第6話 嫌いなはずなのに ―①
――明side
「あんねあんね、
「どっちって……うえっ」
先輩が
右手にはTシャツ。ど真ん中に大きくドクロが描かれている。
左手にはブラウス。首も
正直言ってどちらもダサかった。
街中で見かけたら二度見、三度見するほどのダサさだ。
ボクの反応を目に、先輩がキョトンとした顔で言う。
「え、うえ? あはは、変な声~。ねえほら、早く右か左で選んでよ~」
「……この二つから選ばなきゃダメなんですか?」
二つの候補を交互に見て、再度ボクを見つめる。
「変かな?」
「変ですダサいです絶対なしです」
「率直すぎない!?」
「何としても止めなければと思ったので」
「そ、そこまでセンスひどいかなぁ……?」
ショボンとしながら姿見を前に二枚の服を見比べる先輩。
ボクの意見を聞いてもなお、まだ諦めがいっていないようだ。
先輩に看病をしてもらってから三日。
ボクと先輩はショッピングモールへ買い物に来ていた。
お礼をしたいと言ったら、「服選びを手伝ってほしい」と言われたのである。
「うぅーん、じゃあちょっと選び直してくるよぅ」
先輩が不服そうに頬を膨らませて去っていった。
ボクは遠ざかっていくその背中を眺めつつここ数日のことを思い返す。
先輩といられる時間を少しでも長くするには、一旦距離を置くのが一番。
けれど結局、なし崩し的にこのようにデートをしてしまっている。
自分の心の弱さには嫌気がさす。あまり先輩を悲しませたくないという思いが勝ってしまったのである。
デートの回数を控えるというのは難しそうだ。
ならば他に、心の距離を作る方法を考えないと。
そうは言っても、なかなかその答えが見つからずにいるのだが……。
「んぅ~~~! 分からない!! どれ選べばいいのか分からないよ~~~!!」
どうやら苦戦しているようだ。
ヘルプに入らないと。
ボクが声のした方へと向かうと、服の並んだ棚を前に
「先輩、今着てる服はどうやって買ったんですか?」
今日の先輩の服装は、リボン付きの白いTシャツに、花柄のロングスカート。
涼し気ながらも可憐さと清純さを演出していてとても可愛らしい。
この服を、このセンスの先輩が自力で選んで買ったとは到底考えづらい。
先輩はビシッと敬礼をして答える。
「基本的に服は真帆ちゃんのチェックを受けて買うか、お母さんに選んでもらってます!」
「さいですか……」
高校生にもなって誰かに服選びを一任しているなんて……。
もし大学進学などで独り暮らしをするとなったらどうする気なのだろう。
「あんね、じゃあさ……」
言葉の途中でスタスタと店内を進んでいき、少し離れたところの服を掲げて見せた。
「こっちはー? すごく可愛くなーい?」
鱗のようなものがレインボーに光る謎の服。
先輩が掲げたことによって、店内がミラーボールに照らされたようになっている。
このオシャレなお店のどこからこんなものを見つけてきたのだろう。
ボクは深く呆れのため息を吐き、精一杯声を張る。
「ですから、ひどい!です……!」
たぶん5メートル先の相手ですら、何か言ったかと首を傾げるほどのボリューム。
これがボクの限界だ。
けれど先輩にはそれでも伝わったようで、残念そうな顔で服を戻していた。
本当にこの先輩には困ったものだ。
優しくて、芯がしっかりとした先輩。
頼りがいがあって、面白くて、話していると楽しくて仕方がない。
けれど先輩のこのセンスだけは、どうも受け入れがたい。
百年の恋も冷めるほどである。
……ん、待って。
恋が冷める?
そうだ、どうして思いつかなかったのだろう。
今までは先輩のいいところばかりを見てきた。
だからドッペルゲンガーとしての段階が進んでしまったのだ。
ならば意図的に、嫌いな部分だけを見ていけばどうなるのだろう。
段階が戻るまではいかなくても、ひょっとしたらこれ以上進まなくなるのではないか。
やってみる価値はありそうである。
今日一日、集中して探していってみよう。
「えー、じゃあ明選んでよ~」
先輩にすがるような目を向けられた。
今はとりあえず、先輩の服選びを手伝わなければ。
まったく、世話の焼ける先輩である。
「仕方がないですね……ほら、今から先輩に服選びの基本を教えますから、こっち来てください」
「え、教えてくれるの? やったー!」
「まず服選びに一番重要なのはサイズで――」
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