第11話

 で、夕方になった。


「審って、地頭は悪くないのね…でも、やっぱり集中力が…」

「ハハハまあな」

「あんたまさか自分が誉められてるとでも思って無いわよね?」


 歴代の担任教師と、同じ事おっしゃってますね。


「俺はもう、一生分勉強した気がするけどな」

「高校生活まだ二年以上残ってるわよ」

「…やっぱやるの? 明日も?」

「違うわ、卒業までこれから毎日よ」


 そうか、毎日か…うん。

 もう自宅まで知られてるし、逃げられないよなあ。

 まあ、俺が勉強してなかったのが悪いんだが。


「あのね、冗談とか誇張ぬきで言わせてもらうけど…このままだと留年よ?」

「はははい申し訳ありませんっ!」


 同級生に、普通に叱られたー。

 流石に留年はマズい。

 ただ、紗衣子は大丈夫なのか…いや留年の心配はしてないが。


「紗衣子も俺にばっか教えてて、自分の成績とか心配じゃないの?」

「別にずっと見てる訳じゃないから大丈夫よ。

 あたしも一緒に自分の勉強してたの分かるでしょ?」


 なんか随分先のお勉強に手を付けていらっしゃいましたよね。

 俺にはさっぱり理解出来なかったが。


「あと審の質問って、何故かあたしが苦手な所を嫌がらせみたいに突いてくるから、結果的にあたしのプラスにはなってるのよ」

「そりゃ何よりだが…」


 なんだ嫌がらせって、そんなつもり無いぞ。

 ジト目やめろわざとじゃないし。

 結果オーライなんだからそれでいいだろ。


 ん、そろそろ時間か。


「そろそろ夕飯の準備するかー」

「そうね、それじゃ下にいきましょ」


 時間的に母さん帰ってきてるかもな。

 いや…帰ってきてるな、気がつかなかったが。

 何か台所から音するし。


 うん、階段下りてリビングから台所覗いたら、やっぱり母さん帰ってた。

 多分、司から俺達が勉強してると聞いて、邪魔しない様に静かにしててくれたんだろう。


「母さん、おかえりなさい」

「ただいま、あき君。

 今日のご飯は、あき君が作った物じゃないのね…女の子が来てる様子だけど、その子が作ったのかしらー?」


 そ、そうですっ。

 …あんま深く考えて無かったけど、これ色々と母さんに誤解されるんじゃね?


「あ、ええっと、ああ、はじめまして!!

 わわわ、わたくし、伊藤紗衣子と申します、本日はおおお邪魔してます!!」


 おーおー、分かりやすく緊張してんなー。

 紗衣子よ、お辞儀してるけどそっちには冷蔵庫しかないぞ?

 まあでも人んちの親とか何か緊張するもんな。

 もうちょっとラクにしていいんだぞ?


「クラスメイトなんだ、ちょっと勉強教えてもらってた」

「あらあら、お料理してもらった上にーお勉強まで?

 何だか貰いっぱなしで、悪いわねえー」

「い、いえ! あきら君にはちゃいちょ、じゃない体調悪くした時にお世話になったので、そのお礼なんです!!」


 盛大に噛みやがってコイツめ可愛い、母親の前で俺を動揺させる作戦か?


「そうなのね、あき君がちゃーんとお役に立ってるなんて、母さんうれしいわー」

「もちろんだよ、なんたって母さんの息子だしなハハハ」

「…よくいうわね」


 紗衣子、ボソッと突っ込み入れるの無しな。

 ほーらもう眉間にシワ寄り始めてんぞ。


「そうそう、先にカレー味見させて頂いたわー、とーっても美味しいわね、夕飯が楽しみよーふふ」

「あ、ありがとうございます!!」


 あれ、母さん建前じゃなくマジで言ってる感じだ。

 ゴーヤ味しなかったのか?

 もしかしてマップ上の女性ユニットには無効な状態異常なのかもしれない。

 それとも、あの出来事は夢だったのかな?

