第33話
二人一組のテロリストを引き離すことに成功した僕はトイレに向かっていた。
もちろん後ろには銃口を突きつけた気性の荒い男。僕の隣には制服に身を包んだSP。
エントランスから距離も離れたところで僕は彼女に視線で合図を送ってから仕掛ける。
もちろん魔法は一切なし。ここからは体術・武術一本で勝負だ。
全神経を集中させた僕は、地面を蹴ることなく体軸を後方へ大きく傾ける。
相手に背を向けたまま、発動したのは《
人間は予想だにしていないタイミングで距離を詰められると迫られていると認識できても、動けない。
目に姿が映っているにも拘らず反応できなくなる。
つまるところ重心移動と大きな歩幅により一瞬で距離を縮める高速移動だ。
本来は相手を視認し――すなわち正面を向いてやるものなんだけど、僕はこの手の奇襲ものが得意で、相手の気を察知することで後ろ向きのままやってのけれたりする。
なにせ僕は異世界で勇者ではなく暗殺者だったからだ。
ただし、この体術を行使するときは存在さえ認知されないままに首筋や脊髄に針を突き刺し、姿を消していた。
相手に高速移動ができる存在だと認識された時点で、警戒し、それが出来るとわかった上で行動されるからだ。
だから僕という存在を認識されてから使用するのはこれが初だ。
余談だけれど魔法には《縮地》と呼ばれる上位互換がある。空間そのものを縮めて急接近する上級魔法だ。
さすがにこれは二次元でしかお目にかかれない超高速だからSPの前で使用するわけにはいかない。
異世界だと面白いことに手練れほど《縮地》を敏感に察知する。必ず魔力を熾さなければいけないからだ。だから暗殺には《瞬歩》の方が成功率が高いという皮肉があったりなかったり。
と要らぬことばかり考えている内に僕の
重心移動により想像を絶する痛みが彼を襲っていることだろう。
手応えを感じた僕がすぐさま振り返ると鼻血が吹き出し、変な方向に鼻が曲がっていた。見るからに痛そうだ。
突然の奇襲に目に涙がたまるテロリスト。きっと視界もぼやけていることだろう。向けられた銃口はずいぶん僕からズレていた。
相手は大罪人。容赦を加えなくていいのが楽だ。
指先が触れるだけでも神経を刺激するであろう鼻を殴りにかかる。
もちろんすでに意識が朦朧としている彼がそれを躱せるわけもなく。
ストンと綺麗に入る。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐーッ!!」
骨が折れた鼻に強烈な拳は言語を発せないほどの痛みだったんだろうね。
言葉にならない悲鳴をあげながら膝をつく。
廊下に落ちた拳銃をつま先で蹴り飛ばし、僕はトドメの一撃――意識を奪いにかかる。
対象のこめかみに垂直で
コンクリートの壁に衝突するや否や、ぐったりと倒れ込む。
オッケー。まずは一人……!
急いで作戦会議を開こうとSPのいる方へ振り向こうとした次の瞬間、
「両手を挙げなさい」
僕の後頭部に銃口を突きつけながら警告してくるSP。
ええっ⁉︎ いやまあ……わかるよ?
どう考えても今の身のこなしは一般人じゃないもんね。まして僕の見てくれって誰がどう見てもただの学生だし。
だから警戒するのもわかるけどさ……その、もう少し確認の仕方ってもんがあるんじゃないの⁉︎
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