第35話
魔法の存在を明かせない僕は次の展開を考えていた。
ひとまず意識がないテロリストの一人を空室に運び、拘束する。
「さてと。ここからどうするかだな」
「同感です」
九条さんは相変わらず煙草を蒸しながら言う。
ずいぶんとワイルドな警察官だ。大人しくしていれば女子高生と見間違うぐらい見た目なのに。人は見かけに寄らないとはよく言ったもんだ。
「てめえ今失礼なこと考えただろ」
うへ。魔眼を持っているじゃないかってぐらい勘が冴えるなこの人。
「あの……どうして女子高生のコスプレなんか」
「あアん? 俺様を辱めようってか?」
一人称俺様なの⁉︎ なんかもう本当に規格外な女性だよ!
「いや、そういうつもりじゃ……」
「こちとら、好きでこんな格好してるわけじゃねえっての。潜入の一環だよ、潜入の」
「ああ、なるほど」
「言っておくが俺様もてめえのことを信用したわけじゃねえぞ? 警護に当たっているはずの護衛官よりもマシそうだから仕方なく利用するだけだ。全てが終わったらみっちり詰めるからそのつもりでな。もちろん死んでも責任は取らねえし、ちょっとでも変な真似したら股間に穴が空くと思え」
チャカ、と。僕の下半身に銃口を向けてくる九条さん。
どうやら不審な動きをしたら僕の男性機能を破壊するつもりらしい。怖いな。
まあ、こうやって会話してくれるだけでもありがたいけど。
「まずは情報を仕入れましょう」
「ほう」
九条さんの表情に笑みが浮かぶ。
やるじゃねえか、という賞賛と僕の正体に対する疑心が入り混じっていた。
「どちらからやります?」
まずは僕が《導の魔眼》で覗いた情報を九条さんにも認識させる必要がある。
この状況だと拷問で吐かせる一択かな?
問題は時短を図るか否かだ。
最善なのは《悪夢の魔眼》の瞳術を発動。僕たちがテロリストを拷問し、白状させる幻覚を九条さんに見せることだ。
なにせ僕が意識を奪った一人は腐ってもテロリスト。
現実世界で拷問したところで口を割らない可能性も高い。
となれば、魔法行使を認識させずに僕と同等の情報を認知させるのがベストという結論になる。
次案は九条さんに拷問を担当してもらい、それでも吐かなければテロリスト側に瞳術をかけて、無理矢理吐かせるかどうか。
僕はこの二案のどちらかで行くと決めていて。
もしも九条さんの返答が、「本職の俺様がやる。言っておくが好きで拷問するわけじゃねえからな。仕方ねえからやるだけだ」と楽しそうに言えば、次案を採用。
そうじゃなく「お手並拝見と行こうじゃねえか」と僕に拷問を譲るようなら本命で行こうと思う。
いずれにしても《悪夢の魔眼》を行使することになるわけだから、今のうちに準備しようとした次の瞬間、
『久しぶりねリュウくん。ずっと会いたかったわよ』
《悪夢の魔眼》の本体――魔女のリゼが僕の背中に飛び降りるように接触してくる。相変わらず立派なものをお持ちで、躊躇なく背中に押し当ててくる。
黒曜石のような髪に男を惑わさずにはいられないスタイル。扇情的な黒のドレス。
あまり大きな声で言えないけれど魔女は癖があることが多くて……。
『ふふ。リュウくんのためならいくらでも魔眼を行使させてあげるわ。その代わり今夜は具現化してもい・い・か・し・ら?』
僕の顎をさするように誘惑してくるリゼ。
ツッコミたいことは山のようにあるけれど、一つだけ説明しておくと、魔眼の具現化――この場合、肉体を持つことを指す――は僕の魔力の五割近くが必要になる。
つまりどういうことかと言うと、めちゃくちゃ体力の消耗が激しいということ。
これからの戦闘はそれなりに疲弊するだろうし……。
やられた。完全にリゼに足元を見られている。
『リュウくんに会えなくてすごく寂しかったわ。だからお願い』
上目遣いのリゼ。さすが悪夢の魔眼の開眼者。小悪魔だ。
『お待ちください
ええっ、ちょっ……!
リゼとは反対側の肩に再び降りてくるシル。
ああ、やばい。嫌な予感がする。
『行使の頻度を考えれば具現化はシルが妥当かと』
『はい?』
降りてくるや否やバチバチと視線の火花を散らし合う二人。
あの、本当に申し訳ないんだけど時と場合を考えていただけます?
僕いまテロリストの撃退に当たっているところなんだけど⁉︎
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