4.俺は死霊術士になった!

「スキル鑑定、ですか……?」


 互いの自己紹介を終え、俺の腹の虫が大人しくなってきたところで、対面に座る男性——ガリオン・エンシェントさん(アーシアさんの父親だそうだ)が本題を切り出してきた。


「はい」


 ガリオンさんがテーブルの上で手を組みながら答える。


「お父様、おかわりは?」

「もらおうか」


 空のカップにアーシアさんがお茶を注ぐ。あたりに花のような香りが広がった。


 こうゆう仕事はメイドさんがするものではないのだろうか。彼女はさっきからうつむきながらあたりをウロウロしているだけだ。探し物でもしているのだろうか。


英雄タカマル殿がどのような力を持っているのか、我々もできる限り早く把握しておきたいのです」

「なるほど」


 俺はデザートのショートケーキ……とおぼしき食べ物(ご丁寧に苺っぽい果物が乗っている)をフォークで口に運びながら答える。


 うん、普通にショートケーキだ。めっちゃ甘い。そして美味い。


 他にもパイやサンドイッチのような食べ物もあったけど、やっぱり、見た目どおりの味がした。俺は言語の壁に続いて食文化の壁も無事乗り越えたっぽいぞ。


「お茶のおかわりはいかがですか?」

「あ、もらいます」


 アーシアさんがカップに花の香りのするお茶を注いでくれる。

 メイドさんはそれを手伝うわけでもなく、テーブルの横をただ通り過ぎていった。俺だけしか気にしてないようだけど、この人、本当に働かないな。ひょっとしてポンコツメイドとか?


「神殿の方に準備が整っています。タカマル殿さえよろしければすぐにでも鑑定が行えます」

「鑑定って誰がするんですか? アーシアさん? それともガリオンさん?」


 俺の言葉にガリオンさんが意外そうな顔を作った。


「いえいえ、残念ながら私と娘は鑑定スキルの類を習得しておりません。鑑定は司教様が行います。娘の方はともかく、私は専ら荒事担当なので」


 ガリオンさんは、神星教団が擁する、星騎士修道会と呼ばれる組織の会長を務めているそうだ。

 星騎士修道会は、巡礼に向かう神星教徒のボディガードをしたり、人間に害をなす魔物の討伐を主な仕事にしていると説明を受けた。


 ちなみに、ガリオンさんの奥さん(ようするにアーシアさんのおかーさん)も教団関係者みたいだ。信心深い一家なんだな。


「スキル鑑定って、痛かったりします?」

「少しくすぐったいぐらいで、痛みはありませんよ」


 俺の質問にガリオンさんが微笑む。隣の席に座っているアーシアんさんもクスクスと笑っていた。


 恥の告白になるけど、俺は中学の頃に親知らずの抜歯でギャン泣きして歯医者にドン引きされたほどの痛がりなのだ。その割には、人が痛めつけられたり、人体が派手に損壊する映画は大好きなんだよな。どうしてこうなった。


「どうなさいますか? タカマル殿」

「そうですね……」


 スキル鑑定か。これで、セイドルファーさんの授けてくれた【加護】の詳細が分かるんだろうか。今のところはっきり実感できるのは、言語翻訳機能(?)くらいだ。

 

 そもそも、今の俺ってどうなってるんだ? セイドルファーさんは生きてるワケでも死んでるワケでもない確率的なゾンビとか言ってたけど、ここでピンピンしている以上、俺の可能性は生の方へ収束したって解釈でいいんだよな?


「突然、見知らぬ土地に召喚されたうえ、英雄と呼ばれ戸惑う気持ちも理解できます。もし、心の整理がつかないようなら、鑑定は後日にでも。幸い、ここには相談役カウンセラーもおります。不安や心配を打ち明けてみるのも良いでしょう」


 ガリオンさんはそう言うと、アーシアさんの方に視線を送った。


「私は相談役も担当しております。遠慮なさらず、何なりとご相談ください」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。スキル鑑定、受けますよ」

「そうですか……。でも、無理はなさらないでくださいね?」


 食器の片付けを始めたアーシアさんが、俺を気遣うような表情で言った。いつの間にかメイドさんは消えていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆



 場所は変わって、神殿の聖堂。

 ガリオンさんの説明によると、俺はここに召喚(厳密にはセイドルファーさんに転送)されたらしい。


「それでは、これからスキル鑑定の儀式をおこないます」


 厳かな雰囲気を漂わせながら司教のロッシオ・フォーチさん——ガリオンさんよりもずっと年上の白い髭をモジャつかせたおじーさんだ——が言う。


 俺の正面に立ったロッシオさんが右手を上げると、掌に緑色の光が灯った。

 それを俺の頭の上にかざす。くすぐられたようなこそばゆさが全身を駆け抜けていった。


「むむむ……」


 老司教が低い声で唸る。何だか、表情が険しい。ような気がする。

 彼は俺に背を向けると、アーシアさんとガリオンさんを呼んだ。

 三人は俺から離れた場所に移動して、何やら相談を始めた。にわかに雲行きが怪しくなってきたぞ……。


 ガリオンさんの表情が、苦虫を口いっぱい頬張ったような渋面に変わる。アーシアさんは大きく目を見開くと両手で口を覆う。ロッシオさんが視線を空中に彷徨わせる。

 うわ、何、その反応! マジで怖いんだけど!!


 俺が思わず椅子から腰を浮かせると、ガリオンさんがやってきて言った。


「タカマル殿、落ち着いて聞いて欲しい」

「は、はい……」

「鑑定の結果、タカマル殿の所持スキルが判明した」

「ど、どんなスキルだったんですか……?」

「…… EXエクストラランクの死霊術ネクロマンシーと出た。タカマル殿は最高レベルの死霊術士ネクロマンサーのようだ」


 ガリオンさんが鎮痛な面持ちでそう告げると同時。

 老司教の隣でアーシアさんが卒倒した。


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