんてまず居ないし、ほとんどの机の中には何も残されていないのが普通だ。

 盗まれるからな。


 企画の書類っぽいやつを探し出せばいいだけか。

 少しだけ面倒だと思うも教室を適当に見渡す。



「ん……コレかな……」


 目に止まったのは窓側付近の中央あたりの机の上にあるクリアファイル。


 冊子が入っている。


 表紙は英単語で書かれているが確認するために手を伸ばす。



 —————パリン!!!!




 刹那、破裂音が教室内に木霊した。

 爆風のような衝撃が体に襲いかかり飛び散る窓の破片を浴びてしまう。


 幸い切り傷や刺し傷は免れたが、そんなことは後回しだ。


 何事かと考える余裕もなく、なんらかの怪奇現象に遭遇してしまったという確信だけで恐怖が襲いかかってきた。


 書類を手にとり、その場から逃げるように走り去る。廊下で転びそうになりながらも、構うことなく全力疾走。

 だらしない声を張り上げながら外へと脱出して、自転車に乗り込んだ。



(ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバイって!!)











「なぁに、怪奇現象?」

「疑ってんじゃねぇよ、本当にこの目で見たんだ」


 帰宅してすぐ母親に相談する。

 が、真に受けてくれるはずもなかった。


「それより聞いてよ、近所の田所さん知ってるでしょ? 息子さんの高良君が医療大に進学を予定してるらしいのさ、羨ましいねぇ頭の良い子をもって……比べてウチの子は」

「やめてくんない、そういうの。他所は他所じゃなかった?」


 近所の他人が出世しようと偉くなろうと知ったことではない。母さんもそうやって他の子と比べるから俺もやる気を失くすんだよ。


「貴方も就職より進学しなさいよ」

「だから大学には行かねぇって言ってんだろうが! どれだけ学費が掛かると思ってんだよ! 奨学金を申請したところで残るのは借金だけだろ!」


 しつこい母さんに強めの口調で反論する。


 親と将来の話を続けること以上にムカつくことが無い、この先の進路は俺がどうしようと関係あるか。


 俺の好きにさせろっての。


「あ、蓮花、話まだ終わってないのに!」


 話を続けたくない俺はリビングから颯爽と退去。

 自分の部屋と行き、ベットに倒れ込む。


 隅に置いていたクリアファイルの中身を確認する。


「やっべ………これまったく関係のないやつ」


 慌てていたせいで中身を確認できなかったが、まさかの無関係な文面だ。なんだ、外国語か。


 読むことのできない文字が白紙に埋まるほど書かれていた。もしかして留学志望者の練習用紙なのか。


「やっちまったよ……くそ」


 無断で持ってきてしまった罪悪感に頭を押さえる。戻って返すこともできるが、トラウマ級の怪奇現象を体験して好き好んで教室に戻ろうとは思わない。


 とりあえず次、登校した時に素直に事情を告げて返そう。気持ち悪がられるかもしれないけど構うことはない、自分が原因なのにもかかわらず黙っているほうが人間失格だ。


 もう一度ベッドで横になる。


 色々とあった。


 一度の出来事だったのにそう感じた。

 怪奇現象なんてそうそう遭遇しない。


 人生最大の体験である。


「———ネェ、タベテイイ?」


 天井に靄が蔓延していた。


 人型に近い、巨大な暗闇の化物が。


 幻覚だろうと決めつけようとしたが、眼前の化物がそっと手に触れてきて現実であることを思い知らされる。


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