第5話

「上等じゃねえか」 

 拳を構えて跳ねる三井。

 それを見た佐久間は驚愕する。


(えっ……? ただでさえ隙だらけなのにぴょんぴょんし始めたよ⁉︎)


「あーあ。死んだな佐久間。弱いくせに神経を逆撫でするからだよ」

「元関東イチのボクサーを挑発するとか何考えてんだろうな」

 三井の取り巻きたちは楽しそうに笑みを浮かべる。

  

「あっ、ちょっと待って」と佐久間。

「なんだ今さら怖気ついたのか? だがもう遅え。お前には痛い目に遭ってもらう」

「いや、このまま勝負するのは卑怯だと思ってさ」


 そう言って佐久間は足で円を描く。目にも止まらぬ速さで。


(運動神経が格段に向上してる……やっぱり異能を持ったまま帰還したんだ。今度、確認しておかなきゃ。未知数のまま本気を出すわけにはいかないし。なにより僕と三井くんはもう別の生物だ。ハンデをつけないとフェアじゃないよね)


「この円から出すことができたら三井くんの勝ちでいいから」

 その発言に取り巻きは爆笑する。

「あははは! 友則、こいつマジで厨二病になってんぞ! 漫画でも見て強くなった気でいやがる」

「さっさと目を覚まさせてあげろ」


「雑魚が調子に乗ってんじゃねえ! もう怒ったぜ。てめえをボコボコにする。今日という今日は妹を連れて来てもらうからな!」

「御託はいいから早く来てよ」


 人差し指でくいくいとする佐久間。

 額に血管を浮かび上がらせた三井の右ストレートが――空を切る。

 スローモーションで迫ってくる拳を首を傾けるだけで躱す。


「ま〜きの」と、ふざける佐久間。

「次は手加減しねえぞ」

 続いて三井の左。顔面と見せかけ、腹部に持っていく。フェイントだ。


(……うーん。躱すのは簡単だけど、どうしよう。耐久性を確認するために一発もらっておこうかな)


 容易く流すことができるそれをあえて受ける佐久間。

 関東大会で優勝経験のあるボディが直撃する。


「なっ……!」

 パンチをもらった佐久間の両目が見開いた。

「はっ、さっきまでの威勢はどうした? 息ができねえだろ!」


 全力のボディに有頂天になる三井。

 確実な手応えに口の端を釣り上げる。


「うっ、うっ……」

 依然として棒立ちの佐久間。

 彼はやはり驚いていた。


(嘘でしょ? 全く痛くないんだけど⁉︎ まさか今のが全力? とっ、とにかく急いで確認しなきゃ。もし本気ならもっと手加減が必要かもしれない!)


「えっと……申し訳ないんだけど、これで本気なの?」

「なっ、なんでボディを食らって平然としてやがる⁉︎」

「鍛えたから、かな?」


「お前ら、全員でこいつをしめろ‼︎ これ以上調子に乗らせるな!」

 今度は取り巻きを含めた全員で佐久間を囲むように襲いかかる。


(……全員で七人か。これぐらいなら《魔眼》を開眼しなくてもさばけそうだけど――うーん、円から出ないだけじゃなくて手を使わないハンデも必要かな?)


「両手は使わないようにポケットに入れておくね?」

「ふざけんじゃねえぞおおおおッ‼︎」

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