第17話

 キャンプ場に着いたどーーー!!


「あぁぁぁ゛…超、しん、どい…しぬ…」

「…あんたねぇ、何考えてるのよ」


 はしゃぎすぎた…。


「…まあ、そう言う訳で…あの”水”な…ドーピングっぽい効果があったんだが…」

「その様子だと、その場しのぎ的な効果なのかしら…」

「それだな多分」

「審、立てる?」

「ああ…無理かも…」

「審あんた、生まれたばっかりの子馬みたいになってるわよ…」


 足がふるえるー。

 あ、紗衣子が手を貸してくれた。ありがとう、助かります…。


「そうそう、ちょっとアレの件で話があったのよ」

「アレって…ああ、アレ超能力か」

「昨日の夜、また夢で声が聞こえたのよ」

「またお告げか、今度は何だ?」


 エスパーから巫女にでもジョブチェンジしたのかな、こいつは。


「また解読するのに苦労したけど…多分こんな事を言ってたと思うのよ。

 『山で寝るな』って」

「いや、ざっくりしてんなー」


 意味がわからん。


 んな事やってると、遅れて委員長達とヒデも来た。

 ちなみにサクは俺よりも先に着て準備を始めて、もう薪に着火し終わって調理開始してる。

 ロック過ぎるなアイツは、いやメタルだっけ。


 ヒデは…相変わらず委員長と小競り合いをしてるが、流石に疲れたのか長くは続かない様子だ。


「アキ…そんなにバテて料理は大丈夫なのか?」

「え、無理」

「お前は…」


 冷めた眼で見るな友よ。


 委員長も何か用? あれ、怒ってる??


「ねえ、眞木君。聞きたい事が有るのだけど、新山君は何をやっているのかしら?」

「え? 肉を焼いてるんだと思うけど?」


 欧米のオッサンがアウトドアで焼いてそうな、すごいデカい肉な。

 ん? 委員長なんでそんなにイラついてんの?


「今日はメニュー決まってた筈よね? 豚汁を作るって決まってたはずよね?

 それに、あれは材料に無かったでしょう?」

「いやぁ、あれはサクが自前で持って来た肉だから、俺たちの班の材料費からは出てないよ」


 結構いい肉だよな、デカいし。


 あの公家顔メタルは、BBQなら肉を焼くのは当たり前と言ってたし。自腹でも惜しくないんだろう。

 まあ俺もサクの気持ちは分かる、かっこいいもんなー海外のキャンプ動画とか見ると。

 だからさー俺を睨まれても困るよ委員長。


「さ、流石にルール違反でしょう…? 眞木君も何故止めてくれなかったの?」

「おおう…そうだけどさ、サクのあの顔を見てよ」


 自慢のロン毛が焦げないよう纏めて、タオルを首に掛けたサクの額は汗びっしりだ。

 そして、満面の笑み。あいつあんな感じで笑えるのか。

 目の前の極厚ステーキを育てる事に夢中になりやがって。


「あんなに良い笑顔してんだぜ? 俺には止められない…」

「新山君、教室では笑った顔なんて見せないのに…」


 俺も初めて見る。


「あとな、他の班も似たようなもんだぞ」


 さすがにウチほどでかい肉焼いてる班は無いが。


「本当…なんてことなの。あっちは焼き芋…お芋…」


 焼き芋、好きなのか。委員長ちょっとヨダレでてない?

 後で行って、サクが焼いた肉と少しトレードしてもらうか。


 作りながらマシュマロ焼いてる女子もいるし、ほぼキャンプ気分だな。

 大体、育ち盛りが豚汁一杯で満足できるわけないだろ。

 なんか色々納得いってない感じだな、委員長は。


「一応、各班とも豚汁も作るみたいだから、ルールは守ってると思うよ。

 それにさ、テストも終わったばかりで、みんなもガス抜きが必要なんだよ」

「…たしかにそうだけど、でも…」

「こういうのも学校生活の思い出になると思うんだ。

 委員長も折角だからバーベキュー楽しもうぜ。

 後でサクの肉と、あの焼き芋交換してもらいにいこう」

「そ、そうね!! もう少し物事を柔軟に考えないといけないわよね!!」


 やっぱりお好きなんですね、お芋。

 まあ、とにかく委員長も納得してくれてよかった。

 サツマイモの魅力に助けられたな、ありがとう農家の人。


 おっと、そうだ紗衣子どこだ?

 お、居た居たちょっとこっち来い。


「そういう事だから、俺がご飯を炊くから、汁物は紗衣子が…じゃなく女子に任せた」


 やっべ、ちょっとテスト勉強中に、こいつが家にきてた時のクセが。

 紗衣子はあのカレー以降も、結構メシ作ってくれてたからな。たまに母さんと一緒に。


「何いってるのよ、一緒にやりなさいよ」

「バカ言うな、ヒデと委員長を一緒に料理させられねーだろ」

「…そうね」


 陰陽ステーキもあるから、豚汁の量は加減しろよ?


