第8話 神龍神殿(3)

 5人はシリンドタウンに戻ってきた。シリンドタウンは相変わらず静かだ。人の気配がない。地獄流しを終えて、天国に行った町の人は、この町を見てどう思っているんだろう。いつになったら再び人が戻るんだろう。生まれ変わったらここにまた住みたいな。


「あの人、どうしてんのかな?」


 サラはここで出会った旅人のことが気になった。今どうしているんだろうか? 飢え死にしてないだろうか?


「もう別の所に行っちゃったのかな?」

「サラ!」


 突然、後ろから男が声をかけた。サラは振り向いた。あの旅人だ。


「あっ、あの時の!」


 サラは驚いた。まだここにとどまっていた。


「また会えて嬉しいよ」


 旅人とサラは握手をして再会を喜んだ。シリンド山に登って以来、会っていなくて、心配していた。


「シリンド山に行ってきた?」

「うん」


 サラは笑顔で答えた。目的を達成し、母に一度だけ会うことができて本当に嬉しかった。


「そうか」


 旅人は笑顔を見せた。無事に戻ってきて嬉しかった。


「一度だけ、お母さんに会えたんだ。地獄流しにあって、ゾンビになっていたけど」

「本当か?」


 旅人は驚いた。母親に一度だけ会えたとは。とても嬉しかっただろうな。


「うん。幸せそうに天国に行った」

「よかったな」


 旅人は死んだ母のことを思い出した。その母も神龍教によって王神龍の生贄に捧げられた。ひょっとして、地獄流しにあった人々の中に母はいたんだろうか?


 旅人は辺りを見渡した。ここにはどんな人の営みがあったんだろう。あった頃に尋ねたかったな。


「いつになったらここに人が戻ってくるんだろう」

「わからないけど、いつかは戻るさ」


 サラは夢に描いていた。いつの日か、再び平和が訪れた時、この町に活気が戻ってくる。


「だったらいいけど」

「大丈夫大丈夫。絶対に戻るよ」


 旅人は肩を落とした。それを見たサラは慰めた。


「そうかな?」

「話が変わるけど、神龍神殿って、どこにあるか知ってる?」

「聞いたことはあるけど、どこにあるかは知らないな」


 旅人は首をかしげた。知ってはいたものの、どこにあるかは知らなかった。


「そうですか・・・」


 結局、旅人にもわからなかった。今日も手掛かりが見つからないんじゃないか? サラは焦っていた。このまま人間が滅亡してしまうのではないか?


「何の力になれなくてごめんね」


 旅人は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「いいよ」


 旅人は泣きそうになった。サラはそんな旅人を撫でた。


「もう行かなければ」

「世界に平和が戻ったらまた会いたいな」


 サラと旅人は抱き合った。平和が戻ったら再び会おう!


 5人はシリンドタウンを後にして、サイカビレッジに向かった。今度こそ神龍神殿の場所がわかりますように。




 5人はサイカビレッジにやって来た。村か相変わらず雪の中だ。とても寒い。人気は全くと言っていいほどない。空襲で住む所を失った。


「あとどれぐらい生き残ってるんだろう」


 サラは避難している人々のことが気になった。あれからどれぐらいの人々が生き残っているんだろう。つい昨日のことだが、とても気になった。


「心配だね」

「うん」


 5人は辺りを見渡した。空襲前はどれだけの人の営みがあったんだろう。どんなに賑やかだったんだろう。果たして、その時の賑わいは戻ってくるのか?


「サンドラ!」


 突然、黒いドラゴンが声をかけた。高校時代の後輩のトムだ。高校を卒業後、サラとは別の大学に行っていた。夏休みの間、実家のあるサイカビレッジに戻っていた。


「トム!」


 サラは久々の再会に驚いた。まさかここで会えるとは。


「元気にしてた?」

「うん」


 トムはサラのことが気がかりだった。リプコットシティもほぼ壊滅状態だと聞いて、とても心配していた。


「こっちは大変だよ。家族はみんな生き残ったんだけど、飢えと寒さで僕しか生き残ってないんだ」

「そんな・・・」


 サラはここでも飢えに苦しむ人々を見た。どこもかしこもこうだ。あさって、世界が救われるとしたら、どれだけの人々が生き残っているんだろう。どれだけの人々と共に喜びを分かち合えるんだろう。


