第8話 神龍神殿(2)
5人はエリッサシティに降り立った。先日と同じように、焼け野原と化したエリッサシティを見ると、心が痛々しくなる。記憶を失ってから過ごした街が、あっという間に焼け野原になってしまった。
「サラ!」
降り立つと、パウロがやって来た。パウロは、以前会った時よりも痩せこけていた。もう何日も満足な食事をしてないと思われる。あと何日生きていられるだろうか。世界を救うまでに元気でいてくれるだろうか。サラは不安になった。
「パウロ! 元気にしてた?」
「うん。だけど貧しくて大変だよ」
パウロは元気がなさそうだ。残った人々の多くは飢え死に、もう数えられるほどしかない。これからどうなるんだろう。
「その気持ち、わかるわかる」
サラはパウロを抱きしめた。あと少し待てば、また平和が訪れるから、その時はともに喜びを分かち合おう。どうか、その時まで生きていて!
「また平和な世界が戻るといいな」
「きっと私が平和を取り戻すから、待っててね!」
サラは両手でパウロの手をつかんだ。
「うん。サラが世界を救ってくれると信じてるよ!」
パウロはサラに期待していた。絶対にサラが世界に平和をもたらしてくれる。希望を与えてくれる。
「ありがとう。で、ちょっと聞きたいんだけど、神龍神殿って、どこにあるか知ってる?」
「知らないな」
パウロでもわからなかった。一体どれぐらいの人に聞けばわかるんだろう。
「そっか」
サラはがっくりした。いつになったらわかるんだろう。早く見つけないと世界が作り直されて、人間が滅んでしまう。
「どうしたの?」
「そこに行かないと封印しなければいけない王神龍の所に行けないんだって」
「そっか。力になれなくてごめんね」
パウロはサラに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。サラが世界を救おうと頑張っているのに、自分は何もできない。パウロは自分の無力さを感じた。
「いいよ」
「でも、どうしてそこに行かなければならないの?」
パウロは首をかしげた。どうしてサラがそこに行かなければならないのか。
「空襲を起こした神龍教が世界を作り直そうとしているんだ。そうなると、人間は絶滅してしまう。明日までに王神龍を封印しなければ、世界は作り直されてしまうんだ」
「そんな・・・」
この世界の危機に、パウロは愕然となった。ひょっとしたら、あさってを迎えることができないかもしれない。そうなってしまったら、どうしよう。この世界は暗黒の世界へと変わってしまうんだろうか。
「本当の話なの」
「それは大変だ!」
パウロは少し焦っていた。もし、滅亡が本当に怒ってしまったらどうしよう。まだ、やりたいことがいろいろあるのに。まだ、果たせてないこともあるのに。命を終わらせるのは嫌だ。もっと生きたい!
「だから、王神龍に会わなければならないんだけど、王神龍の所に行くには、神龍神殿から行かなければならないの。だから、神龍神殿の場所を探さなければならないの」
「そうなんだ」
パウロはますます申し訳ない気持ちになった。世界が利きなのに、何も手助けをすることができない。
「でも、どこにあるのかわからないの」
「空襲で大変なのに、この世界自体も大変なことになっているとは」
パウロは空を見上げた。あさって、この空を見ることができるんだろうか。いや、サラが何とかしてくれるに違いない!
「でも大丈夫! 私がこの世界の未来をつくるから!」
サラは両手でパウロの手を握った。パウロは笑顔を見せた。
「ありがとう」
5人はインガーシティに向かった。5人は焦っていた。早く神龍神殿の場所を知らないと。このままでは世界が作り直され、滅んでしまう。早く神龍神殿の位置を知らないと。
5人はインガーシティに戻ってきた。インガーシティも焼け野原になっていた。水の神殿を探しに来た時と比べると、様変わりしていた。街中を走っていた路面電車は壊滅し、車両は全部原形をとどめていない程だ。大陸横断鉄道の終点も、インガー港も、跡形もなくなっていた。ここがインガーシティだったと言っても信じてもらえないぐらいだ。
「戻ってきたわね」
サラは焼け野原となったインガーシティを見つめていた。こんなにも変わるとは。こんなことをした神龍教が許せない。絶対に王神龍を封印してやる!
「ここも焼け野原になってる」
「ひどい! ひどすぎる!」
レミーは肩を落とした。サラと出会った思い出の場所なのに。こんなことあってはならない。絶対に許せない!