 ん、委員長がサクの所に…ああ、鍋掛けるスペース無いからあけろと言ってるのかな。

 流石にそれはどけないとだが、しかしまあ…アレだな…。


「新山君、野菜は無いの?」

「そこにあるだろう」

「 …これはオリーブオイルよね?」


 いやぁ…まいったな、こりゃ。


「紗衣子、頼んだ」

「いや、審が行きなさいよ…友達なんでしょ」

「…二人で行くか」


 お前は委員長担当だからな?

 やっぱこれ、人選間違えてたわー。

 ハハハ…。



 ◇



 最初に調理し始めたうちの班だが、出来上がったのは最後だ。

 サクの焼く肉が、分厚過ぎて時間が掛かったので。

 まあ、紗衣子たち女子も色々言いつつ、映えるステーキをスマホで撮りまくってたしな。

 サクも満足気な顔で塩を振ってるし、みんな楽しめてるので問題なし。

 他の班で早い所は、豚汁インスタントで作ってたりするしなー。

 ホントうちの学校自由だなー。


「はもはもはもはも…」


 委員長は早速、焼き芋にかぶりついてる。いや、メシくえよ。

 もう一本は…ああ、それは食後のデザートになるんだ…。

 俺が思ってるより、委員長面白い性格してるのかもしれん。紗衣子も天然だって言ってたし。


 しっかしこの量、それに豚汁とステーキで肉が被ってるのも問題だ。


「…豚汁に入っている、僕の知識にも無い赤紫色の野菜は何だ?」


 あんまり小動物保健委員に詰め寄るなヒデ。犯人の目星は付いてる。


「ええ? そんな野菜入ってたかしらね? あたし知らなーい」


 白々しいな紗衣子。

 …もしかして、家庭菜園で育ててる野菜ってそれか? そうなんだな??

 ネットで検索しても引っ掛からない、ファンタジー野菜ばかり育てやがって…後で追及しておこう。

 まあ、俺も紗衣子の料理にはいい加減慣れたので、味に問題ないのは分かってるんだが。


「何かしゃきしゃきしてるけど美味い」

「アキは、よくその色合いに躊躇せず口に放り込めるな」


 呆れた眼で見るなよヒデ。


「お前達、黙って肉を喰え」


 話しながらワイルドに肉を噛みちぎるな陰陽師。

 こいつ肉が絡むとよく喋りやがる。


「新山君、野菜代わりに豚汁もちゃんと食べないと駄目よ」

「BBQに来てるのに肉以外を喰えだと…?」


 いや、バーベキューに来てるわけじゃねーからな?

 学校の遠足だぞ? 忘れんなよバンドマン。

 オリーブオイルをかけるんじゃない、それは野菜じゃねーし。


 …こいつらに突っ込み入れてると俺のご飯が冷めるな。

 俺は、お肉にはお米がないとダメなんだよ。

 分厚いステーキもいいけどな、今回は薄切りにしてご飯の上にのせる。


「出来たステーキ丼!」

「あんた本当に自由よね」


 紗衣子よ、俺の何処が自由人だと言うのか。


「醤油はともかく、何でワサビまで持ってきてるのよ」

「ステーキにはわさび醤油だろ?」

「あんた、この前はガーリック派だって言ってなかった?」

「あの時の俺とは違うんだよ」


 昔の事をいちいち蒸し返す女はウザがられるぞ?


 ん、何時の間にか隣にメガネショタことヒデが居る。

 なんだよ小声で、はっきり話せ。


「ハハハ! 随分楽しんでるな!」

「まあなー」


 なんだかんだで楽しいよ。


「いつの間にか伊東とあんなに仲良くなってたのには驚いたがな。

 良い方向に向かってるのは、僕も分かる」

「んー、そう見えるか」


 こいつは小学校の時から色々と俺を気に掛けてくれる。

 流石に超能力の事は知らんと思うが、俺の恋心は察してるか。


「高校に入ってからも色々と心配してたんだがな、伊東の感じなら…大丈夫だろうな」

「何が大丈夫なんだよ」

「もうある程度は信頼し合ってる様子だしな。まあ頑張れ、ハハハ!」

「お、おう…がんばるわ」


 こいつは、ガキの頃に俺がやらかした事件をしってる。それに女子嫌いだ。

 もう少し苦言を呈してくるもんだと思ってたが…まあいいか。

 BBQ楽しいしなー。ただ…ちょっと食い過ぎた、うっぷ。

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