第41話 バカな勇者
「何を考えてるんだ、君たちは!!?」
その後、警察が駆けつけ、コンビニ強盗の件は、何とか一件落着!……したかに思えたが、皇成を初めとした、
「あの拳銃が、たまたまニセモノだったからよかったものの! 拳銃とナイフを所持した犯人に挑もうなんて、無茶が過ぎる!! 下手したら命を失うところだったんだぞ! しっかり反省しなさい!!」
コンビニの側に止められたパトカーの中で、暫く事情聴取を受けた三人は、その後、背の高い30代くらいの刑事に、注意を受けていた。
だが、刑事の言うことは最もだった。拳銃を持った強盗に丸越で飛びかかるなんて、まさに、命を粗末にするようなもの! しかも、下手をすれば、強盗ともみあった末、他の客が撃たれていた可能性もある。
だが、その後反省する皇成だったが、正直、ここで一番災難なのは、その先陣を切った皇成ではなく、その皇成の同類と思われた、四月一日と鮫島だと思う。
第41話 『バカな勇者』
◆◆◆
「矢神! テメーのせいで、俺達まで怒られたじゃねーか!?」
その後、警察から解放された鮫島は、パトカーが去った後、隣にいた皇成の胸ぐらを、思いっきり掴みあげた。
その様子は、酷くお怒りで、まさに荒れ狂う龍の如く!
だが、学校にいる時とは違って、リーゼント姿ではないからか、少しだけ見た目のインパクトは劣っていた。
とはいえ、その鋭い目つきは、相変わらずなもので……
「ご、ごめん、鮫島くん!」
「ゴメンじゃねー! 俺が助けてなきゃ、今頃、腹ぶっ刺されてたぞ!」
怒号が響く中、皇成は、ふと先ほど間のことを思い出した。
確かに、あの場で鮫島が出てこなかったら、自分は死んでいたかもしれない。いや、死ぬことははい。なぜなら、矢印さまが、怪我人がでないと采配していたから。
なにより、あの時の皇成には、全てが見えていた。
店員が警察を呼べなかったことも、犯人がナイフを所持していたことも、そして、男に掴みかかってても、怪我人が出ないということも。
むしろ、動かなければ、あの女の子が怪我をしていた。
だからこそ皇成は、動いたのだ。
怪我人をださないために──…
とはいえ、そんな皇成の考えを説明したところで、きっと誰も信じない。
「矢神先輩、鮫島先輩の言う通りです。今回は、たまたま運が良かっただけですよ。もう、今後、このような無茶はしないでください。正直、バカなのかと思いました」
「え!? バカ!?」
「はい、バカです」
「そうだ!
鮫島と四月一日から、ことある事に、バカだの、無鉄砲だの言われ、皇成は苦笑する。これは、かなり最悪なレッテルを貼られてしまったかもしれない。
だが、その時──
「パパー!!」
と、先程、泣いていた女の子の声がした。
その声に、三人が目を向ければ、心配して駆けつけたのか、スーツ姿の父親らしき人が、女の子を抱きしめていた。
しかも、今はまだ目立たないが、その女の子の母親は妊娠中らしく、妻と娘とお腹の子の無事を確認して、父親は安心したように暫く二人を抱きしめていた。
(よかった。無事で……)
そして、その親子の姿を見て、皇成は、改めて頬を緩ませた。
例え、周りからどんなにバカなことをしたと罵られても、皇成は気にならなかった。
だって、矢印様のおかげで、あの家族を悲しませずにすんだのだから──…
とはいえ、四月一日と鮫島を巻き込んだことに、変わりはなく
「あの、ごめんな、二人とも。無茶ことして……」
その後、皇成が素直に謝れば、二人は顔を見合せ黙り込んだ。
自分は、矢印様のおかげで、結果がわかっていたが、この二人は、全くわからないのだから、かなりの神経を使ったと思う。
「本当に、ゴメン。でも、協力してくれて助かった。四月一日くんも、警察に連絡してくれてありがとう。それに、鮫島くんも、スゲーな! 俺、あんな綺麗な一本背負い、初めて見た!」
「……っ」
そういって皇成が笑えば、鮫島が、急に大人しくなった。
なにより、怪我人が出ないことはわかっていたが、皇成自身、鮫島に助けられるとは思っていなかった。
「本当にありがとう! マジで、カッコよかった! 鮫島くん、空手かなんかやってたの?」
「っ……別に、かっこよくなんかねーよ。空手はやってたけど」
「あ、やっぱ、そうなんだ。……スッゲーキレイに決まってたし。それに、俺みたいに弱っちいやつじゃ、きっと勝てなかったから、本当に助かった!」
自虐交じりに笑いかければ、その後、鮫島は、皇成からあっさり手を離した。そして
「……そんなことねーよ、正直俺は、矢神の方がスゲーと思った」
「……え?」
「俺は、拳銃持ってるってわかった瞬間、動けなくなった。それなのにお前は、臆することなく向かっていって……なんであんなことができるんだよ!? 神なのか!?」
「いや、さっきバカって言ったよね?」
どうした、鮫島!?
打って変わって、突然、尊敬の眼差しを向けてくる鮫島に、ちょっとツッコミたくなった。
だが、鮫島は、本気で凄いと思ったらしい。
「矢神、俺はずっとお前のこと地味で冴えない底辺だと思ってきた。それなのに、俺の攻撃を交わしたばかりか、強盗相手にビビることなく! やってることはバカだが、とにかくスゲー奴だってわかった! さすがは、姫奈さんが認めた男だ!!」
「…………」
あれ? なんか、凄いリスペクトされてる?
バカだけど、すごいやつだと思われてる。
ていうか、それは褒めてるのか!?
「いやいや、ちょっと待て! 俺なんて底辺のままだから! はっきりいって、なんにも変わってないし!」
そう、姫奈に釣り合う男になろうと決心した皇成だったが、そう簡単に変われるはずがなかった。二人の格差はこれまでと変わらず。それに、皇成だって、ちょっと家で筋トレしてみたり、ファッション雑誌を買ってみたりした。だが、はっきりいって、いつまでも底辺な自分より、今の素のままの鮫島くんの方が、ずっとイケメンだ!
「ていうか、鮫島くん、なんで学校にリーゼントで来てんの!? 絶対、今のままがいいって!」
「はぁ? うるせーな。これには深いワケがあるんだよ」
「深いワケ?」
すると、その言葉を聞いて、皇成と四月一日が、同時に首を傾げれば、鮫島は、真面目な顔をして話し始めた。
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