 お、司も来たな。


「わーい?? 今日はカレーだー???」


 うん、夢じゃないな。


「あら、つー君も来たわねー、今日もお掃除ありがとう。

 今ご飯取り分けるから、手伝ってもらえる?」

「わかった! 母ちゃんまかせて!!」


 母さんを中心に手早く夕飯の準備がすすむ。

 そんな中、我が家のコンビネーションを前に、何をしていいか分からずあたふたする紗衣子。

 とりあえず4人分のコップや食器を設置するついでに、紗衣子も適当な椅子に設置。

 おっと、一応そっと念を押しておくか。


「…スプーンは曲げるなよ?」

「ま、曲げないわよっ」


 まあ今日は電気の日だし、無理だと分かっちゃいるが。


 ん、そんな事やってるうちに準備が出来たな。

 なんとなく紗衣子の隣に座る、というかコイツに母さんや司の隣は十年早いしな。


「それじゃみんなー、作ってくれた紗衣子ちゃんにー、感謝しながら、いただきますー」


「いただきまーす」

「ねーちゃんいただきまーす!」

「い、いただきますっ!!」


 ん?


「「「うまい!!!」」」


 なんだこれ! あの微妙な苦味がアブソーブされてコクがご飯とフュージョンしつつ舌の上でエボリューション!?

 つーか紗衣子、何でお前も驚いてんの??


「おい紗衣子、お前何か足したか?」

「た、足してないわよ!!」

「がつがつがつがつがつ――」


 おー、司がリスみてーにカレー皿に取りついてる、のど詰まらせるなよ。


「さっき味見した時に気がついたのだけれど、これ、ユポゥポテマラグァを使ってるわねー」

「え、母さんなんでその謎野菜の事知ってんの!?」

「あき君、女性というのはねー、生きている限り流行に敏感じゃないとー、いけないのよ?」


 まじか、女子の間じゃ常識だったのか? 南タゥポタポルィ共和国。

 いや、んなわけねーだろ、さっき検索して一件もヒットしなかったぞ。

 口コミか? まさかー。


「生だと独特の苦みのある扱いにくい野菜だけどー、煮込み料理などに入れると数時間で苦みが消えてー、旨味が残るのよねー」


 うっそだろ、そんな取って付けたようなラノベみたいな設定の野菜…有る訳ないだろ?!


「え? そ、そうだったんですか!?」

「そうだったんですか? じゃねえし予習しとけよ紗衣子!!」


 つか、知らないで入れたのかこいつは…。

 他人に食わせる料理に、予備知識もない謎野菜をぶち込むんじゃねーよ。

 びっくりさせやがって…まあ結果的に美味かったから良かったが。


「あら、あき君たら随分と、紗衣子ちゃんと仲がいいのねー?」

「…は? いや仲良くねーし! ぜんっぜん仲良くなんてねーし!!」

「いえ! あくまで審君とは、一応!! いちおう友人ですから!!」

「にーちゃんおかわり!!」


 …まあ、今はとりあえずカレーが美味い。

 あと、もたもたしてると司に全部食われる。


「あき君が作るカレーと大分違う味ね、これはこれで美味しいわねー」

「うまーい! うまーい!」

「司、食べながら喋るのはよくないぞ」


 実際美味いんだが。


「えへへ、喜んでもらえてよかったです!」


 さっきまで緊張してた紗衣子も、なんか楽しそうだな。

 そういやこいつ、いつもは一人でメシ食ってるのかな…。


「お前、次は謎食材使うなよ」

「なんでよ! …え、次?」

「あっ…いやお前が言ったんだろ、テストまで俺んち来て勉強見るって!

 帰ってから準備するのって大変だしさ…う、うち来るときは夕飯うちで食ってけばいいんじゃね!?」


 まあ、大体は俺が作るが…たまに紗衣子も手伝ってくれれば助かるしな。

 そうだよ、それだけの話だよ。

 他意はない、うん。


「たしかに…その方が助かるわよ。

 でも、お母さまは良いんですか?」

「紗衣子ちゃんの都合さえ良ければいいわよー。

 それにー、夕食なんて…あき君に勉強おしえて貰ってるお礼としては、安いものよ」

「お母さま…。やっぱり受験勉強は大変だったんですね」


 母さんがマジトーンで話すとか、そんなにひどかったのか俺。

 おい、俺の母さんと眼で通じ合うな。


「だからー、遠慮せず自分の家だと思ってー、過ごしていいのよ? うふふー」

「そんな、こちらこそ有難うございます」

「さいこねーちゃんおかわり!!」


 母さん、なんか察したやさしい瞳で俺をみないで、そんなんじゃねーから。

 あと、司はちゃんとよく噛んで食えな。


 しっかし普段も静かな食卓って訳でもないんだが。

 一人増えるだけで随分と騒がしくなるもんだな。

 うん、悪くない。

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