「何日も食べてないんだよ」

「そうなんだ」


 トムががっくりしていた。今日は何も食べていない。食べることができても1日1食ぐらいだ。


「飢え死にそうだよ」

「諦めないで! 私が世界を救うから!」


 サラは肩を落とすトムの背中を撫でた。何とか世界を救うまで生き延びてほしい。そして、平和が戻った喜びを共に分かち合おう。


「えっ!?」


 トムは驚いた。まさか、サンドラが世界を救おうとしているなんて。


「私、空襲を起こした神龍教の神、王神龍を封印するために頑張ってるの」

「サンドラが?」


 トムはいまだに信じられない表情だ。


「うん。世界を救う使命を持って生まれてきたの。あと、私の本当の名前がわかったの。私の名前は、サラ。サラ・ロッシ」

「そうなんだ」


 サラは世界を救う運命を背負って生まれてきた。こんなドラゴンがいるんだ。魔獣の王といわれるドラゴンにも、こんなドラゴンがいるとは。同じドラゴン族のトムは感心した。


「神龍神殿から王神龍の元に行かなければならないんだけど、神龍神殿の位置が見つからないの」

「そうか。そういえば、今はいないんだけど、神龍教の信者って、決められた時間になるといつも同じ方向に向かって祈りを捧げるんだって」


 トムはこの近くに住む神龍教の信者のことを思い出した。決められた時間になると同じ方向に向かって祈りを捧げる。トムはそれを不思議に思っていたが、全く興味を持たなかった。


「それって、本当?」

「うん。何か意味があるのかな?」


 サラは期待した。ようやく位置がわかるんじゃないか?ならば、今すぐそこに行かねば。


「ねぇ、どこに向かって?」

「よく覚えてないな。あんまり気にしてなかったから」


 だが、トムはどこに向かって祈りを捧げているかわからなかった。


「そうか」


 サラはがっかりした。いい所までわかったのに、またしてもわからなかった。


「その話、何か気になるわね」


 結局、この村でもわからなかった。だが、同じ方向に向かって祈りを捧げるのは何か手掛かりになるんじゃないかと思った。


「うん」


 もう夕方だ。今夜はナツメビレッジに泊まろう。5人はナツメビレッジを後にして、ナツメビレッジに向かった。




 5人はナツメビレッジに戻ってきた。もう夜も遅い。暗くてよくわからない。あの美しい家屋はどうなっているんだろう。長老の家も。


 5人は辺りを見渡した。美しい家屋は空襲で壊滅し、焼け野原になっている。ここも空襲の被害を受けていた。ほとんど人影はない。


「ここも壊滅的な被害を受けたのかな?」

「うん」


 サラは拳を握り締めた。こんな辺境の村にも容赦しない。そんな神龍教が許せない。


「こんな辺境の村にも」

「神龍教は容赦ないわね」


 レミーも拳を握り締めた。レミーも神龍教が許せなかった。


「ひどい!」


 わずかに残った人々がボロボロの服を着て歩いている。彼らは元気がなさそうだ。一体何日食べていないんだろう。


「サンドラ!」


 突然、後ろから赤いオオカミが声をかけた。高校時代の友達、アレンだ。


「アレン!」

「元気だったみたいだね。よかった」


 サラとアレン抱き合い、再会を喜んだ。リプコットシティは壊滅状態だと聞いて、アレンはサンドラのことが気になっていた。


「あんなに美しい風景がこうなるなんて」

「どうしてこんなことが起こるの?」


 アレンは肩を落とした。美しい風景で知られるナツメビレッジがこうなってしまうとは。


「ひどいよね」

「神龍教め!」


 アレンも拳を握り締めた。空襲を起こしたのは神龍教だと聞いて、とても許せなかった。以前から、悪い宗教団体だと知っていたが、まさか、こんなことをするとは。


「大丈夫。私が再び平和を取り戻して見せるから。あと、私の本当の名前はサラ。サラ・ロッシ」

「本当?」


 アレンは驚いた。以前からサラはデラクルスさんの養子だと知っていたが、まさか本当の名前はサラだとは。


「うん」

「私、空襲を起こした神龍教の神、王神龍を封印するために頑張ってるの」

「そうなんだ」


 アレンは信じられなかった。サラが神龍教の神、王神龍を封印しようとしているとは。そんなこと、本当にできるんだろうか?


