第9話幼馴染の恋⑤

 あの後、朱音からは何の報告もない。

 こちらから聞くべきか否か。


 うだうだしながら聖夜。

 初雪が降った日。

 俺は特になんの予定も無い。


 いっそバイトを入れたかったが、先輩の道谷みちたにさんが率先してバイトを入れていて人は足りていた。

 俺と同じような脇役臭のある先輩なんだが、この先輩は同じ年の湯沢ゆさわ伶奈れな先輩にチラチラと意識されているのに気付いていない。


 なんでも二人は同じネトゲのフレンドで親友だと道谷先輩は言っているが、俺には恋愛フラグが立っているようにしか見えない。

 湯ノ沢伶奈先輩はちょっと地味目だが、肌が綺麗で身形を整えたらかなりの美人になることを俺は知っている。


 ちなみに聖夜のこの日、二人は終了時間まで一緒にバイトをしている。


 はー、良いなぁ。

 そこで俺はこういう瞬間に恋が良いものだと感じるのだと気付かされる。

 報われない恋はやっぱり辛いわけだが。


「お? 朱音」

「あ、倉橋」

 買い物帰りの途上、雪が降り出した公園の街路樹の下。

 軽く風も吹き始めた。


「待ち合わせか?」

「分かる?」

 頬を赤く染めて赤いマフラーで顔を隠すようにする朱音。

 分からなかったが、今、分かった。


「相手、御影でいいか?」

 コクリと頷く。

 その様子が優しく降る雪とマッチして幻想的ですらあった。


「そうだったらいいなとは思ってた」

 俺は正直に言う。

 良かった。


 俺の心に安堵が広がる。


 その反応に不思議そうに、朱音は俺を見返し尋ねた。

「どうしてここまで気にかけてくれるの?」


 そうは言われても、ビックリするほど大した理由はない。

 なので、本音をそのまま伝えた。


「幼馴染への憧れの一つかな。やっぱ、なんだろ。小さい時からの想いって叶ってほしいと思うだろ?

 ……本当にそれだけなんだ」


 ここからは口にしないが、俺が恋を嫌いな理由の一つ。


 恋は叶っても叶わなくても直ぐに終わる。


 でももしも……いいや、願うなら。

 終わらない恋もあってもいいと思う。


 そんな様子の俺を見上げて、朱音は正統派黒髪美少女の姿に反してニッと笑う。

「やっぱ倉橋っていいヤツだな!」

「……そうありたいとは思うよ」


 いいヤツ止まりのやつは恋愛では報われないお決まりパターンだけどね。

 木々にも雪がかかって、その下で街路樹に照らされて笑う朱音は綺麗だった。


 俺もニッと笑ったところで御影はまだかとふと辺りを見回す。

 少し離れた公園の入り口で、御影が固まっているのが見えた。


 あー、お決まりの勘違いパターンかな?


「おーい! 御影〜! 彼女が待ってるぞ!

 早く来い!」


 彼女が別の男と笑いあっているからって勘違いはさせねぇよ?

 戸惑いながらこちらに真っ直ぐに。

 側に来た御影の肩をニヤニヤしながら叩き、


「くだらない勘違いなんかすんなよ?

 あと絶対大事にしろよ?」

 俺、幼馴染が不幸になる話嫌いなんだよな。


 御影は頷く。

 彼は真っ直ぐ朱音を見ていて朱音は真っ直ぐに御影を見ている。


 俺は片手をひらひらする。

 二人ともこちらを見てないだろうけど。


 こういうことがあると、ほんと恋って良いもんだよなと思える。


 我ながら単純だけど。

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