「昔はここに島があったのね」
サラはアカザ島のあった所を見ていた。そこには島があったのに。神龍教が島に城をつくり、島は天高く飛んで行った。
「ああ」
「本当にどこに行っちゃったんだろう」
マルコスは拳を握り締めた。こんな美しい島を地図から消してしまった。神龍教が許せない!
「もう元のアカザ城には戻れないかもしれない」
サムは海を見て呆然としていた。一体どこに行ったんだろう。明日、本当に行けるんだろうか。行けなかったら、世界の終わりだ。
「あんなに賑やかだったのに」
バズは焼け野原を見て呆然としていた。バズはここの旅館で過ごした夜を思い出した。サラと過ごした初めての夜。とても楽しかった。でもその思い出の場所もがれきの山となった。思い出の場所をがれきの山にしやがって!
「水の神殿を探しに来たのが懐かしいよ」
サラは水の神殿を探しに来た時のことを思い出した。あの時の裏山は今も残っている。でも、グリードの母がいた家はもうない。
「あの活気が戻ってくるのはいつなんだろう」
「いつか戻ってくるさ!」
呆然となっているバズを見て、サラはバズを肩を叩いた。必ずインガーシティは復興する。元の活気は戻ってくるはずだ。
「デラクルス先輩!」
誰かの声に気付き、サラは振り向いた。赤い九尾の狐がいる。大学の後輩、キアラだ。夏休みを利用して、インガーシティに里帰りしていた。
「キアラじゃないか!」
サラは驚いた。まさかここで再会するとは。
「元気にしてましたか?」
キアラはサラが心配だった。ひょっとしたら死んだのではと思っていた。
「うん。そっちはどう?」
「母を残してみんな失って、母は栄養失調で死んじゃった。結局、生き残ってるのは私だけなの」
キアラの家族は自分と母以外は空襲で死んだ。だが、満足な食事をすることができずに、母は栄養失調で死んでしまった。
「そうなんだ」
サラは世界中の人々が心配になった。この先どうなるんだろう。
「私も飢え死にそうだよ」
キアラは肩を落とした。パウロ同様、キアラも痩せこけていた。
「大丈夫?」
「何とか大丈夫だよ」
キアラは笑顔で答えた。だが、キアラは明らかに苦しそうだ。
「よかった」
「早く豊かになってほしいな」
キアラは豊かになった世界を夢見た。インガーシティが復興し、活気にあふれて、誰もが夢と希望を持っている。
「うん。あと、私、本当の名前がわかったの。本当の名前は、サラ。サラ・ロッシ」
「ふーん。いい名前だね」
キアラは笑顔を見せた。とてもいい名前だ。いつか子供が生まれてきたら、その名前を付けたいな。
「ありがとう。話が変わるけど、神龍神殿って、知ってる?」
「聞いたことあるけど、知らないわ」
キアラも知らなかった。一体どれぐらい回れば知ることができるんだろう。どれぐらい聞いたら知ることができるんだろう。
「そうか」
サラは肩を落とした。こんなにも見つからないのは初めてだ。
「それがどうしたの?」
キアラは首をかしげた。どうしてサラは探しているんだろう。
「今、私、世界を救うために神龍教と戦ってるの。で、世界を救うためには、神龍神殿から神龍教の神、王神龍に会いに行き、王神龍を封印しなければならないの」
キアラは驚いた。サラが世界を救おうとしているなんて。
「えっ!? ロッシ先輩が?」
「うん」
サラは自信気に答えた。
「信じられない! でも、どうして?」
「私はそういう運命なの。特別なドラゴンとして生を受けて、世界の危機を救うために必要な力を持ってるの。そして、その力で世界を救うのが私の使命なの」
サラがこんな運命を背負って生まれてきたドラゴンだったなんて。キアラは感心した。
「そうか。頑張ってね!」
キアラは両手でサラの手を握った。キアラは世界を救おうとしているサラに期待していた。
「ありがとう」
「あの島、なくなっちゃったんだね」
キアラはアカザ島のあった場所を見た。キアラはアカザ島出身で、神龍教が城を建設したことで島を追われ、インガーシティーで暮らしていた。
「アカザ島?」
「うん。私の実家があったの」
サラは驚いた。キアラはアカザ島に住んでいたとは。
「そうなんだ」
「だけど、神龍教がここに城をつくると言い出して、強制退去させられたんだ」
キアラは下を向いた。神龍教によって故郷を奪われて、島は天高く飛んで行った。
「ひどいよね」
サラはキアラの肩を叩いた。キアラは元気がなさそうだ。
「もう故郷には帰れない」
キアラは泣きそうになった。もうアカザ島には帰れない。空飛ぶ城になってしまった。
「もう行かなくては。早く神龍神殿の位置を探さなくては」
「頑張ってね! 私、ロッシ先輩が世界を救うと信じてるわ!」
サラとキアラは抱き合った。3日後、また会おう! その時まで生きていて! そして、平和が戻った時にはともに喜びを分かち合おう!
