勇者の役割

「勇者はそれぞれ、神妖精しんようせい族の巫女を連れてた。と言うより、神妖精しんようせい族の巫女を魔王のところに送り届ける為に勇者は作られるの……

 でも、それを悟られてドラゴン族を操って勇者を殺し神妖精しんようせい族の巫女を攫った……

 それを偽装する為に、勇者と巫女を別々にしたりもしたけど、それも全部失敗に終わった……

 今、残っている巫女は私を含めて三人だけ……

 だから私は、魔王に捕らえられる訳にはいかない……捕らえられて力を封じられたら、魔王を倒せないから……」

 ポメリアが語る<真相>を、私は茫然としながら聞いた。正直、彼女の言うことがどこまで本当なのか私には分からない。だけど、少なくとも彼女が話に聞いていた神妖精しんようせい族そのものの姿をしてたとこは間違いないし、彼女の話を信じたとしても私には大きな影響もないことだと思ったから、彼女の言ったことを前提として考えることにした。

「分かった。私があなたをドゥケのところまで連れて行ってあげる…!」

 そう決心する。

 羽があるなら飛んでいけばいいじゃないと思うかもだけど、神妖精しんようせい族の羽に見えるそれはあくまでこの世界を満たしてる<力>を集めて取り込むための器官なので、空を飛ぶための羽じゃないらしい。飛べなくはなくても、蝶のようにひらひらと舞うだけで、風に逆らって力強く飛ぶことはできないって。

 だったら、歩いていくしかないよね。

 こうして私は、ポメリアを伴って西へと向かって改めて歩き出した。夜は魔族が現れるかもしれないし危険なのでなるべく動かずに息をひそめ、とにかく日が出てる間に移動する。

 あまり急峻な山じゃない地形だったから歩く分にはそんなに困らなかったけど、とにかく自分達が今どのあたりにいるのかが分からなくて先が読めないのは精神的にきつかった。

 それでも、とにかく西へ西へと進む。いずれどこか、人里か、かつて人が住んでいたところに出ることを信じて。

 夕暮れ、そろそろ日が沈むからということで今日はここまでと思った時、私の背筋をゾクリとしたものが奔り抜けた。その私の視線の先にいたのは、

「スケルトンウルフ…?」

 そう。死んだオオカミが魔力によって魔物としてよみがえった怪物。

 これも生きてるオオカミに比べれば力は劣るけど、死も痛みも恐れないから厄介な相手だった。

「ポメリア、私から離れないでね…」

「うん…」

 彼女の返事を確認して剣を構える。

 三匹か……油断さえしなければいける……!

 剣にポメリアが<祝福>を与えてくれて、魔物を倒す武器に変える。彼女のそれも、善神バーディナムのものよりはささやかでも、ある程度までの魔物になら十分効果がある。

 その上で、敢えてこちらからは仕掛けずに、向こうから襲ってくるのを待ち、一匹ずつ確実に倒していったのだった。


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