第5話 登別温泉でのハプニング

真一と由貴は登別駅から路線バスで登別温泉バスターミナルへ向かい、徒歩で今宵の宿に向かった。

由貴は前日の青森で真一が予約していた旅館へ電話し、空き状況を確認したところ、空いていたので予約を入れた。食事も真一と一緒に部屋で食べる変更もしていた。


チェックインを済ませ、仲居さんの案内で一旦各自の部屋へ向かう。


由貴が真一の部屋にやって来た。


由貴「おじゃまします」

真一「どうぞ」

由貴「今日は楽しみだね(笑)」

真一「一緒に泊まる相手が違うで(笑)」

由貴「今はいいの、しんちゃんで」

真一「彼氏に怒られるわ」

由貴「私がフリーだったらね…しんちゃん(笑)」

真一「冗談キツいわ…」

由貴「それよりしんちゃん、少し顔色悪くない?」

真一「え?」

由貴「大丈夫?」

真一「うん、いまは大丈夫やけど…」

由貴「そっかぁ…、私の気のせいか…」

真一「温泉はもう入れるらしいから、入って来ようかなぁ…」

由貴「じゃあ、私も入ろ。ここは混浴ではないんだね…」

真一「貸切風呂はあるみたいやけど…」

由貴「貸切風呂、空いてたら一緒に行かない?(笑)」

真一「だから、彼氏に怒られるって」

由貴「顔が赤いよ、しんちゃん(笑) 冗談だよ(笑)」

真一「そんなことしてたら、由貴ちゃんが東京駅でのことが、今度は立場が逆になるよ」

由貴「そうだね…。彼と行きたかったなぁ…」

真一「晩飯食ってから、ゆっくり電話したらいい」

由貴「うん。ありがとう」


真一と由貴はそれぞれ乳白色の湯殿の楽しんだ。硫黄泉で保温効果があり、これから寒い季節にはもってこいの温泉である。


部屋に戻り、夕食をとる。

仲居さんが一品ずつ出してくれる。

登別周辺の海の幸や山の幸、出逢いものを食した。


食事も終わり、布団を敷きに仲居さんがやって来ると、由貴が自分の部屋に戻り、彼氏と電話で話しに行った。

仲居さんが布団を敷きながら真一に話す。


仲居「あの、ちょっと顔色がよろしくないようにお見かけいたしますが、大丈夫ですか?」

真一「えぇ、こんなもん(これくらい)かと思います」

仲居「そうですか…。お疲れになってらっしゃらなかったらいいのですが…」

真一「ありがとうございます」



一方、由貴は彼氏と電話をしている。


由貴「じゃあ、なんであの場所にカナがいたの? おかしいじゃん。あんた、カナと付き合ってるの? 何が違うのよ? 肩組んでたじゃん。それのどこが違うの?」


由貴が鋭い剣幕で怒っている。


由貴「私がどこにいるかって? そんなのあんたに関係ないでしょ。私を差し置いてカナと一緒に九州へ温泉行こうとしてたんじゃないの? だから私はカナに譲ってあげてのよ。こんな私にまだ悪者にする気なの? どこにいようが、私の勝手じゃないの❗」