「あさってまでに封印しなければ、世界が作り直され、人間が絶滅してしまうの」

「そんなことになるんだ! それは大変だ!」


 アレンは開いた口がふさがらなかった。空襲で世界中の市町村が壊滅状態になったというのに、それに加えて世界が作り直されて、人間が絶滅の危機に瀕しているとは。こんなこと、絶対に会ってはならない。もっと生きたい。作り直す必要はない。この世界が好きだ。


「信じられない話だけど、本当なの」

「そうなんだ。頑張ってね!」


 アレンは両手でサラの手を握った。アレンはサラに期待していた。サラなら必ず世界を救ってくれる。世界を救ったらまた会いたいな。


「うん。でも、神龍神殿の場所がわからないんだ。そこから王神龍の元に行くんだけど」

「そうなんだ」


 サラは期待していた。場所はわからなかったものの、今さっき行ったサイカビレッジで手掛かりになりそうなことがわかった。そろそろ位置がわかるんじゃないか?


「知ってる?」

「ううん。全くわからない。ごめんね」

「そっか」


 だが、アレンは手掛かりすら知らなかった。サラは肩を落とした。そろそろわかるんじゃないかと思ったのに。明日までに場所を突き止めて、向かわなければ。5人は不安になった。


 5人とアレンは村を歩いていた。ほとんど人が歩いていない。空襲で多くの人が死に、生き残った人々の多くも飢え死にしたんだろうか?


「ここに長老の家があったんだよね」


 サラは長老の家のあった所をじっと見ていた。天国の長老は空襲で壊滅した村を見てどう思うんだろう。悲しんでいるんだろうか?


「サラ・・・」


 誰かの声が聞こえた。サラが後ろを振り向くと、そこには黒いドラゴンの幽霊がいる。長老だ。


「ネルソンさん!」


 サラは驚いた。まさか、また会えるとは。サラはとても嬉しかった。


「久しぶりだ。ずいぶんたくましくなったな。もう君は世界一強いんじゃないかな? 必ず世界を救うと信じてるぞ!」


 黒いドラゴンは姿を消した。サラは少し元気が出た。天国の長老のためにも、世界を救わねば。


 長老の幽霊のいた場所には、1つの宝玉が落ちていた。その宝玉は炎のように赤く光っている。サラは宝玉を手に取った。


 もう夜も遅い。6人はここで野宿することにした。避難する場所はない。


「もう遅いわね」

「今日はここで寝よう」

「うん」


 6人は目を閉じた。明日、世界を救うことを夢に見ながら。




 その夜、サラは不思議な夢を見た。いつも世界を救う夢なのに、今夜は全く違う。真っ白な場所で、辺りには何も見えない。


「サラ・・・、サラよ・・・」


 誰かの声が聞こえる。サラは顔を上げた。そこには、炎竜神マグスがいる。


「マグス様!」


 サラは驚いた。どうして炎竜神マグスがいるんだろう。サラは首をかしげた。


「サラ、奇跡のドラゴン、サラよ。炎竜神マグスだ。大切な話がある。今すぐ霊峰の神殿に来い!」


 マグスは消えていった。サラは呆然としていた。どうして今更霊峰の神殿に行かなければならないのか?




 翌日、あと1日。まだ太陽は見えていない。少し外が明るくなってきた頃だ。泣いても笑っても今日だ。今日、封印しなければ、人間に明日はない。


 サラは崖からナツメ山を見ていた。昨日の炎竜神マグスの声は何だろう。明日、世界が作り直されようとしているのに。どうして来いと言っているんだろう。


「サラ、どうしたの?」


 マルコスだ。朝早く起きて崖を見ているサラが気になった。


「夢の中で、炎竜神マグスが霊峰の神殿に来いって言ったんだ」

「今頃になって何だろう」


 マルコスも驚いた。どうして炎竜神マグスが読んでいるのか? マルコスは首をかしげた。


「神龍神殿に関する重要なことかもしれない。行ってみよう!」

「うん!」


 5人は霊峰の神殿に行くことにした。もしかしたら、神龍の神殿に関する何かがわかるかもしれない。


「行っちゃうの?」


 アレンがやって来た。まだ眠たいのか、目をこすっていた。


「うん」

「頑張ってね!」


 アレンは両手でサラの手を握った。サラは笑顔を見せた。


「明日、世界が救われたら、リプコットシティで会おう! そして、平和が戻った喜びを共に分かち合おう!」


 サラとアレンは抱き合い、明日、リプコットシティで会おうと約束した。アレンのためにも、そして何より、人間を救うためにも、王神龍を宇封印しなければ! サラは決意を新たにした。


