露天風呂

 アッバ湖北端での戦闘も、私達の圧勝だった。ただ今度は、戦線を下げた王国軍とは合流せず、そのままキャンプすることになった。団員達のストレスを考慮しての判断だった。あと、王国軍の人間同士での不測の事態を回避するというのもあるらしい。

 さすがに昨日のこともあって、もうテントによる野営に不満を漏らす者もいなかった。私達が今までどれだけ恵まれてたかっていうのも実感したのもあると思う。

「贅沢言ってちゃ罰が当たるよね…」

 アリエータがそう言って困ったように微笑わらってた。

 湖の水を汲んで湯を沸かし、それで交代で湯あみをすることになった。でもその時、団員の一人が言った。

「私の故郷いなかでは、こうやって風呂に入ったりもしたんですよ」

 と言い出して、湖に流れ込む河の一部を石で囲い、そこに焚き火で焼いた石を放り込んで湯を沸かした。露天風呂だ。

「お~、これは良い!」

 ライアーネ様をはじめ小隊長達が先に入って具合を確かめてくれて、私達もご相伴に預かることになった。

 なんだかまるで湯治にでも来たみたいな雰囲気になった。

「おお! これは絶景だな!」

 とか言いながら、リデムとポメリアを伴ったドゥケも現れた。三人ともすっぽんぽんで前すら隠してない。

『ええええ!? 待って待って…!』

 私はちょうどお風呂に入ってたところだったから、慌てて背中を向けた。ちらっとドゥケの体が見えてしまって胸がドキーン!となった。一瞬だったけど、全く無駄のない、まるで彫刻のような均整の取れた体だってのが分かってしまった。

 三人は湯を浴びて躊躇うことなく入ってくる。私と一緒に入ってた団員達は「きゃあきゃあ♡」とはしゃいでドゥケ達を囲んでる。

 ワケ分かんない…!

「ドゥケ様、いつ見ても立派なお体です…♡」

「リデム様もお美しい…!」

「ポメリアはフニフニで可愛い~♡」

 とか何とか。

 今さら文句言うつもりもないけど、さすがに、

『…ついて行けない……』

 と思ってお風呂を上がろうとした私を、

「もう出るの…?」

 ってポメリアが呼び止めた。思わず振り返ると彼女が縋るような目で私を見てる。

「ちゃんとあったまらないと風邪ひくよ……」

 なんて心配そうにも見てくる。

『ああ、そんな目で見ないで…!』

 とか思っても、抗えなかった。

「はい…すいません……」

 そう言って戻った私を、みんなが穏やかな目で見てた。

「ごめんな。もうちょっとずらした方が良かったな」

 ドゥケもそんな風に優しく言ってくる。ここでは私だけが彼に対して心を開いてないのに、みんな私を異端扱いするでも邪魔者扱いするでもなかった。何となく疎外感を感じていたのも、私がそう解釈してただけだった。

「いえ…いいです……」

 彼に対して心を開くというのはまだできないけど、なんだかイライラとかはしてなくなってたのも感じてたんだよね。


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