その頃真一は、仲居さんが指摘した顔色が悪くなってきた。


真一「アカン、ヤバイかも…」


真一は明らかに体調を崩していた。

真一がフロントに電話をかける。


真一「もしもし」

フロント「いかがなされましたか?」

真一「すいません、風邪薬ありませんか?」

フロント「ございますが…いかがされましたか?」

真一「ちょっと体調が悪くなって…」

フロント「そうですか。そしたら、これから風邪薬と体温計、それから汗をかかれるかと思いますので、替えの浴衣も何着かお持ちいたします」

真一「申し訳ありません」

フロント「いえいえ、少々お待ちくださいませ」

真一「すんません」


しばらくして、フロントの男性従業員が真一の部屋を訪ねてきた。


フロント「お加減大丈夫ですか?」

真一「夜分遅くに申し訳ありません」

フロント「いえいえ、とりあえず体温計で検温してください」


真一が体温計で検温する。しばらくして…


真一「え、39度?」

フロント「あー、熱が高いですね…。とりあえず風邪薬と替えの浴衣、それから氷枕もお持ちしましたので、今日はごゆっくりお休みくださいませ」

真一「夜分遅くにご迷惑をおかけして申し訳ありません」


フロントの男性従業員が真一の部屋を退室した後、真一は風邪薬を服用した。そして、そのまま床についた。


真一「参ったなぁ…。明日大丈夫なんやろか…」



一方、由貴はというと…


由貴「だから私を陥れておいて、まだ私のことで文句があるの?」


由貴はさらにヒートアップしていた。彼氏との話し合いは、折り合いがついていないようである。由貴も血圧が高いようだった。由貴はこれ以上血圧が上がらないようにも、冷静になるよう自重した。そして、彼氏にこう言った。


由貴「あのね、ちょっと話しても折り合いがつかないから、少し冷却期間を作ろ。2週間待ってくれる? わたしも冷静になって考えるから、それまでは連絡してこないで。カナにもそう伝えて。2週間経ったら、また私から連絡するから…」


由貴は彼氏が何か話していたが、強引に電話を切った。由貴は彼氏との電話で疲れきっていた。


由貴「もう一度温泉入ろう…」


由貴は再び温泉に浸かった。ここは北海道・登別温泉…。由貴は仙台から新幹線で真一の旅についてきている。東京に戻って彼氏と話し合おうかと思ったが、さっきの電話でその考えはなくなった。そこで、真一が北海道を旅するまでの間、真一に同行し、東京に戻ってから話し合う方が得策と考えたのだ。この2週間で彼氏の対応はどうなるのか、不安ながらも登別の名湯に浸っていた。真一に相談しようとも考えたが、夜も更けていて明日にしようと考えた由貴だった。真一が高熱で倒れていることも知らずに…。



夜中、真一が目を覚ました。全身汗をかき、浴衣は濡れていた。トイレに行き、戻ってから枕元の水を飲んだ。体温計で検温する。


真一(36度5分。熱が下がったか…)


真一は新しい浴衣に着替え、床についた。旅館でもらった風邪薬が効いたようだった。




翌朝、由貴は自室で寝て目が覚めた。

眠気眼で携帯電話を見る。彼氏と親友のカナからメールが入っていた。


彼氏『由貴、誤解を招くようなことをして本当にゴメン。2週間待つから、落ち着いたら連絡ください。待ってます』


親友・カナ『翔くん(由貴の彼氏)から話を聞きました。私が話すと言い訳に捉えられてしまうと思うので、東京に戻ったら話をさせてください。2週間冷却期間を設けるって、翔くんから聞いています。私も了解したので、由貴が東京に戻ったらちゃんと事情をお話します。でも私は由貴と翔くんの邪魔をしているのではないことだけは理解してほしい。それだけは信じてほしい…』


メールを見た由貴は、真一の部屋へ行き、真一と朝食をとる。


由貴「しんちゃん、おはよう」

真一「あ、おはようございます」

由貴「ゆっくり眠れた?」

真一「ん? 寝たよ」

由貴「そっかぁ」

真一「眠れた?」

由貴「うーん、なんとか寝たよ」

真一「そうか…。実はなぁ…」

由貴「どうしたの?」

真一「ん? 昨日、寝るときにしんどくなってなぁ…」

由貴「えっ?」

真一「39度熱があったんや」

由貴「大丈夫なの?」

真一「昨日の夜遅くに、フロントに連絡して、風邪薬もらって飲んで、氷枕と替えの浴衣を持ってきてもらって寝たんや。夜中に汗だくになって目が覚めて、トイレに行ってから体温計で検温したら36度5分まで下がったんや」