「ありがとう。頑張るね!」
キアラの応援を胸に、5人はペオンビレッジに飛び立った。今度こそ神龍神殿の位置がわかりますように。
5人はペオンビレッジにやって来た。ペオンビレッジも焼け野原になっていた。大地の祠に向かった時には、数えるほどしかなかった村民は、みんないなくなっているように見えた。人の気配が全くないように見える。みんな死んだんだろうか。
「跡形もない!」
「以前来た時よりずっと寂しくなっている!」
5人は呆然としていた。村民はいなくなり、村の記憶は時間とともに消えていくのでは? 5人は悲しくなった。
「ノーザみたいにそこの人はみんな死んじゃったのか?」
5人はノーザのことを思い出した。ノーザ同様、空襲で住民がみんな死んでしまったのでは?
「そんなことない。わしだけ残っとる」
5人は後ろを振り向いた。そこには長老がいた。
「長老!」
「空襲でわしを残してみんな死んじゃった」
生き残ったのは長老だけだ。長老はペオンビレッジ最後の生き残りとしてここで誰かを待っていた。
「そんな・・・」
「この村は将来、どうなってしまうんだろうか」
長老は肩を落とした。この先、ペオンビレッジはどうなってしまうんだろう。村民はいなくなって、村の記憶は消えていくんだろうか。
「大丈夫さ。希望を失わない限り、いつの日か活気は戻ってくるさ。」
サラは長老の肩を叩いた。希望を失わないでほしい。
「そうかのぉ。こんな険しい所だぞ」
「希望を捨てないで!」
サラは長老を励まそうとした。だが、長老は肩を落としていた。
「神龍の神殿なんて、どこにあるんだろう」
「わしにもわからん」
長老にもわからなかった。どれぐらい巡ったら見つかるんだろう。
「そうですか・・・」
サラは肩を落とした。なかなかわからない。わからないまま、人間は絶滅してしまうんじゃないか?
「どうして探しているんだ?」
長老は首をかしげた。
「世界を救うために、神龍教の神、王神龍を封印しようとしているんです。でも、王神龍に会うためには、神龍神殿から行かなければならないんです」
「そうか。力になれなくてすまんのぉ」
長老は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。サラが頑張っているのに、自分には何もできない。
「封印しなければ、世界は作り直されて、人間は絶滅してしまうんです」
「そんな・・・、そんなこと許されない! 人間が絶滅なんて、許せない!」
長老は驚いた。世界がこんなことになっているとは。
「私も! だから私は戦わなければならない!」
「サラ、頑張れよ!」
長老は両手でサラの手を握った。長老のためにも、必ず世界を救わねば。
「うん!」
4人はサラの背中に乗った。サラはエムロックタウンに着いた。
5人はエムロックタウンにやって来た。エムロックタウンは相変わらず焼け野原になっていた。だが、以前に比べて人が少なくなった。飢え死にしたんだろうか? サラは悲しくなった。
「ここも焼け野原か・・・」
「何度見てもひどすぎる・・・」
5人は呆然としていた。この町に活気が戻るのはいつだろう。
「誰もいない。飢えて死んじゃったのかな?」
「デラクルスさん!」
突然、誰かが声をかけた。5人は振り向いた。リプコット大学のビル教授だ。服はボロボロになっていた。
「教授!」
「里帰りしていたんだが、空襲にあってこんなことに」
ビルは痩せこけていた。大学で講義を受けていた時と比べて様変わりしていた。
「大丈夫ですか?」
「何とか大丈夫だよ。でも、空襲で家族全員失ってしまった。満足な食べ物にもありつけずに、もう飢え死にそうだよ」
ビルは肩を落としていた。もう何日も食べていない。次の炊出しはいつだろう。
「そんな・・・」
サラは言葉が出なかった。あれだけ収入のあった教授がこうなってしまうなんて。とても信じられなかった。
「私、ようやく本当の名前がわかったの。私の名前はサラ。サラ・ロッシ」
「そうなんだ」
ビルはサンドラがデラクルスさんの子供じゃないことを知っていた。
「教授、神龍神殿って知ってる?」
「うーん、知らないな」
あれだけ物知りな教授にも知らなかった。どれだけ巡ったらわかるんだろうか? サラは肩を落とした。
「そうですか・・・」
サラは肩を落とした。どれだけ巡れば見つかるんだろう。
「でも、どうしてそこに行きたいの?」
ビルは首をかしげた。どうしてサラは神龍神殿の位置を探しているんだろう。
「今、世界は作り直されようとしているの。そして、作り直されたら、人間は絶滅してしまうの」
「そんな・・・、そんな事、許せない!」
ビルは拳を握り締めた。人間を絶滅させようとしているなんて、絶対に許せない!
