15.トラブルへの対応
金銭トラブルの謝罪。
店舗代表として、そんな業務を遂行しようとする本日、出勤にフォーマルな紺色のワンピースを選んで良かったと思いました。
「
彼の
場合によっては、TPOを
私は、現実に生きる人間なのです。
ギグの夢から一ヶ月。
ロリータというドレス・コードで参戦したギグの日から、月彦の体重は増えも減りもせず、心は
お母様は、私が幾分、
最近は低カロリーの許可食を月彦に。高蛋白の主菜を
お心遣いに感謝です。
お陰様で私は健康。月彦は不健康。
日々、不健康で在ることが彼のアイデンティティでして、一種の小康状態を保っていたと言えるでしょう。
それが今朝、急に自殺ごっこを希望しました。しかもリスカごっこです。
デパートの地下食品売り場にて、お詫びの菓子折りにバームクーヘンを購入。
乗り継ぎ時間に数分が許される中、百円ショップで、リスカごっこの必須アイテムである赤いエナメルを三個、調達しました。
乗り換えた電車には風雨が吹き付け、夏の夕刻には不似合いな
本日、雨が降ることを予測して、照り降り傘を携えて来ました。
けれども、豪雨になるなんて予想外。
お客様の御自宅に到着したころには、びしょ濡れでした。
「まぁ、こんな雨の中、わざわざ、すみません」
相談室と店舗の両方に電話をかけたという情報から、
「何処に電話をかければいいのか分からなくて、二箇所にかけてしまったの。
「いいえ。
謝罪を遮って大判のタオルを手渡し、雨の雫を吹くように勧めるマダム。
「あなたの心が伝わりました。クレームじゃなくて感謝の電話をしておきますね」
余剰金とバームクーヘンの箱を快く受け取ってくださいました。
誠心誠意が伝わったのです。
業務を終えて、成果を店舗に電話報告後、月彦の端末にアクセスしました。
すぐに、月彦の
「日芽子さん? そろそろ帰るころだと思って待っているよ」
「それがね、残業が発生して、帰宅が三十分……
電話は唐突に切れました。
悪天候で電波が悪いのか、気を悪くした月彦が一方的に遮断したのか、分かりません。とにかく、一刻も早く帰宅するべきです。
豪雨は上がり、曇天は夕暮れ色。やがて夜の闇を濃くする前。
私が帰宅できたのは十八時四十分でした。
疲労と空腹を忘れさせる、お母様の悲鳴が聴こえます。
「
お母様が大声で彼の本名を呼んでいました。
床に倒れて流血する我が子の姿を見て、平常心を失い、叫び続けます。
「月子、死なないで、お願い」
月彦は救急車に乗せられました。私が呼んだ救急車です。
親子と私を乗せて
月彦は真のリストカットに及んでいました。
キッチンの包丁を使って事に及びました。
何故、待ち切れなかったのですか。
リスカごっこの材料が、私の濡れた鞄の中で湿って窒息しています。
エナメルを買ってきたのに、間に合いませんでした。
二時間後。
浅い傷痕に問題は無く、しかしながら一晩、搬送先の病院に入院することになった月彦。私は彼に付き添います。
お母様は、げんなりと肩を落とすばかり。休息を促したところ、
月彦は病室で、私に心のナイフを向けます。
「日芽子さんが悪いんだ。僕をひとりぼっちにした。果たせない約束なら最初からしないで」
切り刻まれました。
月彦の言うとおりです。定時で帰ると約束して、果たせなかった私が悪い。
「
私が詫びると、彼の態度は一転します。
「日芽子さんは何も悪くないよ。ただ血が見たかっただけなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。