由貴「よかったぁ~。もう大丈夫なんだね?」

真一「うん」

由貴「じゃあ、今日はどこへ行くの?」

真一「列車で登別から札幌を通り越して小樽へ行くんや」

由貴「小樽かぁ…。いいなぁ…」

真一「行き先は何も決めてないけどね…(笑)」

由貴「しんちゃんの行き当たりばったりの旅も、おもしろいね。ガイドブックにもない、オリジナルな旅」

真一「でも、行ってる所はガイドブックに載ってる所へ行ってるけどね…(笑)」

仲居「失礼致します」

真一「どうぞ」


仲居さんが部屋に入ってきた。


仲居「おはようございます」

真一・由貴「おはようございます」

仲居「フロントの者からお聞きしました。堀川さん、やっぱり体調が悪かったのですね」

真一「お騒がせしました」

仲居「いえいえ。私が昨日『お顔色が悪い』ように見えてお声がけしたので、少し気になっていたのですが、今朝出勤してフロントの者から聞いたのでビックリしました」

真一「ご迷惑をおかけしました」

仲居「いえいえ、元気になられて良かったです。昨日の夕食も少し残されていたので…。朝食は食べられそうですか?」

真一「はい、よろしくお願いいたします」

由貴「しんちゃん、私が彼と電話してる時にそんなことになってたんだ…」

真一「うん」

由貴「でも元気になってよかったぁ」

真一「あぁ…」


真一と由貴が朝食を食べはじめた。


真一・由貴「いただきます」

仲居「どうぞ」


仲居さんがご飯をよそう。


仲居「ご飯のおかわりありますから、遠慮なくおっしゃってください」

真一「ありがとうございます」

由貴「ありがとうございます」


朝食には魚、味噌汁、卵焼き、佃煮海苔…と朝の定番の献立。でも宿で味わうと一味も二味も違う。


真一「熱が下がったから、食欲も出てよかったぁ」

仲居「ホント、昨日の夕食の時と全然違いますね(笑)」

真一「ご飯おかわりください」

仲居「はい」


真一がご飯のおかわりをした。


仲居「温泉は、朝9時まで入れますので、もしよかったら夜中汗をかかれていると思いますので、入られたらいかがですか? 登別の湯は保温効果があり、これからのご旅行でも寒くても、体は芯から暖かいままかと思います」

真一「じゃあ、仲居さんのオススメに従います」

由貴「私も温泉に入って来よう(笑)」


朝食を済ませた後、真一と由貴はそれぞれ温泉に浸かった。

真一は昨夜発熱し風邪薬を服用後、汗をかいた体を洗い流して、仲居に勧められた通り、登別の名湯に浸かって、保温効果を高めると共に、これまでの疲れを癒すように時間いっぱいまで登別の湯を楽しんだ。

由貴も同様に、昨夜の電話と今朝見たメールの事を忘れるかのように、登別の名湯を時間いっぱいまで楽しんだ。


温泉から上がり、身支度をして、チェックアウトをした。真一は昨夜の発熱で迷惑をかけたとして、支配人を呼んでもらうようフロントに申し出た。すると、支配人がやって来た。


支配人「おはようございます。いかがされましたか?」

真一「昨夜は熱を出してしまい、夜分遅くに皆様にご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした」

支配人「いえいえ、とんでもありません。回復されたとお聞きしまして安心しておりました」

真一「また改めて伺わせていただきます」

支配人「わざわざご丁寧にありがとうございました。恐れ入ります。駅へ向かわれるとお聞きしておりますので、駅までお送りさせてください」

真一「いえいえ、とんでもない」

支配人「いえいえ、送らせてください」

真一「何から何まで申し訳ありません」

支配人「どうぞ、お連れ様もこちらの車にお乗りください」

由貴「すみません」


真一と由貴は来賓用の黒塗りの高級セダンタイプの車に乗り、支配人自ら運転し、登別駅まで送ってもらう。


支配人「昨晩はさぞ心細かったのではないですか?」

真一「そうですね…」

支配人「でも回復されたので、よいご旅行になられば…と思います」

真一「ありがとうございます。また改めて伺わせていただきます」

支配人「お待ち申し上げております」

由貴「良かったね、しんちゃん」

真一「うん」

支配人「今日はこのあとどちらへ行かれるのすか?」

真一「今日は小樽へ向かいます」

支配人「そうでしたか。楽しいご旅行を続けてください」

真一「ありがとうございます」


装甲しているうちに、登別駅に到着した。


支配人と挨拶を交わし、別れる。支配人の車を見届けて駅に入る真一と由貴だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る