「だから、私、世界を作り直そうという神龍教の神、王神龍を封印して、それを阻止しようとしているの」
「えっ、ロッシさんが?」
ビルは驚いた。まさか、サラが世界を救おうとしているなんて。
「うん。私、そのために生まれてきた特別なドラゴンとして生まれたの」
「そうなのか」
サラにはこんな秘められた力があるとは。ビルは信じられなかった。
「必ず世界を救って、平和を取り戻すから、待っててください!」
「わかった!」
サラは両手でビルの手を握った。必ず平和を取り戻すと誓った。
4人はサラの背中に乗った。サラは翼をはためかせ、キュラータビレッジに向かった。今度こそ手掛かりがつかめることを願って。
5人はキュラータビレッジに戻ってきた。もうお昼だ。キュラータビレッジは相変わらず焼け野原になっているが、以前来た時より人少ない。飢え死にしたんだろうか?
「ここもひどいわね」
サラは肩を落とした。みんなこんな状況だ。どうしてこうなるんだろう。
「人が少なくなってる」
「みんな飢え死にしたんだろうか?」
マルコスは寂しくなった海岸を見て呆然となった。その近くでは何かが焼かれている。遺体だろうか。
「きっとそうだろうな」
バズも肩を落とした。どうして人間がこんな目にあわなければならないんだろうか。
「デラクルス先輩!」
サラは後ろを振り向いた。赤いオオカミがいる。高校の後輩のマリーだ。
「マリー!」
サラは手を振った。マリーは力がなさそうだ。痩せこけて、何日も食べていないようだ。
「大丈夫?」
「うん。何とか」
マリーは元気がなさそうだ。家族をみんな失い、何日も食べていないので、元気をなくしていた。
「そっか」
「もう何日も食べてないよ」
マリーは下を向いた。食べ物が恋しい。毎日3食食べることができたのに、今はなかなか食べることができない。
「そうなんだ」
「もっと食べたいのに」
「わかるわかる」
マリーは泣きそうになった。サラはそんなマリーを慰めた。
「どうしてこんな目に・・・」
マリーは泣いてしまった。空襲で家族をみんな失って、これからどう生きていけばいいんだろう。
「大丈夫。私が救うから」
「本当?」
マリーは顔を上げた。まさか、サンドラが世界を救うなんて。
「うん。あと、私、本当の名前がやっとわかったの。私の本当の名前は、サラ。サラ・ロッシ」
「ふーん」
「で、マリーに聞くんだけど、神龍神殿って知ってる?」
「うん」
マリーは知っていた。知り合いが神龍教の信者で、神龍神殿のことを知っていた。
「どこにあるか、知ってる?」
「そこまでは知らないな」
だが、どこにあるかはマリーにもわからなかった。
「そっか」
サラは肩を落とした。またしてもわからなかった。どれぐらい回ったらわかるんだろう。
「でも、どうして探してるの?」
「あさって、世界が作り直されて、人間が絶滅するかもしれないの。そこから神龍教の神、王神龍に会いに行き、王神龍を封印しなければならないの」
「ロッシ先輩がそんなことをしているなんて」
マリーは驚いた。この世界が危機にさらされていることを。
「それが私の使命だから」
サラは拳を握り締めた。それが自分の使命だ。達成しなければ、人間に未来はない。
「ロッシ先輩って、そんな運命を背負って生まれてきたの?」
「うん。世界が危機の時に生まれる特別なドラゴンなの」
サラがこんな運命を背負って生まれてきたなんて。マリーはすごいなと思った。
「そうなんだ。すごいね」
「ありがとう」
マリーは両手でサラの手を握った。
「絶対に世界を救ってね!」
「わかった!」
サラは笑顔で答えた。マリーのためにも、世界を救わねば。
4人はサラの背中に乗って、シリンドタウンを目指した。あの旅の人は神龍神殿の位置を知っているんだろうか? 5人は不安になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます