第25話
やられたらやり返す。
それがこの世界に帰還してからの僕のモットーだ。
相手が腕が立つと分かったなら、それを踏まえて対処するだけのこと。
とはいえ、ここで魔法を行使するのも違う気がしていて。
僕は異世界で身につけた体術だけで挑むことにした。
「お前が消えろ? 年配者に向かってなんだその口の聞き方はよ」
苛立つ大隈をよそに神経を研ぎ澄ませる僕。
魔法ではなく体術で身につけた《
第六感とは五感以外の感知能力もしくは異常に発達した五感の一部を指す。
現実世界で言う
僕が会得したのは二つ。
敵意や殺意を匂いで取られる《感情嗅覚》と身体に衣服が擦れた音さえ聞き漏らさない《繊細聴覚》だ。
《第六感》は魔力を消費しない代わりに集中力を要するため、常時発動することはできない。
魔力が枯渇したときや、魔法が行使できない状況で重宝する体術だ。
一対一、それも居合いに近い戦闘をするときに最大の効果を挙げられる。
《繊細聴覚》で大隈の微かな動きも繊細に聴き取り、暴力を振るうための動作かどうかを《感情嗅覚》と合わせて感じ取るというわけだ。
さらにもう一つ、とっておきの体術があるのだけれど――、
互いに隙を窺う。
先に動こうとしたのは大隈だ。
それを察知した次の瞬間、
「⁉︎」
何が起きたのか分からない、そんな表情で打たれた頬を撫でる大隈。
それもそのはず。僕はもう一つの体術を披露したからだ。
その名も《
人間には必ず予備動作というものがある。癖と言い換えてもいいかもしれない。
しかし武術の達人は超人なる反復練習の末、無駄が削ぎ落ち、高速技を繰り出すことができる。
僕がやったのがまさにそれだ。
大隈からすれば動こうとした瞬間に打撃が顔にヒットしたわけで戸惑いや驚きも一際だろう。
彼は体内にアルコールが含まれている。判断能力が低下し、沸点も低くなっているだろう。
ここから彼の音が荒くなる。
「何しやがるんだてめえ――ぶへっ!」
二発目。距離を詰めようとした彼に何もさせずに手の甲で顔面を打つ。
もちろん全集中している状態だから一発の威力は落ちてしまう。
だが、大隈が僕に襲い掛かろうとした回数と同じだけ、
「うぐっ!」「かはっ!」「げはっ!」「痛っ!」
短い悲鳴が幾度となく上がる。
僕に一発食らわせるどころか、距離を縮めることができない現実に我慢が利かなくなったんだろうね。
《第六感》を使う必要もないほど大振りで――隙だらけで迫ってくる。
僕はすぅーと深呼吸した後、トドメの一撃に入る準備に入る。
重心を落とし、顎に狙いを定めて、
「かっ……はっ……!」
掌底打ちをお見舞いする。
その衝撃は脳を震わせ、ふらついた後、足を絡めて尻餅をつく。
僕は彼を見下ろすようにして告げる。
「飲酒に遅刻。社会人失格のくせに暴力でマウントを取ろうとする。頭が高いので低くしました。まだ掌打の餌食になりたいですか?」
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