第4話 海底神殿(2)

 その夜、5人は昨日と同じ旅館に泊まった。昨日同様、旅館には多くの海水浴客が宿泊している。


 サラとバズはベランダから夜の海を見ていた。


「結局手掛かりなかったわね」


 明日こそは手掛かりを見つけたいと思っていた。


「僕、一生懸命なサラ姉ちゃん、好き!」


 バズは笑顔を見せた。サラの真剣な姿が好きだった。


「どうして敵がバズに直接攻撃するだけで、毒に侵されたんだろう」


 あのゴーストと戦った時に思ったことだ。


「これがバジリスク族のすごいとこなんだよ。それに、まなざしだけで倒すこともできるんだ」


 バズはバジリスク族の特技を話した。


「すごいね」


 サラは感心した。


「ありがとう」


 バズはバジリスクに変身し、サラの頬をなめた。


「くすぐったい! かわいい!」


 サラはバジリスクの頭を撫でた。頬をなめられて、サラは気持ちよかった。


 その時、レミーがやってきた。レミーは空を見上げていた。レミーはどこかを旅している母のことを思っていた。


「レミー、どうしたの?」

「お母さんのこと思ってるの。今、どこを旅してるんだろうって」


 レミーは空を見上げていた。


「お母さんって、どんな人なの?」

「お母さんは学校の先生なの。夏休みになるとある人を探しに行くと言って家を出るの。その間、寂しさを晴らすために友達と遊んでるんだ。でも、お母さんのことが気になるし、自分もその理由をもっと詳しく知りたいの。だから探す旅に出たの」


 レミーは今までの経緯を詳しく語った。


「私の担任の先生もそうだったわ。夏になると、ロンって男を探す旅に出てるの。いじめられていたロンを止めることができなかったから、謝りたい一心で旅をしてるんだって」


 サラは玉藻先生のことを話した。


「そう。私のお母さんもそんな感じだわ。なんだか似てるね」


 レミーは笑顔を見せた。


「あれっ? バズは?」


 サラが横を見ると、今さっきまでいたバズがいなくなっていた。


「サラ姉ちゃん!」


 誰かの声に気づき、サラは下を見た。すると、バズがいた。


「どこに行くの?」

「コンビニ! ちょっとお菓子を買ってくるの」


 バズは元気に答えた。この近くにはコンビニがあり、海水浴客がよく利用している。


「そう。夜は気を付けてね。変な人に絡まれないようにね」


 バズはコンビニに向かっていった。


「そろそろ中に入りましょ」

「うん!」


 バズはコンビニに向かっていた。辺りは真っ暗で、静まり返っている。日中の賑わいがまるで嘘のようだ。みんな帰りの電車で帰ったり、ホテルや旅館でくつろでいる。


 バズは前を見た。コンビニの回る看板が見えた。そこは周りの建物と比べて明るく、若者が多く集まっている。静まり返った街の中で、ここだけは賑わいがある。バズはほっとした。もうすぐコンビニに着くからだ。


 突然、後ろから誰かがバズを抑えてきた。


「よぉ、久しぶりだな、バズ」


 その男は神龍教のペンダントを付けていた。


「お前は、ティム」


 バズはその男を知っていた。自分が神龍教の信者だった頃に兄のように慕っていた12使徒の1人、ティムだ。


「ちょっと来てもらおうか、この裏切り者」


 ティムは強い口調だった。


「やめろ!」


 バズは魔法で抵抗しようとした。だが、封じられていた。


「おい、メルビン。裏切り者のバズを捕まえたぞ!」


 ティムは近くに停まっていたワンボックスカーの中のメルビンに言った。メルビンもまた12使徒だ。


「ご苦労。たっぷりと死の恐怖を味わせてやれ!」


 メルビンは笑顔を見せた。


 バズはワンボックスカーに放り込まれた。バズは抵抗したが、逃げられなかった。乗せられると、手首足首と口を縛り付けられた。


「行くぞ!」


 メルビンはインガー駅に向かった。そこには神龍教専用の貨物列車が待機していて、バズはそれに乗せられて、神龍教に連れられる予定だ。そして、裏切り者として生贄に捧げられる予定だ。それは、教祖の犬神の命令だ。


 その頃、サラはなかなか帰らないバズのことを気にしていた。


「バズ、帰ってこないね」

「うん」


 サムも心配していた。


「もう寝ようよ。あの女性のことをもっと詳しく知らないと」


 マルコスは強気だった。


「寝ている間に、きっと帰ってくるよ」

「そ、そうよね。寝ましょ」


 サラはその時知らなかった。バズが神龍教に連れ去られたことを。




 その夜、サラは変な夢を見た。その夢は10年前に目の前で母を生贄に捧げられたような風景だった。礼拝室には司祭や12使徒、信者がいて、儀式が行われようとしていた。


「俺はこんなことで魔法使いになったんじゃないからな! 世界を豊かにするのが魔法なのに!」

 サラは驚いた。生贄に捧げられようとしてたのはバズだった。


「我らは魔獣の子。我らは父なる創造神王神龍様の子。我らは創造神王神龍様の再来を願い、ここに裏切り者の肉体を捧げる」


 ラファエルは、右手でバズの頭を取り出した。バズは驚いていた。自分の脳が取り出されたからだ。


「裏切り者に神罰を! 我ら魔族に光あれ!」


 ラファエルは叫び、前を向き、信者たちの前で脳を高々と掲げた。それを見た信者は歓喜の雄たけびを上げた。サラの横にいるラルフも雄たけびを上げていた。


 突然、ラファエルの目が赤く光った。ラファエルが魔法でバズの頭を溶かした。


「父なる創造神王神龍様、我ら魔獣の子を讃えよ。今ここに裏切り者の肉体と言霊を捧げる。今こそその素晴らしき姿を現し、神罰を与え、この世界の愚か者を消し去りくださいませ」


 それに続いて、信者たちが、犬神と同じ言葉を発した。信者の目が赤くなった。


 それとともに、バズの体が宙に浮かんだ。バズは下を見ていた。信者の光る目が見える。


 犬神が振り返って、巨大な龍の彫刻に目を向けた。犬神は、右手の杖を上に掲げて、叫んだ。


「父なる創造神王神龍様、ここに生贄を捧げます。どうか蘇りください」


 犬神が言ったその時、竜の彫刻の前に巨大な白い龍の幻が見えた。バズは神炎を浴びて、死んだ。それを見ていた信者たち歓喜の声を上げた。王神龍はバズの魂を見つめ、飲み込んだ。


「父なる創造神王神龍様、我らは魔獣の子。新たなエデンまで、愚かな人間を生贄として捧げる」


 犬神は叫んだ。


「おお我が神よ、父なる創造神王神龍様、我らは魔獣の子。我らに力を与えたまえ。世界に平和をもたらしたまえ。大いなる力で我らをお守りください」


 信者たちは王神龍の彫刻に向かって叫んだ。その声は次第に大きくなっていった。




 翌朝のことだった。サラは昨日の夢のことが気になっていた。バズが生贄に捧げられる夢だ。


「どうしたんだ、サラ」

「バズが生贄に捧げられる夢を見たの」


 サラは暗い表情だった。


「そんな、まさか、連れ去られたのか?」


 マルコスは驚いていた。


「神龍教に連れ去られたかもしれない。裏切り者は生贄に捧げるのが掟だから」


 サムは神龍教の信者だったので、神龍教のことに詳しかった。


「1人少なくなったけど、今日こそはナシアさんの秘密を探りましょ」


 ナシアが何かを隠しているに違いない。突き止めてやる!サラは強気だった。


「サラは強気だな」


 サムは感心していた。


 4人は外に出た。今日は快晴で、昨日より多くの人が海水浴に来ている。みんな楽しそうな表情だ。もうすぐ世界が作り直されて滅亡してしまうかもしれないというのに。全く知らないようだ。


