第32話
時間にして七分弱。
中央病院のエントランスが封鎖され、患者たちの連絡手段が全て回収させられていた。
再び《導の魔眼》を開く僕。
まずはこの病院全体を設計図レベルにまで分解し、構造を把握する。
その過程で複数犯と思わしき人物の気配も感じ取っていた。
しかも相当の手練たちなのだろう。皇宮護衛官をいとも容易く退け、サイレンサー付き銃で射殺されていく。
さて、状況を整理しよう。
四階建ての病院内には八人のテロリスト。
どうやら各階の制圧は
鳴川さん親娘も恐怖に怯えてはいるものの、特に危害は与えられていない様子。
いざとなれば《未来視の魔眼》が彼女たちの危険を知らせてくれる。
僕の手持ちを考えれば露骨な魔法を行使するのはその時点で十分だ。
色々と思案していると一階担当のテロリストのインカムに情報が飛んで来た様子。
僕は《
『こちら
『チームβ。制圧完了』『チームγ。制圧完了』『チームδ。制圧完了』
どうやら病院全体が奴らの支配下に渡ったことが各チームに共有されていた。
さてと問題はどう動くか、だけど……。
「しばらく大人しくしていれば命は助けてやる! もし少しでも妙な真似をしたら弾丸が額を貫通すると思え!』
お婆さんが射殺された仮想現実によりエントランス全体に恐怖の匂いが充満していた。
下手に動くのはご法度。一階担当のテロリストを撃退するなら一瞬で片をつける必要がある。
――よし。
僕はゆっくりと挙手。
すぐに銃口が額に向けられる。
「どうした小僧」
「あの……とっ、トイレに行かしてもらえないでしょうか?」
年相応の怯えた少年を演じる僕。
うまく出来ているか不安だ。
「ダメだ。我慢しろ」
「おっ、お願いします! お腹が痛くてもう……」
お腹を押さえて悲痛の表情で訴える。
インカムを盗み聞く限り、制圧は完了したばかり。
ここからが本番のはず。
これから神経を割かなければいけない状況で下痢の匂いをずっと嗅がなければいけないのは彼らにとっても辛いはず。
それに僕の外見はただの高校生だ。よもや異世界から帰還しているなんて夢にも思わないだろう。今は綺麗さっぱり気も押し殺している。
だからこそテロリスト二人を分散させられると踏んだ。
一人がここに残り監視を継続、もう一人が僕と一緒にトイレまで着いて来るはず。そう読んだのだ。
もちろんここで二人に《破》を当てて気絶させてもいいんだけど、そうしないだけの理由が僕にはあるわけで。
二人組のうち一人があごでトイレに連行するよう指示をする。
さっきからずっと僕に殺意を向けているテロリストは「チッ」と舌打ちをしたあと、
「さっさと行け、オラァッ!」
銃口で立ち上がるように指示してくる。
オーケー。作戦通り。
あとはあからさまに一般人じゃない彼女も乗ってくれば――。
「あの……」
狙い通り、制服に身を包んだ女の子も恐る恐る手を挙げる。
彼女の正体はすでに《導の魔眼》で捉えている。
正直に言えば、テロリストの制圧とその後の片付け全てを魔法で処理することは容易だ。
とはいえ、これは本来国家組織――警察の仕事だ。
何もかも僕が世話をするというのは違う気がしていた。
なにせ皇族の心臓手術が危険人物に漏れている。
国民の安全・秩序を守る組織としてあるまじき失態だ。
だから僕はこの襲撃全てを無かったことにするつもりはなくて。
面倒な後片付けなどは本来やるべき人間に託そうと思っていた。
だからこそ派手な魔法は行使せずに、こうやって地道に行っているわけ。
そしてその面倒な仕事を引き受ける――災難に合うのが、俄には信じがたいんだけど、今さっき手を挙げた女子高生と思われる人物。
彼女の正体はなんと
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