第7話
【
登校するや否や、うんざりする私。
下駄箱に上履きがない。
……はぁ、本当にくだらない。高校生にもなってこんな嫌がらせしかできないのかしら。
私、鳴川凛は芸能界にスカウトされた駆け出しの女優。
主演は遥か先だけれど、他人の目に止まるドラマや映画に出演できるところまできた。
本当は女手一つで育ててくれたお母さんのためにも女優に専念したいのだけれど、せめて高校だけは卒業して欲しいというお願いで通っている。
ドラマの撮影になれば脇役でも二〜三週間拘束されることなんてザラ。
いつの間にか私は授業に追いつけなくなっていた。
嫌がらせの主犯はわかっている。大月咲という女だ。
彼女は後天的に女を磨いたタイプ。
入念なメイクと計算された言動を観察していればわかる。
高校という狭い社会の中で上り詰めることを生きがいにしている。
だからこそ私が鼻につくのだろう。
テレビに出演すればエッジがかかる分、人生がイージーモードに見えるのもしれない。容姿だって一線を引いていると言ってもいい。
その証拠に私が登校するだけで男子生徒が集ってくるもの。
その光景は女を嫉妬させるのに十分でしょうね。
私からすれば迷惑以外の何ものでもないけれど。
でも嫉妬してしまう気持ちも理解できるわ。
同じ年頃の女優でもスタッフや監督の扱いが雲泥の差だもの。
しょせん脇役止まりの私に優越感に満ちた笑みを浮かべる女なんて腐るほどいる。
だから高校での嫌がらせは半分諦めているの。
有名税。持つ者の宿命。そんな感じかしら。
だけどさすがに教師の嫌がらせは看過できない。
「えっと……じゃあこの問題を鳴川さん、解いてくださる?」
彼女は婚期を逃した中年の女教師で私の担任だ。名前を中安という。
どうやら可能性に満ち溢れた私が気に入らない様子。
久しぶりに登校すると真っ先に当ててくる。
私の「わかりません」に「こんなこともわからないなんて社会で生きていけないわよ」というマウントを取りたいのよ。
本当に惨めな女。目も当てられない。
彼女のストレス発散に付き合うのは癪だけれど、抵抗するだけ無駄。
素直に立ち上がって「わかりません」と口を開こうとした次の瞬間、
「えっ?」
折ったノートの切り端が飛んで来る。
どうやら隣の男子生徒、名前は佐久間龍之介。
彼はクラスメイトから嫌がらせを受けている生徒だから覚えていた。
中を開いて確認する私。
そこには中安が当てた問題の答えが。
一か八か読み上げる私。
「……っ、正解よ」
中安は酷く悔しそうに顔を歪めていた。
けれど彼女もバカじゃない。すぐに佐久間の仕業だと察知して、
「じゃあ佐久間くん? この問題はわかるかしら?」
さっきよりも難易度が上がった問題を当ててくる。
私のせいで嫌な思いをさせてしまう……俯いた次の瞬間、
『超難題をスラスラと即答する佐久間』
えっ、嘘⁉︎ 佐久間ってこんなに頭が良い男だっけ?
私はいつの間にか彼から目が離せなくなっていた。
授業後、三井から呼び出された佐久間をこっそりつける私。
そこで衝撃的な光景を目にしてしまう。
佐久間が七人の男子生徒を危なげなくやり返したから。それも圧倒的。
すっ、すごい……!
私は今まで覚えたことのない感情が芽生えているのを自覚する。
これは多分、異性に対する関心。
佐久間のことをもっと知りたいという興味だった。
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