「とにかく、あの家に向かいましょ」


 サラは前向きだった。


「うん!でも、勝手に家に入ったら空き巣と思われちゃうよ」


 マルコスは逮捕されないか心配だった。


「大丈夫だよ。透明になった僕の体の中に隠れればいいさ」


 10年前のように、透明なゴーストになった自分の体の中に隠れれば見つからないと思っていた。


「そうね。サムに賭けるわ」


 サラはサムに信頼していた。


 10分ぐらい歩いて、4人は家に着いた。家はカーテンが閉じていて中が見えなかった。もう朝の9時だというのに。


「仕事に出てんのかな?」

「今日は日曜日だよ。休みのはずよ。それにしても、どうしてカーテンが閉じているのかな?もうこんな時間なのに」


 レミーは首をかしげた。


「おかしいわね」


 サラも不思議に思った。


「あっ、出てきた!」


 3人が玄関を見ると、ナシアが出てきた。女性は買い物袋を持っていた。どうやら買い物に行くようだ。


「買い物に行くのかな?」

「きっとそうだろう」


 ナシアが角を曲がり、いなくなった。女性はこの先にあるスーパーマーケットに向かった。それを見て4人はゆっくりと家の前に移動した。


「入りましょ」


 4人は玄関の前にやってきた。


「どうしよう、鍵がかかっている」


 サラは悩んでいた。玄関には鍵がかかっていた。


「大丈夫だよ。僕の中に入れば通り抜けることもできるんだ」


 サムは笑顔を見せた。


 4人は中に入った。電気は全部消されていて、暗かった。


「そういえば、仏壇のある部屋を調べてなかったわね。見てみましょ」


 サラは仏壇のある部屋に入った。畳敷きの8畳で、中央にはちゃぶ台がある。その向こうにはグリードの遺影がある。中学校2年生の時の写真らしい。


 サムの透明な体の中で、サラは部屋を調べていた。ちゃぶ台の下、タンスの中、物置の中・・・。4人はくまなく探していた。


 その時、サラはグリードの遺影の裏にある壺の中に何かを見つけた。


「ん? 何だろうこれ」

「遺骨じゃないの?」


 それは遺骨を入れる壺だと思っていた。


「かけら・・・」


 サラは壺からかけらを取り出した。壺の中にはかけらが入っている。


「そのかけら、祠につけるやつじゃない? 切り欠きの形がほぼ同じだし」


 サムは昨日言った祠のことを思い出していた。


「行ってみよう」

「うん。」


 4人は静かに家を後にした。音を立てれば周りの人に怪しまれる。4人は家から少し離れたところで透明なゴーストの中から出ようと考えた。


 4人は人通りの少ない路地裏に来た。ここなら顔を出してもいいだろうと思った。


「もういいかも」


 3人はゴーストの中から出た。すると、サムは元の姿に戻った。


「本当にこれで神殿が現れるのかな?」


 レミーは首をかしげた。


「やってみるしかないわよ」


 サラは強気だった。サラはかけらを持ってきたリュックにしまった。


 4人は路地裏から戻ってきた。相変わらず海水浴客が多い。朝に比べたら多くなっている。


「早く祠に行きましょ」


 4人は丘に急いだ。


「うん!」


 と、その時、ナシアとすれ違った。買い物から帰ってきたようだ。ナシアは買い物袋に食料等を入れていた。ナシアも4人を振り返った。昨日会った5人のうちの4人だったからだ。ナシアは怪しそうに見ていた。


 4人は、何も知らないかのように見せようと、振り返らずに丘に向かった。ナシアに怪しまれたくないからだ。


 ナシアは家に戻ってきた。ナシアは買い物袋をダイニングのテーブルに置くと、買ってきた野菜や肉などを冷蔵庫に入れた。


 ナシアはリビングの椅子に座って、考え事をしていた。ナシアは4人のことが気がかりだった。ひょっとして、中に入っていたんじゃないかと思った。


 ふと何かに気づき、ナシアは仏壇のある部屋に入った。ここには、ある人から隠せと言われていた物があった。ひょっとして、あいつらがそれを取ったんじゃないかと思った。


 ナシアはグリードの遺影の裏にある壺を見た。ナシアは驚いた。隠せと言われていた物がなかったからだ。やっぱりあいつらに奪われたのか。ナシアは拳を握り締めた。




 その頃、4人は丘の獣道に差し掛かっていた。相変わらず人気が少なかった。静かだった。


 4人が獣道に差し掛かって早々、敵が襲い掛かってきた。2匹の赤いドラゴンだ。


「食らえ!」


 レミーは4匹に分身して斬りつけた。だがあまり効かない。


「氷の力を!」


 サムは魔法で2匹のドラゴンを氷漬けにした。氷漬けにはならなかったものの、ある程度ダメージを与えることができた。


「食らえ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。ドラゴンは大きなダメージを受けた。


「ガオー!」


 ドラゴンはレミーに向かって炎を吐いた。だがレミーはあまりダメージを受けなかった。火の玉を操ることのできるレミーは炎の攻撃には強かった。


「覚悟しろ!」


 サラは氷の息を吐いた。食らったドラゴンは倒れた。


「グルルル・・・」


 ドラゴンはサラに向かって炎を吐いた。だがサラはびくともしない。


「そんなの、全く効かないわよ」


「雪の力を!」


 サムは魔法で猛吹雪を起こした。残ったドラゴンは凍え、倒れた。


「相変わらず敵がいるね。」


「まるで僕たちを邪魔してるかのようだ。ここに来るな、ここに来るなと。」

「そうね。やっぱりここには神殿を見つけるための何かがあると。」


 祠の手前まで来たその時、今度は3匹のゴブリンが襲い掛かってきた。


「あと少しだったのに」


 サムは悔しがった。


「頑張りましょ」


 サラはサムを励ました。


「食らえ!」


 レミーは鬼火を起こし、相手を包み込んだ。ゴブリンは熱がった。ゴブリンの体に火が付いた。


「炎の力を!」


 サムは魔法で火柱を起こした。1匹のゴブリンが倒れた。


「食らえ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。ゴブリンは少し痛がった。


「ガオー!」


 サラは激しい炎を吐いた。残った2匹のゴブリンは倒れた。


 4人は祠にやってきた。祠は昨日と同じように静かにたたずんでいる。


「やってきたわね」


 サラは言った。サラは昨日のことを思い出していた。


「あのかけら、持ってるよな」

「もちろんさ!」


 サムはかけらを取り出した。


 4人は行き止まりにやってきた。行き止まりの所には台座があり、壁には水の神殿の壁画がある。


「このかけらをこの台座に、と」


 サラはかけらをはめた。すると、台座は光り輝いた。


「な、何だ?」


 サラは驚いた。台座が光り輝いたからだ。台座が輝くと思っていなかった。


 突然、地震が起こった。4人は驚いた。


「こ、今度は何?」


 レミーは驚いた。


「洞窟は危ない。外に出よう」


 サラは洞窟の外に逃げた。それを追うように、3人も洞窟を出た。崩れて下敷きになると思ったからだ。


 4人は洞窟の外に出た。相変わらず地震は続いていた。


「な、何が起こった!」


 海水浴客は自信に驚き、突然現れた神殿に驚いていた。


「あの神殿は何だ?」


 神殿を見た若者は開いた口がふさがらなかった。


「な、何だこりゃ」


 近くを歩いていた老人は驚いた。


 誰もが突然現れた神殿に驚いていた。そして、その神殿を知っている人は、それは決して伝説ではない、本当のことだったんだと思った。


「あれ見て!」


 サラは海の方を指さした。指さした先には、神殿があった。昨日訪れた時にはなかった。その神殿は、壁画のものと同じだった。


「あの壁画・・・」


 サムは今さっき見た壁画のことを思い出していた。あれはまさしくあの壁画のものだった。


「あれが・・・、水の神殿か?」

「きっとそうでしょ」


 サラは確信していた。きっとこれが水の神殿に違いないと。


「すごい。壁画の通りだ」


 サムは開いた口がふさがらなかった。


「とりあえず、早く行きましょ。私の背中に乗って」


 サラはドラゴンに変身して、背中を向けた。3人はドラゴンのサラの背中に乗り、水の神殿に向かった。


 その頃、ナシアはグリードの部屋から水の神殿を怪しそうに見ていた。そして、その手には、グリードの遺影があった。

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