 4人はサラの背中に乗った。サラは翼をはためかせ、ナツメ山の霊峰の神殿に向かった。炎竜神マグスが神龍神殿の位置を知っていると信じながら。




 太陽が昇ってきた頃、5人は霊峰の神殿に着いた。登山客はほとんどいない。空襲で世界中の市町村が壊滅状態の中では、こんなことはしてられないからだろう。


「久しぶりね」

「うん」


 サラは先日炎竜神マグスを解放した時のことを思い出した。村長を追いかけてここまで来たな。


「じゃあ、行きましょ」

「うん」


 5人は神殿の入口にある魔方陣に乗った。5人は光に包まれ、炎竜神マグスの元に瞬間移動した。


 光が収まると、そこには縁竜神マグスがいた。解放した時と変わらない姿だ。


「お久しぶりでございます、炎竜神マグス様」


 サラは上を見上げた。炎竜神マグスの姿は何度見てもかっこいい。


「久しぶりだ。ずいぶんたくましくなったな」


 炎竜神マグスは笑顔を見せた。冒険で成長した5人を見てほれぼれしていた。


「ありがとうございます。で、今日はどうしましたか?」

「そなたら、神龍神殿を探してるそうだな。私は世界のすべてを知ることができる。そして私は神龍神殿の位置を知っている。サイレスシティの港の地下だ」


 ついに、ようやく知ることができた。サイレスシティの港の地下にあるとは。おとといの1夜を過ごした所に神龍神殿があったなんて。どうして気づかなかったんだろう。


「あ、ありがとうございます!」


 5人は炎竜神マグスにお辞儀をした。


「うむ? そ、その宝玉は!」


 炎竜神マグスはサラが持っている赤い宝玉を見た。その宝玉に見覚えがあった。


「その宝玉、知ってるんですか?」

「ああ。それは炎竜の宝玉といって、それを持っていると、巨炎竜を何度でも使えるようになるのだ」


 その宝玉は本来、炎竜神マグスが持っていて、霊峰の神殿に奉納されているものだ。だが、悪事に使われることを恐れてナツメビレッジの長老が代々家宝として守ってきたものだ。


「そうなんだ」


 サラは持っていたオーブをじっと見た。そのオーブにはこんな力あるとは。これは今日の決戦に役立つに違いない! 持っておこう!


「ちょっと待って!」


 突然、バズは何かに気付いたようだ。その後ろにある石板が気になった。


「その石板を見させて!」

「うん。いいけど」


 5人は石板の前にやって来た。その石板には、『邪悪なる神現れし時、我、究極の聖魔法を教えん』と書かれている。


「どうしたの、バズ?」


 バズは石板の前で持っていた杖を天高く掲げた。すると、石板の向こうにある壁が開き、新しい部屋が現れた。そこは何年も誰も入っておらず、閉じていた部屋だが、驚くほどきれいだ。


 5人は部屋に入った。その部屋の中央には魔法陣が描かれている。


 バズはその魔方陣の中心に立ち、つえを高々と掲げた。すると、聖なる光が降りてきて、バズを包み込んだ。バズは究極の聖魔法、天変地異を覚えた。あらゆる自然災害を起こし、敵全体に大きなダメージを打与えることができる。


「また1つ聖魔導を覚えたんだ」

「へぇ」


 サラは感心した。きっとこの力も今日の決戦に役立つに違いない。


「寄り道してごめんね」

「いいよ。それが世界を救うために必要になるんだったら」


 謝るバズを、サラは許した。きっとこれも世界を救うための力になる。決戦を前に準備を万全にしておかねば。


「ありがとう」


 バズは笑顔を見せた。


「さぁ、サイレスシティに行こうか!」

「うん!」


 5人は炎竜神マグスの部屋に戻ってきた。5人が立ち去ると、部屋への壁が再び閉じた。この力は世界が危機の時だけに、世界を救う使命を持った聖魔導だけが使うことを許される。


 5人は魔法陣に乗って霊峰の神殿の入口に戻った。徐々に明るくなってきている。今日が決戦の日だ。向かうはサイレスシティ。港の地下に神龍神殿はある。早くそこへ向かわねば。サラは4人を乗せてサイレスシティに飛んでいった。

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